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第24話 エルフとの出会い

人間の言葉は「」で、エルフの言葉は『』で表現してあります。



ヴォルドルム卿とともに馬車に乗って5日が経過した日の夕方ごろに、漸く最初の休憩地点である住民が30人足らずという小さな村へと辿り着いた。

話に因ると昼前にはこの村に到着する予定だったのだが出発前の騒動が災いし、こんな時間になってしまったんだという。


ヴォルドルム卿は馬車を降りるや否や、この村の村長と補給の事で話し始めている。


この3日間、全く存在感がなかったラウェルも俺を鋭い視線で一瞥すると、村の奥に見えている屋敷へと覚束ない足取りでゆっくりと歩いて行った。


「食料と水の補給をしなければなりませんので、今日はこの村で1泊することになります。当然、宿代は此方が負担しますので翌朝までゆっくりと休まれてください」


俺は如何しようかと考えているとヴォルドルム卿の息子であり、護衛騎士でもあるテオフィルが侍従を一人連れて俺に話しかけてきた。


ラウェルとは違って、平民だ冒険者だという差別的な言動もなければ、此方を見下したような態度をとる事も無い。如何見ても同じ血が流れている馬鹿貴族ラウェルとは大違いだった。

日が暮れるまで村の中を探索しようと思っていたのだが、村の敷地内のほぼ8割方は農地だという事で見る物がまるで無く、結局のところは宿代わりとなっている村長の家で早めの就寝と相成ってしまった。


翌朝、村で飼われている鶏に似た鳥の鳴き声で目が覚めた俺は朝食として用意されていた果物を齧りながら、朝の散歩と称して村の中を歩いていると、村の入口の方から何やら女性の悲鳴のような喚き声が聞こえてきた。


『あなたたち、私に何をするつもり!? ちょっ、何処触ってるのよ!』


女性が口にしている言語は、この世界でも初めて聞く言葉だが異世界出発時の特典として貰った【言語能力】の御蔭か、普通に理解できる言葉に変換されて俺の耳に入ってくる。

如何やらそれだけではなく、この言葉を話すことも出来るようだ。


「何言ってるか知らねえが、このままじゃと毒が回ってしもうから大人しくしろっちゅうに!」

『いやぁ! やめてーーー!』


そうこうしている間にも事態は悪化しているらしく、女性の悲鳴はさらに大きくなっていく。


「一体、何の騒ぎですか?」


俺はこのままだと不味いと思い、女性が地面に寝かされている場所へと早足で駆け寄ると事の次第を聞いた。


「これはこれはヴォルドルム様の従者の御方、騒がしくしてしまい申し訳ありません」

「いや、俺は従者じゃないんだけど…………って何があったんですか?」

「それが今日の明け方、狩りから帰ってくると村の入口でエルフ族の女性が倒れてまして。脚に刻まれている傷から毒に侵されている物と判断し、村の薬師に診て貰おうと思っているのですが何分言葉が通じないようで困っておるのですよ」


これが小説やゲームなどで良く聞くエルフか。言われてみれば耳の形が俺達とは異なるな。


『だから離してってば!』


この間にも女性は脇の下と膝の下を2人の屈強な男たちに持ち上げられ、悲鳴を上げている。


俺は未だ暴れている女性の傍に目線が同じ高さになる様にしゃがみ込むと女性が発している言語で話しかけた。


『この人たちは貴女を治療しようと思っているのですよ。どうか暴れないでください』


抱えられている女性は突然話しかけられた事に吃驚しているようだが、直ぐに冷静さを取り戻すと脚に刻まれている傷が疼くのか顔を顰めながら俺に相対してきた。


『人間なのに私達の言葉が分るの? ならこの人たちに説明してよ。私なんか食べても美味しくないって』


んな食べるって……人喰い人種じゃないんだから。もしかして性的な意味での【食べる】か?


『貴女を食べる為ではなく、毒に侵されている身体を治療しようとしてくれているのですよ』

『そうなの? それならそうと言ってくれれば良いのに…………って言葉が通じないんだったっけ。痛っ!』

『ほら、暴れると毒のまわりが激しくなるから大人しくしないと』

「あの……従者殿? も、もしかして此方のエルフと会話しておられるのですか!?」


やはり言葉という壁が高く聳え立っているのか、俺がエルフの言葉を話した事で村の人たちは距離をとっている。


「え、ええ、話を聞くところに因れば、如何やらエルフの女性は貴方達に食べられると思って騒いでいたようですね。それが本当に食すという意味か、性的な意味でかは分かりませんが」


と、こうしているとヴォルドルム卿も騒ぎを聞きつけたのか、護衛騎士2人と元気のないラウェルを引き摺って村の入口にやって来た。


「何やら村で騒ぎが起こっていると聞き及んで来てみれば、クロウ殿と……其方はエルフ族の方ですね。一体何があったのですか?」

「如何やら毒を受けて倒れていた此方の女性を村人が保護して治療しようとしていたらしいのですが、言葉が通じなかったことで要らぬ誤解を生んでいたようで」


こうしている間にも毒が全身に回り始めたのか、女性は先程とは打って変わって苦しそうな表情を浮かべている。


「女性をすぐに地面に寝かせてください! 俺が回復魔法で治療します」


村人は俺が発した言葉に最初は戸惑っていたものの、女性の顔色を見て只事ではないと感じたのか機敏な動きで静かに女性を地面に横たえた。


俺は女性の患部に掌を添えると、半ば半信半疑な気持ちで回復魔法【ヒール】の詠唱を紡ぐ。


「聖なる癒しの光よ。彼の者に降りかかりし、邪なる穢れを取り祓いたまえ【ヒール】」


実際には無詠唱で魔法を使う事が出来るのだが、人の目が多すぎる事も有ったので怪しまれないためにもデリアレイグ図書館の魔法の本に掲載されていた詠唱で魔法を実行した。


掌から発せられた柔らかな回復魔法の光はやがて、女性の身体全体を覆い隠してゆく…………。

そして術を行使してから数秒が経過したところで女性を包んでいた光は消え失せ、後にはすっかり顔色が良くなった女性が静かに呼吸を整えていた。


『ありがとう。助かったわ』

『回復魔法は不慣れなので、少し心配していたのですが気分は如何ですか?』


俺はそう口にしながら、身体を横たえた状態から上半身を起こして身体に不具合が無いか確かめているエルフの女性にそっと手を差し伸べた。


ヴォルドルム卿も俺がエルフの言葉を話すのに少し驚いたようで、他の村人のように態度で示してはいないものの何処か落ち着きが無いように感じられた。


『人間族に対しての見解を改めないといけないわね。本当にありがとう』


女性は俺の手を取って立ち上がると、服に付いた砂埃を手で掃っている。


「クロウ殿、差支えなければ此方のエルフの方に、滅多な事では人里に姿を現さないエルフ族が如何して此処に居るのか、その理由を聞いてみては貰えませんか?」

「分かりました。えっと…………『少し聞きたい事があるんだけど』」

『ん? 何かしら?』

『此方に居る貴族のヴォルドルム卿という方の疑問で、滅多な事では人里に姿を現さない筈のエルフ族が如何して此処に居るのかと聞いているんだけど』


エルフの女性は俺がそう言った瞬間、ヴォルドルム卿を鋭い視線で睨むと深い溜息を吐いて疑問に応じた。


『ハァ~~~この大地が自分達だけの物だと本気で思っている人間特有の愚かな考え方ね。まぁいいわ、私が此処まで来た理由は数十年前に人間の町に行ったまま戻って来ない弟、エルヴェを探し出して、長老の命を届けるためよ。その名前に聞き覚えがないか、逆に聞いてみてくれる?』


俺は女性に聞いた話を最初の文を除いて、人間の言葉に翻訳してヴォルドルム卿に聞いてみると。


「『エルヴェ』ですか? その名前に心当たりがありませんが、先に話しましたように此れから行く王都ドラグノアには禁術を無効にする魔法を使えるエルフが一人います。もしかすると其の御方かもしれません」

『王都ドラグノアにエルフが一人いるみたいなんだけど、それがエルヴェという人か如何かは分からないらしい』

『其処にエルフが居るのね? 分かった行ってみるわ』

『あっ、ちょっと待って』


俺は直ぐに歩き出そうとしている女性を止めると自分勝手な事と知りつつも、ヴォルドルム卿の馬車に女性を乗せる事は出来ないか聞いてみる事にした。


「ヴォルドルム卿、申し訳ありませんが此方のエルフの女性も一緒に王都に連れて行くことは出来ませんか?」

「馬車に乗せるという事ですか? そうですねぇ。持っている武器の類を此方に預けて頂けるのであれば、同行を許すと伝えてください」


俺はその言葉を翻訳して女性に伝えると最初は渋っていたものの、俺の事にも興味があるとの事でヴォルドルム卿の傍に控えている護衛騎士テオフィルに手に持っている弓矢と小型のナイフを預け、共に馬車に乗って王都を目指す事になった。


更に馬車に乗る時に名前がセルフィという事が分かった。


序に異世界に来る前に読んでいた小説から、エルフの寿命が人間と比べてとても長い事が気になってセルフィの年齢が幾つなのか聞いてみたところ、凄く殺気だった視線で睨み付けられてしまった。

王都までの道すがら、ヴォルドルム卿とセルフィ双方から耳にタコが出来るほどに、色々な事を延々聞かれ続けたのは言うまでもない。


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