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第28話 エルヴェと呼ばれるエルフの現状

今回の話は主人公以外の2人共がエルフなので、会話文は『』で統一してあります。

ヴォルドルム卿の馬車で無事に王都へと到着した俺たちは、ヴォルドルム卿の実の弟であり、ドラグノア王でもあるヴィリアム陛下に謁見した。


その時にヴォルドルム卿とヴィリアム陛下との兄弟喧嘩というか、醜い罵り合いというか一騒動はあったものの、帝国の人を操るという禁術に対応すべく、城に居るエルフに会うために陛下の側近であり、宰相でもあるクレイグという老人の道案内で城の地下深くへと降りていくのであった。


その途中、クレイグさんがエルフであると判明したものの目立った混乱はなく、俺とセルフィは無事に最下層の目的地へと到着したのであった。


『御疲れ様でした。此処が目的でございます』

『言ってはなんだけど、可也陰気くさいというか。何というか…………』


俺たちが着いた場所は縦横が凡そ10mほどで壁には一面、火のついた蝋燭が灯されていた。

奥の壁に頑丈な扉が見える事から、目的のエルフは向こうの部屋に居るのだろう。


俺とセルフィは足場に気を付けながらゆっくりと奥の扉に近づいてノブに手を触れた瞬間、此処まで俺達を先導してきたクレイグさんが其の身を割り込ませた。


『ヴィリアム陛下も言っておられましたが、この先で見聞きしたことは他言無用に願います』

『この先には重大機密事項があるんでしたっけ?』

『それもありますが、この部屋の主であるエルヴェ殿は常に命を狙われ続けています。此処にエルヴェ殿が居る事が帝国に知られれば、その命を狙って大挙として押し寄せてくることでしょう』

『この命に掛けて口外しない事をお約束します』

『私もエルフの祖に誓って約束します。だから早くエルヴェに、弟に会わせて!』


クレイグさんは俺とセルフィの誓いに黙って頷くと、奥の部屋へと続く扉を静かに開いて行った。


『エルヴェ! 此処に居るの? 返事をして』


セルフィは扉を開けるや否や真っ暗な部屋の中へと飛び込むと声を大にして弟の名を呼ぶが、一向に返事は帰ってこなかった。


『今、部屋の明かりを御付けいたします。どうか驚きになられぬよう』


クレイグさんはそう言って手に持っていたランタンから火のついた蝋燭を取り出すと、前の部屋の同じようにして壁際にある蝋燭と部屋の中央にある暖炉に火を灯すと、思わず悲鳴を上げてしまいそうな光景があった。


『な、なんてこと!?』


火が灯された暖炉の前には椅子に腰かけた少年の姿があったのだが、椅子の座席からズボンの裾がヒラヒラと揺れている事から恐らくは両足は無いと思われた。

更に上半身に薄い布を纏った少年の左腕は肩口から壊死したかのような状態になっており、四肢の中で唯一残っている右腕もあらぬ方向へと折れ曲がっていた。


『これは貴方たちの仕業なの!? どうしてこんな酷い事が出来るの!』


セルフィはその悲惨すぎる光景に言葉を無くして跪くと、此処まで俺達を案内してきたクレイグさんを恨みが籠った眼で睨み付け、そう言い放った。


『私が誇り高き同族を、このような目に合わす筈がないでしょう! これは今から20年ほど前に、帝国で拷問を受けていたエルヴェ殿を助け出した事から始まります』

『拷問?』

『その頃の帝国は1000年前を思い起こすかのように、非道な実験を連日連夜繰り広げていたようです。其処でエルフが生まれもった高魔力に目を付けたのでしょう。帝国の学者達は、たまたま街道を歩いていたエルヴェ殿を攫うとエルフの持つ魔力を取り出すことが出来ないか画策したものの、どうあっても取り出すことが出来なかったため諦めて、エルヴェ殿を懐柔しようと拷問をしたらしいのです』

『何故そこまでエルヴェについて知っているのです! 答えなさい』

『それは噂で帝国にエルフが囚われていると知ったからです。助け出すまでに10年の歳月と犠牲者を多く出してしまいましたが、私達は後悔等はしておりません』


クレイグさんは両目から大粒の涙を流すと、足を引き摺るようにして椅子に座るエルヴェに近づくと残された右腕にモールス信号を思わせる様に『トントントトトン』と人差し指で叩いた。


『あ、おはよう御爺ちゃん』


すると此れまで姉のセルフィが幾ら話しかけてもまるで反応しなかったエルヴェが声を出して挨拶した。


『おはよう、エルヴェ』 トントントントトトントトン…………

『今日は懐かしい夢を見たよ。なんだと思う?』

『はて? どんな夢だったのかな』 トトトントントトトン……

『ん~~昔、セルフィ姉さんと一緒に野山を走り回っていた頃の夢かな。そういえば姉さん、何処に行っちゃったんだろう?』


そのエルヴェが言い放った『姉さん』という言葉にセルフィはエルヴェの名を呼びながら手を伸ばしかけるが、何故かクレイグさんによって取り掃われる。

セルフィは鋭い視線で睨み付けるが、クレイグさんは何も言わずに顔を左右に振った。


『御爺ちゃん、目が覚めたばかりで悪いけど、何だか凄く眠たいんだ。どうしてだろう?』

『夜更かしばかりしているからではないのか?』 トントントトントントトン……

『そうなのかな? よく分からないけど、もう寝るね。オヤスミ~~~』

『ふむ。おやすみ良い夢を……』 トントトトトントントン


エルヴェは短い会話を終えると、すぐに静かな息遣いで眠りに落ちた。

クレイグさんはエルヴェの身体に、そっと薄い毛布のような物を掛けると俺とセルフィを伴って一つ前の部屋へと戻ってきた。


『一体どういう事なの? 説明して!』

『エルヴェ殿は帝国で受けた拷問の後遺症からか、幼児退行してしまっておるのです。会話も事前に取り決めた指での合図以外では受け付けず、第三者が迂闊に触ろうものなら狂ったように泣き喚いてしまうのです』

『だからセルフィがエルヴェに触ろうとしたのを阻止したのか』

『はい。帝国の拷問を受けた所為でエルヴェ殿は視覚、聴覚、嗅覚を失い、今まさに味覚をも失おうとしています。残念ですが、このままではあまり長くは持たないかと』

『冗談じゃないわ。クロウ、貴方確か回復魔術を使えたわよね。お願いエルヴェを治して』

『申し訳ないのですが、それは御遠慮いただきたい』

『何でよ!? このままじゃ、エルヴェが死んじゃうじゃない』

『私が此れまで、何にもしていなかったとでも御思いですか? 私とて【ヒール】の魔術くらいは使うことが出来る。されどエルヴェ殿の御身体が魔術を受け付けぬのだ。回復するどころか、逆に悲鳴を上げて苦しまれておるのだぞ』


あれ? こんな時に何だけど帝国の禁術を防ぐ魔術の行使はどうなるんだ?

エルヴェの様子から見るに魔術を使う事は不可能に近いだろうし……と考えていると不意にクレイグさんがセルフィから視線を外し、声を掛けてきた。


『さてヴォルドルム様に言われていた、禁術を阻止するための魔術は当然の事ながらエルヴェ殿がお使いになられることは出来ません。代わりと言ってはなんですが、私が術の行使を務めさせていただきます』


クレイグさんはそう言って俺を部屋の中央付近に立たせると眼を瞑り、翻訳機能をもってしても理解する事の出来ない言葉で何かの呪文を高速詠唱していく。


やがて詠唱が始まって5分が経過したころ、俺のまわりには土星の輪を思わせるような細かい文字で出来上がった白いリング状の物が出現する。


白いリングが出現した瞬間、クレイグさんは眼を見開くと左右に大きく広げていた手を中央で拍手するかのようにパァンと合わせる。すると俺のまわりに渦巻いていた白いリングは次第に直径を縮め、俺の身体に触れた瞬間に水と油が弾かれる様に分散して消滅した。


『やはり、こういう結果になりましたか…………』

『やっぱりクロウの魔力が大きすぎるのよ。前にも言ったけど、この手の結界術は魔力値の高い者から低い者もしくは同等の者にしか効果はないの。それは帝国とやらの禁術も同じことが言えるわ』

『それじゃ、俺は何のすべも持たずに帝国に操られろと?』

『此れも前に言ったけど、私達エルフは魔力値に於いてなら世界の誰よりも勝っているわ。帝国で禁術を操っている何者かの種族はわからないけど、エルフの魔力を軽く凌駕するクロウには誰も魔力を行使することは出来ないわ』

『そうなると俺が王都に来る意味は、まるでなかったんだな』

『さ~~て、何時までも此処に居ても始まらないわね。さっさと地上に戻るわよ』


セルフィは勝気な態度でそう言うと袖の部分で眼を強く拭い、地下に来る時にクレイグさんが持ってきたランタンに壁に備え付けられている蝋燭を入れると、時折後ろを振り返りながら階段を上っていった。


『最後にもう1つだけ確認したい事があるのですが、構いませんか?』


俺は先を行くセルフィを追いかけながら共に部屋を後にしたクレイグさんに話しかけた。


『もしかして禁術を阻止する魔術の行使は此処でなくても出来たのでは?』

『はい、おっしゃる通りです。謁見の間でセルフィ殿の名を聞いた時に、エルヴェ殿が以前から夢でセルフィ姉さんに会ったという話を思い出して、何とか一目合わせてあげたいと思っていたのです。クロウ殿には御迷惑をお掛けいたしました』

『いえ、そんなことはありませんよ。見ている限りでは本当の祖父と孫という風に見えましたからね』

『何してんの? 置いていくわよ』


こうして俺とクレイグさんはセルフィに促されるままに地下の重大機密区域を後にしたのだった。


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