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第20話 行くべきか行かざるべきか

夕食にと立ち寄った酒場で馬鹿貴族ラウェルの父親である、ヴォルドルム卿から『一緒に王都に行かないか』と誘われた俺は、すぐに『喜んで』と口に出しそうになった言葉を飲み込んで、少し考えさせてくださいと言い残して酒場を後にすると宿の部屋へと戻り、すぐさまベッドに横になるとこれからの事を考え始めた。


『今のまま此処に居ても何も始まらないしな。結局は王都とか此処より大きな町に行ってギルドの仕事をしつつ金を貯めて、何時かは家を持ちたいし…………王都か、どんな所なんだろうな』


そんな中でガウェインさんの言っていた言葉を思い出していた。


『ガウェインさん曰く、普通に歩いて王都に行くとしたら片道で約20日の道のりを魔物に襲われながら、碌に睡眠も取る事が出来ずに歩き続けることになる。その方法以外では馬車で行くことになるが、運良く王都に行くことが出来る乗合馬車を見つけたとしても法外ともいえる料金が取られる……か。王都の暮らしを夢見て、ギルドの依頼を次々と受けて10万Gという大金を手に入れたとしても、馬車代として10万G掛かってしまえば元の木阿弥だし。かといって、その馬車を逃してしまえば次に王都に行ける機会が何時になるか分からないか…………他の冒険者たちは一体如何しているんだろうな』


と色々な事を考えているうちに、いつしか考えは魔法の事に切り替わっていた。


『この町を囲む結界が魔物を寄せ付けないためと、魔法を町の中で使えないようにするための物だなんてな。そう考えると俺が此処で魔法を使用できるのは、やっぱり天使様が与えてくれた魔力が原因なんだろうな。


「【ブリー……って此処は室内だったか。危なかった」


俺はふとそう思いながら本当に発動するのかと思い【ブリーズ】を唱えかけて、今いる場所が宿屋の部屋の中だった事を思い出した。攻撃魔法を此処で唱えたら大惨事だと思い、回復魔法を唱えようとしたが治療対象が居ない今では本当に発動するかどうかはわからない。


『そういえば図書館の本で見た、変わった文字で書かれた魔法があったっけ。確か魔法の盾を出現させる魔法と、頭の中で考えた武器を魔力で具現化する魔法だったっけ』


【マジックウェポン】


俺は単に『武器を出現させるだけなら、誰にも迷惑は掛からないだろう』と考え、早速頭の中で剣をイメージして図書館で覚えたての魔法を唱えてみると、何やら光の束のような物が俺の手に集まりだしたかと思えば、次の瞬間には想像した通りの形をした剣が一振り、手の中に握られていた。


「これが魔力で出来た剣か。眼で見て、手に剣を持っているという視覚以外では特に重量感もないし、手で何かを握っているという感覚も皆無に等しい。図鑑で見た『具現化している最中は常に魔力を削られる』という感覚もあまり感じない。にしても何もないところから武器を出現させるだなんて、これも一種の召喚魔法だな」


そして手の中に出現した剣を鞘に納めるという思考をした直後、手の中の剣は文字通り消滅した。


その後は最初の剣から始まり、槍、斧、錫杖、鎌、ボウガンと形を思いのままに変えていき、その魔術の使いやすさに満足した俺は何時しか意識を失い、気が付いた時には朝を迎えていた。

だが何故か何回試してみても現代の武器である拳銃などの類を出現させることは出来なかった。


「散々迷ったけど、ヴォルドルム卿に王都へ連れてってもらう事にしよう。そうと決まれば色々としなければならない事があるな」


俺は意を決してベッドから飛び起きると、その足で酒場へと向かい、掃除をしているガウェインさんに話しかけた。


「ガウェインさん、おはようございます」

「おぅ! その顔を見るからに迷いは吹っ切れたようだな。で? どっちにしたんだ?」

「散々迷いましたが、ヴォルドルム卿の御誘いを受けて王都に行こうと思います。ガウェインさんには、この町に来てから大いに助けられ感謝しています。本当に有難うございました!」

「よせやい、今生の別れって訳でもねえんだ。気楽な気持ちで行ってきな。それとヴォルドの野郎には俺から連絡を入れといてやるから、安心して準備を進めな」


何もかも見通しているようなガウェインさんの言葉に頭を大きく下げる事で答えると、俺は隣接するギルドへと足を運ぶのだった。


俺は王都の物価が如何かとか宿代が幾ら掛かるかとか全く分からなかったため、王都に出発するまでに少しでも金を稼がないとと思い、ギルドで討伐依頼を受ける為だったのだが残念ながら希望にそう依頼は見つけられなかった。

依頼の良し悪しについて、選り好み出来るほど余裕はないのだが掲示板に貼られている依頼はどれもが町から歩いて、片道だけで丸1日はかかる距離にある代物ばかりだった。

天使様に魔力と共に体力も上げて貰った事で普通の人よりも早く現場に到着することが出来るのだが、依頼を達成できたところで不審に思われるのがオチなので、已む無く依頼を選択しないままギルドを後にしようとするのだが、此処で他に聞きたいことがあったのを思い出し、窓口へと引き返した。


「っと聞き忘れるところだった。近く、この町を離れようと思っているんですけど、その場合はギルドの登録に関してどうなるんですか?」

「ギルドは基本的に殆どの町に存在します。流石に住民が10人や其処らの小さな村にはありませんが、どの町も依頼の受け方に関しては相違ありません。場所が異なれば、ギルドに寄せられる依頼も異なりますので何処に行かれたとしても初心を忘れてはいけませんよ?」

「はい、肝に銘じておきます。それと王都の宿屋の相場って分かりますか?」

「宿屋の相場ですか? 貴族様が使われるような高級宿以外で言えば此処とそう変わらない筈ですよ?」


俺はもう一つ、ギルド内部で馬鹿貴族ラウェルと相対した時に、通常では発動すらしないはずの魔法を俺が使ったことを問いただされるのではないかと身構えていたのだが、何故か『魔』の一言すら聞いてこなかった。


「? 他に何か?」

「い、いえ何でもありません」


何時までも窓口の前を離れようとしない俺に不信感を抱いたのであろう。

俺はギルド職員の視線から一刻も早く逃れようと、速足でギルドの外へと出ると其処でリュリカ、ラウェルとともに俺が魔法を使っていたところを見ていたギルド職員の女性が話しかけてきた。


「此処では人目がありますので、どうぞ此方に…………」


俺は誘われるままに路地裏へと足を踏み入れると、急に前を歩いていた女性が振り返り、話をし始めた。


「クロウ様が『何故騒がれないか』と不審に思われている、魔法を使用した事に関して御話があります」

「俺も其れを聞きたかったんです。一体どういう事なんだ? 聞いた話だと町の中では魔法を使えないん筈だし……それと、何で様付け?」

「お静かに。誰かに聞かれでもしたら面倒な事になってしまいますので、此処は私の話を聞いてください」


俺は思いのほか興奮していたようで、声を荒げてしまっていたことを注意された。


「時間が限られておりますので簡潔に話しますと、あの騒ぎの後に戻って来られたヴォルドルム卿が、ギルド内に箝口令を敷かれました。あの場に居たのが、私とクロウ様とリュリカさんにヴォルドルム卿の御子息であらせられるラウェル様だったので、あの場には何もなかったという風に処理されました。従ってクロウ様はあの場で魔法を使ったという事実そのものが無いという風にされております」

「俺と貴女は其れで良いとして、リュリカはどうなるんです? ラウェルは如何でも良いとして」

「如何でも良いって…………リュリカさんに関しても、ヴォルドルム卿に何らかの考えがあるようなので、その場に居なかったという風に認識してほしいとの事でした。それとヴォルドルム卿から、ラウェル様は一時的に爵位を剥奪し、王都で衛兵見習いという処分にきまったそうです」

「衛兵見習い? それって甘いのか厳しいのか、よく分からない処分だな」

「どちらかと言えば、可也厳しい方です。見習いとはいえ、一度衛兵となったからには騎士になるまで一切の妥協は許されませんから。上官に対して口答えや、将又逃亡しようものなら鞭打ちの刑が隊全体に課せられますから」


女性は其れだけを言うと、俺に頭を下げて何もなかったかのような素振りでギルドへと戻っていった。

結局、貴族でもない俺に様付けで呼んでいた事は聞き出せなかったな。


ヴォルドルム卿が事を荒立てないようにと、事実を握りつぶしたのか。

そう考えると、やっぱりリュリカもどこぞの御令嬢だったと考えた方が納得がいくかな。


こんな事を考えてはいけないのだが、ヴォルドルム卿がその気になればリュリカの存在を消すことなんて容易いことだろう。そう考えると、まるでリュリカの存在自体を公にしたくないと考えて良いだろうな。


俺は勝手にそう解釈したあと酒場に寄って夜食の予約をすると、魔法の特訓をするべく町の外へと足を進めるのだった。


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