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第33話 コボルト討伐依頼を受けて

グリュードさんの紹介で宿泊した宿での翌朝、夕食と同様に美味な朝食を堪能した俺はこの宿屋を暫く拠点にすることを決めると5日分の宿泊費である6000Gを女将さんに支払い、身支度を整えると今日こそは仕事を探すべくギルドへと向かった。


食事の後でイディア(齢が近い事から呼び捨てで良いと言われた)に聞くところに因ると、ドラグノアギルドは丸1日中、深夜になっても開いているという事らしい。


どうせ依頼を受けるなら力試しも兼ねて、報酬が良いCかDランクの討伐依頼を受けた方が良いと考えた俺は、掲示板から【ランクC コボルト10体の討伐 報酬:15,000G 20GP】に補足として【コボルト5体につき、報酬:2000G 10GP加算】という美味しい依頼を見つけて手に取ると、それを持って窓口へと行くとエティエンヌでもディアスでもない軽い感じの男が窓口に座っていた。


「おはようございまッス。昨日の騒ぎのクロウさんでしたっけ」

「えっと?」

「そういえば顔を合わせてませんでした。僕はディアスの交代要員のガッシュ言います」

「変な意味で有名になってしまいましたが、魔術師兼剣士のクロウです」

「僕が言うのもなんですが、エティを嫌わないでやってほしいッス。アレは可也ドジやけど、真面目な娘なんで」

「別に嫌うなんて事はありませんよ。逆に俺が迷惑をかけて嫌われてなければ良いんですが」

「二人して同じ事を悩んでいるようですな。あっと仕事の事でしたな、討伐目標となるコボルトはドラグノアの門を出て、北に向かって壁沿いに半日ほど歩いた森の中に生息しています。個々での戦闘力は大したことないんですけど、集団で掛かられると可也不味い相手なんで注意してください」


そのやり取りの後、俺はギルドを出て近くにある市場で食事代わりとなる果物を200G分購入すると、ガッシュに言われた通りに街の門を抜けて城壁沿いに北へ北へと歩いて行った。


歩き続けて2時間程が経過したころには城壁が霞む程度の所まで来ていたが、一向に討伐目標であるコボルトが生息しているという森は見えてこなかった。


代わりと言ってはなんだが、ウルフやスライムなどといった低ランクの魔物に襲われて此れを1体も逃がすことなく撃退して、核や牙といった討伐証明を手に入れたが数が大したこと無かったので纏まった金になるかどうかははなはだ疑問だった。


森に到着するまでに脳内図鑑でコボルトの事を検索してみると…………。



【コボルト種】

姿を隠しやすい木の陰や、岩の蔭を利用して襲い掛かってくる。

少なくとも5体以上で纏まって行動するため、決して油断してはならない

倒した人間が落とした装備品を使う種もいるので注意が必要。



姿形で言えば、人間と犬をくっつけたような感じってとこか。

森の中なら【ファイア】や【サンダー】は火事になるかもしれないから御法度。


【ウィンド】も木々が邪魔になるから無理だし、かといって木々が乱立する森の中では剣を振り回せないか。


リュリカの時のように【ブリーズ】で凍らせても良いんだけど、一撃で仕留めないと逃げられでもしたら面倒な事になりそうだし、【ウォーラ】はハッキリいって濡らすだけだしな。


此処は【マジックウェポン】のタイプ:弓で木々に隠れて、一体ずつ確実に仕留めるしかないか。

そうこう考えて歩いているうちに俺の目の前には、鬱蒼と茂って日の光が殆ど森の中に差し込んでいない薄暗い森が見えてきた。


時折、森の中から風もないのにザワザワとした葉が擦れるような音がする事から、何者かが森の中で動き回っている事は確かのようだ。

俺は森の外で【マジックウェポン】を唱えて左手首に連射式のボウガンを出現させると、人型であるコボルトと間違えて本当の人間を打ってしまわない様にと思いながら、森の中を匍匐前進で進む。


約1時間ほどかけて生茂った草木の中を300m進むと、眼と鼻の先に10体ほどのコボルトと思われる魔物が口元を血で真っ赤に染めながら、人間と思われし物体を食していた。

コボルト同士で共食いしてると考えたかったが、折れた剣や血で赤く染まった衣服の切れ端が草木に引っ掛かっている事から、俺の予想は正しかったと確信してしまった。


俺は目の前の風景に吐き気を憶えながらも片目を瞑り狙いを定めて、未だ遺体に齧り付いているコボルトの首筋を悲鳴を上げる隙を与えずに打ち抜いた。


仲間のコボルトも何があったのか分からないまま、俺の手にある弓によって次々と射られてゆく。


【マジックウェポン】の威力は、射ったコボルトを貫通して後ろの木に穴を穿つほどに強大だった。


「1、2、3…………6、7、8体か。残りの2体は何処だ? グッ!?」


前方ばかりに気を取られていたのが災いしたのか、左足の脹脛ふくらはぎに何か鋭い物を突き刺された痛みが走った。


「くそっ! 後ろに眼が行ってなかった」


直ぐに足を引っ込めて体勢を立て直そうとするが、文字通り一足遅かったようで右足の脹脛と太腿も同じように貫かれた。


俺はあまりの痛さに気を失いかけたものの咄嗟に舌を噛むことで意識を取り戻し、弓が付いている左手だけを後方に向けて目標を眼で捉えぬままに闇雲に連射した。


すると後方で『ギャッ』という声と共に何者かが吐血し、俺の背に覆いかぶさってきた。

俺は後方に居るのが人間でありませんようにと心の中で祈ると、激痛に苛まれる両足を引き摺りながら腕の力のみで其処から脱出すると、左手の弓を解除して右手で剣を構えながら後方を確認する。


すると其処には右手で細い剣を持ちながら、上半身に十数個の穴を穿たれて絶命するコボルトの姿があった。

自身が攻撃したのがコボルトであったと安心した俺は、激痛が走る両足を何とか引き摺りながら太い木の根元に背中を預けると出血が多くなっている足に対して【ヒール】を唱える。


未だ負った事のない痛みに混乱しているのか、普段から多くて困っている魔力がこんな時に限って働かず、中々傷が思うように塞がらなかった。


「くそっ! 普段から魔力が多いくせして、如何して肝心な時に魔力を発揮しないんだよ」


それでも此れ以上血が流れ出ない様にと服の切れ端で太腿を固く縛りつけて止血をし、治療を始めて10分近くが経過した頃には、傷が殆ど治りかけていたものの流した血の量が問題だった。


成人男性は体重の7~8%の血液が流れているというから、俺の場合は体重が75kgだから大体5~6リットルってとこか。その内の20~30%の血液を失うと可也危険な状態になるというが、流した血の量は相当なものとなっている。単純に目分量で考えても、1リットルは流れ出てしまったんじゃないだろうか。


「意識が……途切れてしまう。此処で眠ってしまったりしたら本当に死んでしまう」


治療の途中から血を多く流し過ぎた所為なのか痛みをあまり感じなくなり、意識が朦朧としてきたのだ。


俺は手持ちの果物を吐き気を憶えながらも1個でも多く食すことで、手っ取り早く血液を増やすと朦朧としていた意識を取り戻す事に成功した。


本当はタンパク質豊富な食物を摂る事が一番いいのだが、此処には果物とコボルトの死体以外何もなかった。


身近にあるタンパク源として、一時期は魔物の肉を焼いて食べようかとも考えてしまったが、流石に人道的に反するとしてそれは諦めた。



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