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第22話 遅れてきた同行者

翌朝、俺はガウェインさんに教えて貰っていたヴォルドルム卿との待ち合わせ場所である、貴族街の入口付近にある町の門に足を運ぶと、馬と竜を足して2で割ったような動物が2頭繋がれている、豪華すぎる作りの馬車が其処にはあった。

この馬車の後方にもう1台、普通の馬が繋がれているほろの付いた荷物運搬用のような馬車があるが其方はどんな人が乗っているのか、数人の衛兵が外から長い棒のような物を突き付けたり、時折幌を捲って中に怒号を浴びせたりと何処か慌ただしいような雰囲気が感じ取れた。


俺はその竜に似た動物の事が気になり、物音をたてないよう静かに近寄って立派なたてがみに触れようと手を伸ばしたところで御者席に座っていた初老の男性に声を掛けられた。


「誰かは知らんが、迂闊に走竜に触らん方が身のためだぞ」

「えっ!?」


俺はその動物に触ろうとする事に夢中になっていた為、突然話しかけられたことに驚いてバランスを崩し、そっと触るつもりが首に抱き着く形となってしまった。


その様子を見て、俺に声を掛けてきた御者席の男性も直ぐ傍にあった鞭を持って立ち上がるが、恐れていた事態は起こらなかった。


それどころか、行き成り抱きついてしまった俺の顔をもう1頭の走竜が首を伸ばして舐めまわすという予想外の展開が巻き起こった。これには御者席の男性も手に持った鞭を取り落して驚愕の表情を浮かべている。


「獰猛で知られている走竜が見ず知らずのお前さんに懐くなんてなぁ…………不思議な事もあったもんだ」


何時までも抱きついていては可哀想だと思い、体勢を立て直して走竜の傍に立つと、俺が先ほどまで抱き着いていた走竜も、動物が気に入ったものに匂いを付けるように頭を摺り寄せてきた。


「この様子を見る限りでは、それほど獰猛そうにも見えないんですけどね」

「お前さんは知らないからそんな事が言えるんだ」


御者席の男性は深い溜息を吐くと、腰を下ろしながら言い放った。


「良いか? こいつ等は襲い掛かってくるウルフを簡単に噛み砕くほどの顎を持ってるんだ。毎日世話をしている俺にでさえ、こんなに懐くことはないっていうのに…………本当にお前さん、一体何者だ?」

「俺は其処ら辺に居る、至って普通の一冒険者ですよ」


その後も御者席の男性と何気ない会話を繰り返し行っていると、其処に薄青色の鎧を身に纏い2頭の普通・・の馬を引き連れた2人の男とともに、ヴォルドルム卿が姿を現した。


「クロウ殿、お待たせしてしまったようで申し訳ない。もうそろそろ出発いたしますので、馬車内にどうぞ」

「あっ、はい」


俺はヴォルドルム卿に誘われるままに走竜から離れて馬車内に乗り込むと、ヴォルドルム卿が引き連れていた男たちも馬に跨り、馬車を挟むようにして左右に移動した。

この馬車は御者席に先ほど会話をしていた初老の男性、そのすぐ後ろに旅の間の世話役だろうか。女性が4人乗り込み、其処から更に分厚い壁を隔てた場所に俺とヴォルドルム卿が乗り込んでいる。


「ふぅ遅いな。既に出発の時刻は過ぎて居るというのに、何をしておるのだあやつは」


如何やら俺とヴォルドルム卿以外にもう一人誰かが王都に行くようだが、まだ到着していないようだ。

俺はこの時を利用して以前から散々気になっていたことを聞いてみる事にした。


「ヴォルドルム卿、折り入ってお聞きしたいことが有るのですが」

「何ですかな?」

「何故、何処にでもいる一冒険者の自分に対して此処までの事をしてくださるのですか?」

「先日の私の愚息ラウェルが御迷惑をお掛けした事の償い…………という理由では納得しかねる御様子ですね」


馬鹿貴族ラウェルが巻き起こした騒動についてなら関係各所に謝罪するか、お金を払ってなかったことにして貰うかすれば良いだけの事だ。それかあまり考えたくはないが、自分の立場を利用して揉み消すか。


明らかに身分が下の俺に対して敬語を使う理由にもならないし、態々王都行きを提案する必要もない。

俺はヴォルドルム卿の言葉に黙って首を縦に振る事で肯定すると、ヴォルドルム卿は大きな溜息をしながら静かに話し始めた。


「事の次第については王都に到着してからお話しするつもりでしたが、致し方ありませんな。クロウ殿を王都にお連れするのには2つの理由があります。1つは今まで誰にも破られることのなかった、魔力結界が張り巡らされている町の中で魔法を使用した事。もう1つはクロウ殿が魔術師であるという事です」

「最初の結界内で魔法を使ったことを驚異的に思っている事は理解できますが、その次の俺が魔術師であることは如何関係しているのですか?」

「言い換えるとすれば、高い魔力を持つ魔術師です。今から我々が向かう王都ドラグノアに住まわれる陛下は心優しき御方なのですが、長年にわたり敵対している隣国である帝国はそうはいきません。多くの魔術師を戦争の道具として利用し、常にこの国を乗っ取ろうと企んでいるのです」

「でも、それは俺が帝国に行かなければ済む話ではないのですか?」

「ところが話はそう簡単ではないのです。帝国は遥か古代の禁術とされる魔法を現代に復活させました」

「禁術ですか?」

「はい。禁術によって人の心を意のままに操り、戦争の道具として魔術師を使っているのです」


人の心を操作する魔術か。俺も其れに掛かれば殺人兵器に成り下がってしまうのかな…………。


「それが王都に行くのと如何関係しているんですか?」

「王都にある城には、その禁術を無効にする術を現代に伝えるエルフ族が居ります。クロウ殿には大変御迷惑をお掛けいたしますが、是非とも城に来ていただきたいと願っております」

「理由は分かりました。もし俺が王都行きを断っていたとしたら如何するつもりだったんですか?」

「その時は何とか理由を付けて、半ば無理矢理にでも王都にお連れするつもりでした。本当なら城に居るエルフに、この町に来て頂く事が手っ取り早いのですが、何分言葉が通じないために意思の疎通が難しく」


言葉が通じないのなら、どうやって禁術を無効にする術が使える事を聞き出したのかと聞くと、何代か前の国王が別のエルフとの混血ハーフだったらしく、仲が凄く良かったらしい。


「という事はその世代から『魔術師を戦争の道具に』という、帝国の考えは変わっていないという事になるんですよね?」

「はい。嘆かわしい事です」

「そう考えると魔術師を狙うよりも、そのエルフを狙った方が手っ取り早いのでは?」

「帝国もそう考えて今までに何人もの暗殺者を送り込んで来ているのですが、そのいずれもがエルフ本人の手によって始末されています。彼らの力は魔力を取っても筋力を取っても、私達人間の数倍はあるのですから」


それにしても、まだ出発しないのかな?

俺がヴォルドルム卿と一緒に馬車に乗り込んでから、既に2時間は経過していると思うんだけど…………。

そう考えていると不意にヴォルドルム卿が馬車の窓を開けて、馬に跨っている騎士に何やら声を掛けていた。


「アシュレイ、悪いが屋敷に戻ってあやつを連れてきてはくれぬか? 駄々を捏ねるようであれば手段は問わん。力づくで連行して来い」

「分かりました」


ヴォルドルム卿に言付けを受けた騎士は即座に馬から降りると、着込んでいる鎧の重量を感じさせない足取りで貴族街の方へと走っていった。


そして騎士の姿が見えなくなってから5分程が経過したころ、何処かで聞いた事のある声が甲高い悲鳴を上げて先ほどの騎士に引きずられて馬車に連れてこられた。


「兄上、離してください! 私は王都になど、行きたくはありません」

「弁明があるのなら、父上に直接言うがいい。それから二度と私達の事を兄と呼ぶ事は許さん! よく肝に銘じておけ」


ヴォルドルム卿から誰かを此処に連れて来るよう命令を受けたアシュレイという名の騎士は此方に丁寧に頭を下げると静かに馬車の扉を開き、まるで大きな荷物を座席に置くようにして連れてきた男を載せると、何事もなかったかのように馬に跨った。


この遅れてきた男が何処かで見たような気がすると思ってみていると、それは紛れもなくギルド内で俺に対して剣を抜いたラウェルだった。


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