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第151話 闇を統べる者

ヴォルドルム卿たち、ドラグノア城内突入組を跳ね橋の上で見送った俺は踵を返し、今もなお街の中で戦っている仲間の元へと怪我の治療をする為に足を進めた。


「今、こうして此処にいる事が不思議に感じるな」

「なにが?」


怪我を負ってしまったイディアを治療している時に、ついこの前の事を思い出して一人事を呟いてしまう。


いや、この前の帝国と魔物の襲撃の事を思い出してしまって。あの時は魔物から街の人達を護るために戦っていたのに、今は逆に街の中で元人間と戦ってるなんてさ。不思議な事もあるものだと思ってね」

「それを言ったら私達がいた国境付近でも不思議なことが起こってたわよ。帝国の難民を助けたと思ったら正規兵たちが難民に殺されて……しかも不思議な事に翌朝には件の難民の姿は何処にも見えなかったのよ」

「もしかして全ての事が一本の線で繋がるなんてことはないよね?」


と話していたところで、塀の向こう街の外で戦っている防衛組からの合図なのか、目が眩むような光が外から発せられた。


「クロウ!」

「分かってる。ちょっと行ってくる。そっちも気をつけて」


俺は治療を終えたが、まだ体力が回復していないのか地面に座り込んでいるイディアを横目で見ながら風の精霊フィーと同化して緑髪へと変身すると、そのまま宙に浮きあがって外壁の上から街の外に出る。


「クロウ、皆の治療を頼む。俺は其れまで時間を稼いでおく」

「待てガッシュ! お前の怪我も酷いじゃないか。無理をするな」


街の外壁を文字通り飛び越えた俺が目にした物は多種多様な魔物と戦う防衛組の姿だった。


一番に話しかけてきたのは特徴ある口癖で御馴染みのガッシュだったが、今は口癖を出す余裕はないようだ。その姿は見るも無残で最初から赤い服を着ていたのではないかと錯覚するほどに酷く出血している。


その他にも深い傷を負っている冒険者が比較的傷が浅い冒険者に守られるかのように佇んでいたが、俺の目と精霊の目で見た感じでは運良く、戦死者はまだ出ていないようだ。



俺は見るからに一番の重傷だと思われる、今もなお戦いに赴こうとするガッシュを身体で圧し掛かるようにして抑え込むと、短時間で治療するためにと高魔力での【ヒール】を浴びせかける。


重傷者に対して力づくで抑え込むというのは流石に褒められた事ではないが、あのまま放っておけば戦死者第一号はガッシュになっていたかもしれない。


「皆のことを護りたいお前の気持ちは痛いほどよく分かるけど、お前の怪我も放っておけないんだよ! 帰ってエティエンヌに交際を申し込むんだろ? こんなところで志半ばに倒れても良いのか!?」


俺が『交際』の部分を強調して言うとやっと観念したのか、それとも血を流し過ぎてヤバくなったのか暴れるのを止めて、素直に治療を受け入れてくれた。

それから10秒ほどでガッシュの傷は完全に癒えたが、まだ身体を動かせないようだ。


その後、重傷者、軽症者の順に治療していき、やっと落ち着いたところで改めて戦場を見回すと事態の深刻さが良く分かった。


ゴブリン、コボルト、ウルフ、オークに、オーガや上位種も混じっているものの、個体ごとで見てみれば危険度は低い様に思えるが、問題はその数だ。


街の門付近で戦っている冒険者たちの防衛組を1とするなら、此処に襲撃を仕掛けている魔物の数は100に近い。何処から此れほどの数を集めたのか、地平線の彼方まで黒く蠢く物体で埋め尽くされている。


「ク、クロウ……マスター達は無事か?」


やっと意識を回復したのかガッシュが途切れ途切れにジェレミア達の事を心配する声を発した。


「ああ、ジェレミアもイディア達も無事だ。合図を受ける寸前まで治療を施してたけど、其処までの重傷者はいない。街の中は瘴気が充満してはいるけど、此処まで切羽詰まった事にはなってないから大丈夫だ」


その後、今も街の中で繰り広げられている戦いを口早にガッシュへと説明しながら治療を続けた俺は、今まさに魔物と言う波に飲み込まれそうになっている景色を見て、どうにかしなければと思い立った。


「ガッシュ、此れから俺がすることで間違っても巻き添えを食わないように、戦っている皆に合図を出して街の門の辺りギリギリまで下がらせてくれないか? あまり説明している時間はないと思うから急いで頼む。怪我は既に治療が終えているけど、体力までは戻せないから気をつけてな」

「分かった。任せろ」


ガッシュは二つ返事で了承すると足元をふらふらにさせながらも俺に言われた事を現場で戦っている者に話し、その話された者が別の誰かに話すといった、良い意味でのネズミ講方式で皆に伝わって行き次第に街の門付近へと人が集まってくる。


ただし街の中に充満している瘴気の事は事前に教えられているのか、誰も街の中に入ろうとはしていない。

「これで良いんだろ?」

「ああ、本当に何も聞かないんだな。俺としては有難いけど」

「言いたい事は分るさ。言っちゃなんだが、ぽっと出で参戦したクロウよりもデリアレイグで参加する人を集めて作戦を立ててた頃から居た俺の言葉の方が皆は信用するだろうしな」


やっぱりガッシュは俺の言いたい事を全て分かっていたようだな。


そうでないと、あんな迅速に対応できないか。


それから5分も経たないうちに散らばって戦っていた皆が全員そろったと報告が届く。


後から聞いたところに因るとガッシュを含めた5人が仮の部隊長という役職に就き、更に5人の部隊長の下に各10~15人の部下となる冒険者がつくことで、直ぐにでも人数の把握が出来るのだというらしい。


「じゃ俺も応えるとしますか」

「いったい何をどうする気だ?」

「高魔力の魔法をぶつけて一気に殲滅してしまおうと思ってな。この際だから多少地形が変わるのは目を瞑って貰おう。一応言っておくけど物珍しさに見物するのは良いけど、絶対に俺の前へは出ないように皆に言っておいてくれよ。俺の魔法の威力は凄まじいからな。巻き添えを食らったら助かる見込みは皆無だぞ」


俺はガッシュや皆に対して口を酸っぱくして注意を施すと、更に内なる精霊にこの件とは関係なしに近くを歩いている冒険者や商人、市民など居ないかをしつこく確認してもらって今度こそ大丈夫だと分ると、その次の瞬間には俺の周囲に直径50cmほどの大きさのファイアーボールを数えきれないほど浮かばせる。


これは帝国との戦争時に魔法騎士隊で訓練していた時に教えられた、人間砲台ともいえる攻撃方法だ。


ただ普通の人間に備わっている魔力量で此れをやってしまうと、あっという間に魔力切れを起こしてしまうので真似は出来ないし、最悪このファイアーボール一発で魔力を使い果たしてしまうかもしれない。


「これだけ居れば、態々的を絞らなくても当たるだろう」


こうしている今も良いカモが見つかったとばかりに魔物の軍団が此方に向かってきてはいるが、逆に俺からしてみれば飛んで火にいる何とやらだ。


俺はその後、黒い影が蠢く場所へと次々にファイアーボールを十発単位で打ち込んでいく。


魔法が着弾する度に地面がクレーター状になったり、樹木が数本まとめて消し炭になったりしているが緊急事態という事で大目に見てくれると有難いのだけど……いや、全部魔物がやった事にしてしまえば良いか?


それから30分ほど経ったところで周囲に群がっていた魔物の大群の7割方を撃退したが、周囲の地面に及ぼした影響は多大な物となってしまった。


ただ外でこうしていると今度は街の中の事が気がかりになり、ガッシュに一言言ってから中に戻る事に。


「ガッシュ、中が心配だから一度戻るよ。そういえば俺を呼ぶために光らせた物って?」

「事前に用意しておいた【シャイニング】が封じ込められていた魔法玉だ」

「それなら俺がもう一度【シャイニング】を入れておくよ。合図として光らせるのも良いけど、もしも万が一レギオンが出たら弱点はシャイニングの魔法だから。その時は迷わずに使ってくれよ。じゃないと今までにないくらいの犠牲者がでる恐れがあるからな」

「いや、俺もディアスのあの姿を目の当たりにしてるから、充分危なさは心得ているよ」


そういえばディアスはレギオンの中に居た魔物のブレスを受けて、石化した状態でギルドの部屋に置かれてたっけ。同じギルド職員なら門外不出だったあの事も知っているか。


その後、用意して貰った空の状態の魔法玉2つにシャイニングの魔法を込めて俺は空から街の中に戻った。


街の中へと戻った俺だったが、其処でまたしても呆気に取られるような現象が起こっていた。


既に倒して胸に風穴があいた変異体や首を失くした、人間をベースとした変異体などが如何見ても生きている事が可笑しい状態でイディア達と戦っていたが……。


「クロウ、遅いわよ!」

「悪い、向こうも緊急事態だったんだ。今の現状は……って聞くまでもないか」

「倒した奴は身動きが出来ないようにしてあるから、後は此れ以上動く事がないように灰にしてしまって」


中には見るからにアンデッドだと思わせる、ボロマントを風に靡かせている杖を持った偉そうなスケルトンがいるが此方も既に倒されて、立体型ジグゾーパズルを思わせるのような姿で取り押さえられていた。


実際外で戦っている男性が中心の冒険者よりも、瘴気漂う街の中で戦っている女性冒険者の方が色んな意味で強かったという訳か。


その後ジェレミアやイディアがアンデッド変異体を倒し、俺がその死体(?)を燃やすという流れ作業と相成った。


倒された変異体をアンデッドとして蘇らせた、当の本人のスケルトンはバラバラにされて何も出来ない頭部だけの状態で家の壁に紐で吊るされて暴言を只管叫び続けている。


というかコレって古代遺跡でジェレミアが遭遇したって言ってた屍人使いネクロマンサーじゃないんだろうか? 


ネクロマンサー本人もスケルトン状態なら、アンデッドなんだろうと思うんだが。他にも術者がいるのか?



そして外からの呼び出しもなく、街中でのアンデッド退治も順調で日没を迎えたころに何処からともなく声にならない絶叫が聞こえてきた。


そして街の中にいた火葬予定のアンデッド達や、壁に紐で吊るされた頭だけのスケルトンも何言わぬ骸と成り果てたのだった。


この事から城内に突入したヴォルドルム卿たちが黒幕を見事打ち倒したのだと確信した。


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