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第18話 後始末

俺とリュリカに散々な行為をしてきた金ぴか鎧男(ラウェル)が実の父親にして、多くの騎士を輩出した貴族でもある『ヴォルドルム卿』と呼ばれた男性に引きずられながらギルドを後にした数分後、俺は窓口で今回の報酬を頂いていた。


「色々と騒ぎがありましたが、今回の報酬は討伐されたスライムの量を報酬に加えて20,000Gとし、ギルドポイントも40GP 今回の依頼はCランクなので、現Fランクの貴方に支払われるポイントは60GPです」


スライムの過分討伐で上乗せされた報酬も、俺達を襲ってきたラウェルの御蔭だと考えると何処か複雑な気分だ。


「この件で105GPになりましたので、貴方はEランクに昇格しました。おめでとうございます」

「あ、ありがとうございます。そう言えば、リュリカを襲ってきた奴等とラウェルとかいう貴族の処分はどうするんですか? まさか罰金と厳重注意処分等だけで済ます気じゃないでしょうね」


馬鹿貴族ラウェルが連れて行かれたものの、未だ怯えた表情を浮かべているリュリカを抱き寄せながらギルドの職員にそう詰め寄ると。

 

「ヴォルドルム様の御子息については一応は貴族ですので私達が口を出すことは出来ませんが、町中でリュリカさんに襲い掛かってきたという者達については、国の法令により一定期間の鉱山での労働処分が言い渡される事になると思います」

「鉱山って?」

「此処デリアレイグから馬車で4日行った所に1箇所、王都ドラグノアから馬車で5日行ったところに1箇所、鉄鉱石が採れる鉱山があります。罪を犯した者は、その罪の重さに応じて鉱山での強制労働が言い渡されるのです」

「ちなみに今回のような暴行未遂だった場合の刑罰は如何程に?」

「暴行未遂のみであれば最低でも10日間ですね。サボらずに真面目に労働すればの話ですが」


襲って来た奴等が軽い処分では済まされない事を聞くと、今回の報酬である20,000G(丸銀貨2枚)と、Eランクになったギルドカードを手に、ギルドから1歩外に出た場所で深い溜息をついていた。


まだ日が落ちるには時間があるので、もう一仕事しようとも思ったが昨日今日と次から次へと色々なことが起こり続けたので、今日はゆっくり休もうと思っていたのだ。

小脇には何故か嬉しそうな表情で飛び跳ねているリュリカの姿があったが、俺の顔を下から覘き見るなり声を掛けてきた。


「どうしたの? 何か納得の行ってないような顔してるね」

「ん? あ、ああ、今回の報酬もランクアップも馬鹿ラウェルの御蔭だと思うと、何処か複雑な気分でね」

「でも、お兄ちゃんは何も悪い事してないでしょ?」


俺はそう言ってくれるリュリカの髪を優しく撫でるとガウェインさんにも御礼を言わねばと思い、酒場に向かって足を進めると丁度酒場の入口の前でリュリカを追いかけてきたと思われる、リュリカの祖父と出くわした。


「や、やっと見つけた。さ、リュリカ、帰るぞ」

「やだ! まだ遊び足りないもん」

「リュリカや、あまり儂を困らせんでくれ。それに時間もあまり残っておらんのじゃぞ?」


目の前にいる老人が『時間』という言葉を口にすると、リュリカは何か大事な事を思い出したかのように慌てはじめ、何故か耳に付けている赤い水晶ピアスを頻りに手で触っている。

心なしかリュリカが耳に付けているピアスの赤い水晶が少し色褪せているように見えるが、多分気のせいだろう。


「ごめん、お兄ちゃん。ボク、爺ちゃんと一緒に馬車で旅をしていて、今日町を離れなきゃならないの」

「そうか、此れから一緒に食事でもと思っていたんだけど残念だね」

「町から町へアテのない旅をしているから、また会えるかどうかはわからないけど…………またね。お兄ちゃん」


リュリカは其れだけを俺に言うと祖父の左手を自分の右手でしっかりと握りしめると、時折此方に振り向きながら貴族街の方へと歩いて行った。

リュリカが居なくなったことで手持無沙汰になった俺は酒場によってガウェインさんとディアナに御礼を言うとともに、今晩の食事の準備をお願いして例の宿屋へと向かった。


宿代としては『一泊二食付で1000G』と『食事なしの素泊まりで600G』があったが、前に宿泊した時の毒々しい色をしたスープを思い出し、迷うことなく素泊まり600Gの方を選択した。

主人からはガッカリした様子が見て取れたが、俺からしてみれば命の危険が去ったと考えた方がいいだろう。


1階のカウンターで部屋の鍵を受け取った俺は、部屋に入るなりベッドに身体を横たえた。


「魔法を初めて使ったけど、あそこまで威力があるとは思わなかったな。今度からもう少し上手な使い方をしないと、そのうち関係のない人たちを巻き込んでしまう恐れがあるな」


俺はギルドで威嚇のために使っていた【ブリーズ】が手違いで発射されていたら今頃は一体如何なっていたんだろう? と考えていると急激な眠気に襲われ、そのまま眠りに落ちてしまった。


夢の中では優しかった両親と、高校を卒業して何のスキルも持っていない俺を優しく迎えてくれた保険会社の社長の顔が幾つも浮かんでは消えていき、最後には憎たらしい悪魔の姿をした係長に対して俺が魔法をぶっ放しているというところで目が醒めた。


「夢で良かったけど、しかしたら俺は係長を殺してやりたいほどに憎んでいたんだろうか? もし、あの時死神に合わなかったら俺はどうなっていたんだろうな」


夢見の最後が悪かった事もあってか暫く動けなかった俺だったが、窓の外では既に日が落ちていたので直ぐに身支度を整え、酒場に行くために宿屋を後にしたのだった。


酒場に足を踏み入れると其処は荒くれ者達の喧騒で大いに賑わっていた。

ただ不自然に思うのは入って直ぐの丸テーブルは空きがないほど人が座っているのに対して、ガウェインさんと向かい合うように座るカウンター席には10人分の椅子があるにも拘らず、たった一人を除いて誰も座ってないという事だった。


そういえば一番最初にディアナに襟首掴まれて酒場に来た時も、誰もカウンターに座ってなかったっけ。


「おぅ坊主、そんな所に居ないでこっちに来いよ」


心の中でカウンターに行っても良いのかなと思いながら、俺に対して手招きしているガウェインさんに誘われるようにカウンターへと座った。


「ほう? ガウェインがカウンターに座る事を許すとはな」


と、そんな言葉を発したのは俺より前にカウンターに座り、木で出来たジョッキを傾ける一人の男性だった。


この人、何処かで会ったような? と思っていると…………。


「おお、あの時の魔術師殿ではありませんか!」

「えっと、何処かでお会いしましたか?」


俺の事を『魔術師』と呼んだからには会っているはずなんだが、どうにも見覚えが無い。


いや薄らと何処かであったような感覚があるのだが、それが何処だったか思い出せなかった。


「覚えておられませんか? 私ですよ。ほら貴方に御迷惑をお掛けしたラウェルの父の」


と此処まで聞いて、やっと思い出した。


「もしかしてヴォルドルム卿ですか!?」

「その節は愚息が御迷惑をお掛けいたしました」

「なんでぇヴォルド、坊主と知り合いだったのか?」


そんな時、美味しそうな匂いが立ち込めるスープと3個のパンをトレイに載せたガウェインさんが酒場の奥から姿を現した。


「ギルドの仕事が縁で知り合いまして」

「この魔術師殿は愚息の愚かしい行為を諌めてくれたのだ」

「ヴォルドの愚息っていやぁ、ラウェルって餓鬼の事か?」


ガウェインさんも餓鬼餓鬼って。幾ら顔見知りだとしても、貴族をそんな呼び方したら…………。


「ラウェルしか居るまいて。まったく上の兄弟は立派な騎士を務めているというのに、あの糞餓鬼ときたら」


ヴォルドルム卿自らが自分の息子を餓鬼呼ばわりした事に、思わず口にしていたスープを吹き出しそうになった。


「そういや坊主、何やらかしたんだ? ヴォルドが貴族でもない奴に丁寧な言葉で話すなんて滅多にない事だぞ」

「俺も其れを気にしていたんです。ヴォルドルム卿、どうして一介の冒険者でしかない俺に対して敬語で話されるのですか?」

「私からしてみれば、貴方がこのような場所で冒険者をしている事こそが可笑しな事なのですが…………」


何故俺が此処に居ては可笑しいんだ? 俺、何かやったか?

そう考えていると、不意にヴォルドルム卿がとんでもない事を言い出したのだった。


「ガウェイン、お前確か初級魔法【ファイア】を使えたよな。試しに此処で使ってみてくれないか?」


人を見かけで判断するわけではないが、如何見てもガウェインさんが魔法を使えるとは思えなかった。

それ以前にこんな場所で魔法を使ったりしたら、どんな大惨事になるか。


「馬鹿野郎。酔っ払ってんのか! こんな所で使えるわけねぇだろうが」


思っていた通りの答えがガウェインさんの口から発せられた事に心なしか安堵していると、その後に口から出てきた言葉に俺は耳を疑った。


「町全体に魔封じの結界が張ってあるってえのに、魔法が発動すると本気で言ってるのか!?」

「魔封じの結界?」

「その通り、町の東西南北の門以外に魔物の侵入を防ぐための結界が張ってあるが、それ以上に町全体に対して安全の為にあらゆる魔法を無効化してしまう結界も張り巡らされている。結界を上回る魔力を持った魔術師なら別だが」


あれ? 俺はギルドで威嚇のために【ブリーズ】の魔法を確かに発動したよな。

ギルド内は結界の力が及んでいないとか? だが次の言葉はさらに信じられない物だった。


「その中でも多くの冒険者が集まるギルド界隈には、他の場所とは比べ物にならないほど強固な結界が張り巡らされている。当然、ギルドに隣接するこの酒場にもその影響は出ている筈だ」

「其れを分かっていて何、馬鹿な事言ってやがる」

「そう普通は此処で魔法を使えという事すら馬鹿げている。周りからは酔っぱらいの戯言かと思われるだろう。だが、この方はギルド内に於いて確かに魔法を使ったのだ!」


ラウェルへの処罰内容は次話に持越しという事で……。

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