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第29話 主人公争奪戦

城の地下でセルフィの弟、エルヴェと顔を合わせた俺とセルフィは元の謁見の間へと戻って来ていた。


戻ってきた途端に、相変わらず罵り合いをしていたヴォルドルム卿が話しかけてきた。


「おお、クロウ殿。結界術は如何でしたかな?」

「それがセルフィ曰く、俺の魔力値が大きすぎて結界術を行使することが出来ないそうなのです。聞くところに因るとエルフの魔力は世界一らしく、そのエルフの結界術が効かないという事は帝国の禁術も俺には通用しないという事らしいです」

「なるほど、そうでしたか。それでは私が此処にクロウ殿を連れてきた事は無駄だったのですね…………」

「いえ、俺も王都ドラグノアに少なからず興味があったので、無駄とか言わないでください」

「そう言って頂けると助かります。それはそうと此れから如何なさるのですかな?」

「デリアレイグに居た時と同じように、暫くはギルドで依頼をこなしながら此方で生活していこうと思います」

「そうですか…………時に騎士として国に仕える気は御座いませんかな?」


俺がヴォルドルム卿のその言葉に黙って首を左右に振ると、静かに頭を下げる。


もう此処での用は済んだとばかりに玉座に座るヴィリアム陛下に頭を下げると、踵を返して謁見の間を後にした。

セルフィは如何するのかと思っていると、彼女もまた俺と同じように頭を下げると、俺の後をついて来た。


『セルフィは此れから如何するんだ? 弟が此処に居ると分かったんだし、暫くはこの町に住むのか?』

『ううん。もうちょっと世界をまわった後、エルフの里に帰るわ。弟エルヴェは残念ながら、見つける事が出来ませんでしたって報告もしなきゃならないし』

『えっ? でも…………』


この時点でエルヴェの隠し部屋へと続く、地下階段の直ぐ傍まで来ていた俺は【エルヴェが此処に居ると分かっているのに】と思いながら、衛士が警備している階段を目で見た。


『確かにエルヴェは此処に居るけど、連れ出す事は出来ないわ。弟をこれ以上傷つけたくはないし』




長く暗い階段を下りた先で、たった一人で椅子に座るエルヴェ。


両足と片腕を無くし、眼も耳も潰された状態で自身では身動きできず、更に心許せる存在は同じエルフ族であるクレイグさん唯一人。


しかもクレイグさん以外がエルヴェに手を触れようものなら、発狂して泣き叫ぶといった具合で…………。


そうこう話している間にも俺たちの足は進み、とうとう城を出て街の門まで100mたらずというところにまで行き着いていた。


『見送りは此処まででいいわ。じゃあね、またどこかで会える日を楽しみに待ってるわ』


セルフィは其れだけを言うと、此方を振り返ることがないまま、ドラグノアの街を出て行った。


「さて、俺も此処で生活していかないといけないから、手っ取り早くギルドを探して依頼でも受けるか。それとも宿探しの方が先かな」


俺は沈んでいた気持ちを無理矢理持ち上げると、いざギルドを探そうと息巻いていたが、ふと視線を上げると目の前に武器防具屋、道具屋、冒険者ギルドが並んでいた。

更にそこから広場を横切った先には食料品店も数多く、並んでいた。


「やっぱりギルドも店屋も人通りが激しいところにあるのが当たり前か。そりゃそうか、裏通りに店があっても『怪しい店』としか見えないからな」


俺は誰に文句を言う訳でもなく、独り言を呟きながらギルドへと足を踏み入れた。

ギルドに足を踏み入れて一番最初に思ったことはといえばデリアレイグのギルドと比べて圧倒的に広く、人が多いという事だろうか。


掲示板の依頼書を見ている冒険者も十人十色で、中には男女3人で相談しあいながら依頼書を手に取るのもいる。

早く依頼を受けたいと逸る気持ちを抑えながらも、まずは挨拶をという事で近くの窓口へと足を進めた。


「すいません。ちょっと良いですか?」


半ば緊張しながら窓口へ声を掛けると、見るからにボリュームのある身体つきをした女性が応答した。


「はい、御依頼事ですか? それとも報酬の事についてですか~~?」

「い、いえ、先程デリアレイグからドラグノアに到着したクロウと申しますが、暫くはこのギルドで依頼を受ける事になるので一言御挨拶をと思いましてお伺いいたしました」


なるべく見ない様にと思っているのだが、どうしてもそのボリュームのある身体に眼が釘付けとなり言葉もしどろもどろになってしまう。


「それはそれは御丁寧に。私は当ドラグノアギルドで1番窓口を担当させて頂いております、エティエンヌと申します。呼び難ければ『エティ』とお呼びしてくれても良いですよ~~~」


これが素の状態なのか、それとも芝居がかっているのかは分からないが、第一印象で言えば可也疲れる女性だ。


「今後の参考にさせて頂きますので、御自身の戦い方を御教え願えますか~~~」

「あ、はい。剣術と魔法をといったところですね」

「そうですか~~剣と魔法を…………って魔法!?」


エティが此れまでの穏やかで聞いていて疲れる口調から、まるで人が変わったかのように大声で『魔法』という言葉を口にして何を思ったのか窓口から身を乗り出して俺に迫ると、ギルド内で掲示板を見ていた冒険者たちが一斉に俺へと視線を浴びせた。


「な、なんだ!? 一体どうしたっていうんだ」


ギルド内に居る冒険者たちから一斉に視線を浴びたことで『俺が何かしたんだろうか』と思っていると、俺のすぐ傍に立っていた、頭髪の眉毛もない2m近い体格の髭面の大男が俺に話しかけてきた。


「なぁ、兄ちゃん。魔法を使えるっていうのは本当か?」

「は、はい、それなりに使うことが出来ますが。何か御用でしょうか」


向かい合っていて威圧感が半端ない大男に迫られ、半ば逃げ腰となりながらそう答えると大男は不意に腕を振り下ろしてきた。


俺は『なんで暴力を振るわれなければならないんだ!』と思いながら、これから受けるであろう衝撃に身を固くしていたのだが、何故か何時まで経っても痛みはやってこなかった。

恐る恐る眼を開くと、其処には強面の顔からは想像もできないほどの笑みを浮かべた大男が俺に手を差し出していた。


どういう意味かと思っていると、大男は想像もしていなかったことを口にした。


「兄ちゃん、一人で此処に居るという事はパーティー組んでないんだろ? どうだ、俺と組む気はねえか?」

「え? えっと」

「ちょっと! そこの筋肉脳筋馬鹿男、何馬鹿な事言ってんのよ。私が先に目を付けていたんだから、当然私の物よ」

「筋肉脳筋馬鹿男ってな誰の事だ! この阿婆擦れが」

「なんですって!?」


目の前の大男と、とても冒険者には見え無さそうな女性とが俺を取り合って喧嘩を始めてしまった。


俺は先ほど挨拶に行った窓口で此れは如何なっているのと聞くと…………。


「魔術師の方が冒険者となっているのは珍しい事ですからね。皆、クロウさんの御力を貸してほしいと思っているのですよ。パーティーに魔術師が居るか居ないかで、戦術が大きく変わりますからね。薬草や毒消し等の道具も不要となりますし」

「俺以外になんで魔術師が居ないんだ?」

「成人した魔術師さんが少ないというのも理由の一つなんですが、力のある魔術師は御城の方達がスカウトしてしまいますからね。まぁ、安定した収入が見込めるという点では、城に務められる方が良いですからね」

「『成人した魔術師』ってどういう事? まるで成人したら魔力が無くなるみたいな言い方じゃないか」


そう言うとエティエンヌは『何を言っているんだ、この人』みたいな目で俺を見てきたので、最近まで辺境で暮らしていて世間体に疎いという言い訳をすると、納得がいったかのように表情を明るくした。


「誰もが知っていて当たり前の事を知らないのは可笑しいと思いましたが、そういう訳があったのですね」

「で、さっきの質問に戻るけど『成人した魔術師がいない』というのはどういう事?」

「魔力を体内に宿しているのは、5歳~14歳までの10年間とされていまして其処から成人に近くなるにつれて魔力量は減っていき、ギルドに登録することが出来る年頃になると魔力は完全に無くなってしまうのです」

「でもデリアレイグには魔法学園があるじゃないか。あれは魔術師を養成する学校じゃないのか?」

「国は少しでも魔術師を増やそうと画策して魔法学園を設立し、成人しても魔術を使える者を1人でも多く育てようと思っているようですが、その甲斐もなく学園の卒業者で成人して魔術師となったのは未だ2桁の台に届いても居ません。ちなみにこのドラグノアにも魔法学園はありますよ? デリアレイグに比べて規模は小さいですが」

「なるほど、だから此処までして魔術師を取り合う事になってしまうのか」


俺の目の前では相も変わらず、先程の大男と女性を含めた10人が言い争いを続けている。


装備している剣や斧などを使わない辺りが、まだ大人と言えるだろう。


この人たちを無視して外に逃げ出そうかとも考えたが、掲示板の前からギルドの入口までを占拠して言い争いが続けられているのでギルドから外に出る為には、其処を突っ切らなければならなかったため、俺は窓口の前から一歩も動けずにいたのだった。


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