第31話 一件落着?
最初に俺が辺境の生まれであり、世間体に疎い事。
多種族の血を引いている事。
次に魔術師の冒険者の希少価値を知らなかった事。
ギルド窓口での挨拶の時に俺が魔術師だという事を喋った所為で、各々の冒険者達からパーティーにスカウトされて、其れが元で先ほどの騒ぎに発展してしまったこと。
そしてギルドマスターであるジェレミアさんが帰って来る前に2人が騒ぎを納めようとして、件の魔法玉という代物を使ったこと。
俺が一つ一つ説明するたびにエティエンヌとディアスが、まるで首振り人形のように首を縦に振っていたことがなんとなく笑えるが、これで俺の言いたいことはすべて言い終えたのだった。
「話はよ~く分かった。アンタ達はアンタ達なりに事態を修復しようと考えていたんだね。でも魔法玉を使うのは少しやり過ぎだね」
「あの質問なんですが、その魔法玉ってどういう代物なんですか?」
「魔術師であるクロウには無用の長物になるけど、これは魔法の使えない一般人が魔法を使うための道具さ。といっても1回限りの効果しかないけどね。魔道具店に行けば、何も入っていない空の状態で500G、魔法が充填された状態なら、中に入っている魔法の種類にもよるけど、大体3000~5000Gで売ってるよ」
魔法一発で5000Gだなんて、なんというボッタクリ。
でもまぁ、これ1個で命が助かるなら安い物か。
「だから、この子らはあの騒ぎの為だけに可也の金を無駄にしてしまったという訳さ」
「因みに使ったっていう魔法玉にはどんな魔法が入れられていたんですか?」
「えっと…………これは【シャイニング】だね」
シャイニングっていうと、暗闇で灯りとして使う魔法だよな。
一際眩しい光を放つから、目くらましにはもってこいってとこか。
「この中に魔法を封じ込めるにはどうすれば良いんですか?」
「城の魔術師連中がやっているところを見た感じでは、出っ張りに指を置いて魔法を唱えてたね。でも、そんなこと聞いて一体如何するんだい?」
「【シャイニング】なら俺も使えますから、此処で充填しますよ。それとも別の魔法の方が良いですか?」
「そうしてくれると私も助かるんだけど、どうして其処までしてくれるんだい?」
「先ほども言ったように、騒ぎの大本の元凶は俺なんですから、少しでも償いが出来たら良いなと思いまして」
「そうかい…………じゃあ御言葉に甘えて。【ウォーラ】の魔法は使えるかい? できれば【シャイニング】なんかよりも【ウォーラ】を入れてくれた方が助かる」
「分かりました」
俺はそう答えると言われた通りにカプセルの出っ張りを親指で押さえながら、半ば不安を持ちながらも魔力調整した【ウォーラ】を唱えた。
すると、まるで俺の手から水が流れてカプセル内に溜まっていくような感じで、少しずつ水嵩が増えていく。
結果としてその事に見とれてしまっていた所為もあり、少量の水を溢れさせてしまったが無事成功となった。
【ウォーラ】が封じ込められた魔法玉は俺の手の中で鮮やかな青色の光を放っている。
「ありがとう、助かったよ。此れで御咎めなしと言いたいところなんだけど、罰は罰だしね。今回は特別に此れだけで許してやるよ」
ジェレミアさんは拳骨をエティエンヌとディアスの頭に1発ずつ落とすと『これで許す』と笑いながら言い放った。
「これでこの件は方が付いたようだし、後は今回のような事が二度と起こらない様に皆に注意しないとね」
エティエンヌとディアスは涙目になりながら頭を両手で抱えていたが、ジェレミアさんが『行くよ』と声を掛けると何事もなかったかのような足取りで付いて行った。
俺も同様に遅れないようにして付いて行くと、ジェレミアさんは先ほどの騒ぎが起こったギルドホールで立ち止まった。
「事のあらましはこいつ等に聞いた。騒ぎを止める為だけに魔法玉を使うのは流石に行き過ぎた行為だとは思うけど、原因を作ったのは間違いなくお前たちの方だ。従って此処に新たに規約を設ける事にする」
最初は心無い一部の冒険者から魔法玉を用いたエティエンヌに対して、罵詈暴言が浴びせられていたがジェレミアさんが睨みつけると途端に静かになった。蛇に睨まれた蛙というか、なんというか…………。
「ギルドマスターの名に於いて貴様等に命令する。今後一切、クロウをパーティーに誘う事を禁ずる! ただしクロウの方からパーティー編成の申請があった場合のみ、此れを許可するものとする」
それでも一部の冒険者たちから『横暴だ!』との声が寄せられるが、その内の一人がジェレミアさんの肉体言語で強制的に黙らされると今度こそ、誰も口を開かなくなった。
「分かったなら、さっさと解散しな。何時までも暇そうに屯ってんじゃないよ」
ジェレミアさんは其れだけを言い残すと冒険者を一瞥してギルドの奥へと消えていった。
俺は今までの凄まじい光景に呆けていると先程の大男と、その大男と言い争いをしていた女性が話しかけてきた。
「いや~~兄ちゃん、悪かったな」
「全くよ。でも、たったあれだけの騒ぎで魔法玉を使うなんて、ちょっとやり過ぎよね」
「エティエンヌさんの話によると、ジェレミアさんが帰ってくるまでに騒ぎを収めたかったみたいですよ?」
「まぁ確かにな。もし姐さんが騒ぎの途中で帰ってきたかと思うと…………」
「ちょっと! 怖い事言わないでよ」
ジェレミアさんの倍はありそうな体格を持つ、目の前の大男が此処まで怖がっているジェレミアさんって一体。
此処で『パーティー』という聞きなれない言葉を皆が口にしたことで、それがどういう意味になるのか聞いてみる事にした。
「あの一つ聞きたいことが有るんですが、『パーティー』って何の事ですか?」
「兄ちゃん、魔術師のくせしてパーティーを組んだことが無いって……命知らずも良いとこだな」
「パーティーっていうのは意気投合した2~4人がチームを組んで、一つの依頼を受ける事よ」
「一つの依頼を最大4人で? その場合、報酬とかGPはどう配分されるんですか?」
「依頼書のGPが仮に20だとすると、チーム全員に20GPが加算される。ただしランクに応じての数値の増減は無効となる」
「依頼の報酬は人数で山分けだけどね。特に10,000Gを3人で分ける時なんて、必ずと言っても良いほどに喧嘩になるわ」
「ギルドは其処まで関与してくれないからよ。俺たちはチームを決める時にリーダーを作って、報酬を100G単位で分けて余り分をリーダーに渡すようにしてんのさ。割り切れる場合は一人一人均等になるけどな」
ということは3人パーティーで報酬が10,000Gだとすれば、リーダーが3,400Gで後の2人が3,300Gという事になるわけか。
「ところで兄ちゃん、今日の宿は決まってんのか?」
「いえ、今朝この町に到着したばかりなので。それと俺の名前はクロウです」
「なら兄ちゃ……いやクロウ、俺が泊まってる宿に来ねえか?」
「ちょ、ちょっとずるいわよ!」
「早い者勝ちだ。当然だろ? それに今ここで騒ぎを起こすのは非常に不味い」
「そ、そうね。分かったわ」
2人は恐る恐るギルドの奥に繋がる『命が惜しければ、関係者以外立ち入り禁止』と書かれた扉を見ると、今まさに誰かが其処から出てこようとしているところだった。
大男はそれがジェレミアさんだと思ったのか、俺を掻っ攫うようにしてギルドを後にした。
女性の方も自分たちを追いかけるようにして冷や汗を垂らしながらギルドを出た。
「人の顔を見て逃げ出すなんて失礼な人たちですね…………ヒッ!?」
奥の扉から出てきたのはジェレミアさんに殴られて出来た頭の瘤を、右手で摩っていたエティエンヌだった。
ただ、登場した途端にジェレミアさんの肉体言語によって別の意味で黙らされた冒険者の一睨みで涙目になりながら奥へと消えて行ってしまったが。