第146話 50日経過
すいません。 少し更新が遅れました。
今日で俺がデリアレイグからリュカを連れてきた日から丁度50日が経過した。
この50日間で変わった事はと言えば……。
まず最初にリュカの事だが、最初は森の住人達から『リュカ様(殿)』『神子様の妹君』と呼ばれ、年端も行かない幼子たちからは『お姉ちゃん』と慕われていたが、リュカ本人から『私だけ他人行儀は嫌だ!』と呼ばれる度に駄々を捏ねた事で今では普通に誰からも『リュカ』と普通に呼ばれている。
最初は住人がリュカを呼び捨てにした事でメレスベルが喚いていたが、徐々に慣れてきたのかメレスベル本人もリュカと呼び捨てにしている。
リュカの集会所を利用しての算術教育は、最初に思っていたよりも上手くいっている。
授業の合間や暇を見つけてはリュカ本人もメレスベルやヴェルガ、ザントから言葉の教育を受けていて、今では片言ではあるがドワーフ族と普通に会話を楽しんだり、酒を飲みかわしたりしている。
ただその一方で獣人の言葉だけは中々上達しなかった。
それもその筈、獣人の言葉は言い換えれば獣の遠吠えに近い発音をしているので、まずは発音練習からしていかなければいけない。
「あ~~もぅ! あんな声、どうやって出せばいいのよ! お兄ちゃんもどうやって声出してるの!?」
「そう言われてもな。言葉で説明するのが難しいというか……」
ハッキリ言って俺自身も獣人族の言葉を話す事は出来ない。
なにせ獣人なら獣人、ドワーフならドワーフの言葉に俺の言葉が自動翻訳されているだけだし。
獣人→俺→リュカ→俺→獣人へと翻訳する場合でも、俺は聞いた言葉をそのまま繰り返してるだけ。
「でもリュカは『あの子』達と自由に会話する事を諦めてはいないんだろ?」
「当然よ! 間に誰かが入って貰わないと会話できないなんて、真の友達なんて言えないじゃない」
「俺が話せるんだから、人間が獣人の言葉を理解できない筈はないだろう? だから頑張ればいつかは努力が報われる日が来るはずだ。だから諦めるな」
俺の言葉自身が反則だから、説得力がまるでないような気もするが……。
「そう、そうよね。何よ、ちょっと壁にぶち当たっただけで何弱気なこと言ってんだか。頑張ってあの子たちから『あんな事』や『こんな事』を聞き出すために頑張るぞ! おーーー!!」
「あ、ああ、頑張れ」
『あんな事』や『こんな事』というのが何を意味するのか、少し怖い気もするけど。
後で余計な事をリュカに言わない様に釘をさしておかないとな。
次にデリアレイグの市場でお婆ちゃんの店から購入した作物の種だが、果樹園の担当者たちと森の精霊達の協力によって、想像を絶するほど上手く行った。
その形としては現代世界でも馴染みが深い、大根や人参、カボチャに似た物に子供たちにとっては現代でも異世界でも好き嫌いが激しい緑色の野菜に、メロンと西瓜を足して2で割って果肉に青い染料をぶちまけたような、見た目的には食欲が湧かない謎の果物が出来た。
俺も担当者たちが苦労して育てた物を食わず嫌いは拙いと思って恐る恐る口にしたところ、見た目はアレだが味的にはメロンに似た甘さだった。
ただリュカ曰く。
「コレはもっと寒い季節じゃないと育たない筈なんだけど、それにアレも湿地じゃないと育たない筈……一体どうなってるの?」
と困惑気味だった。
それ以上に困惑したのは育った作物類の大きさだろう。
大根に似た野菜は1本辺り、長さが1m近くで重さが40kgもあるし、人参に似た野菜でさえ50cmはある。
先の(((スイカ+メロン)÷2)+青い染料)の果物に至っては直径1.5mもあって、力自慢の獣人でさえも持ち上げる事が出来ずに転がして運んでいるほどだ。
中にはジャガイモに似た芋系の野菜もあったが、カボチャみたいな大きさと重さのジャガイモっていうのはちょっとどうなんだろう?
新しく出来た野菜の適性な大きさと重さが分らないから、なんとも言えないんだけど。
その後、エルフの料理自慢達はどう料理するかで大いに悩んでいる。
最後に俺自身の身辺なのだが、50日前まで花嫁修業として20人ほどの少女たちが家の掃除や身の回りの世話などをしていたが、10日ほど前にその内の3人の少女が子供を作る身体になったため、否応なしに同居(事実上の結婚)という事になった。
3人と俺との結婚式でまた大騒ぎになるかと思っていたのだが、此処ではそう言う文化は無いらしい。
リュカ曰く、王族や貴族なら形式に則って何十日にも亘って式典が繰り広げられるとの事だ。
現代に置き換えてみれば俺と獣人の少女との年齢差では犯罪レベルなのだが、少女たちの親御さんや長老たちからは『何時でも何処でも好きなだけどうぞ』という完全肯定だった。
ちなみに3人の嫁さんの名前は狐耳の子がラミ、猫耳がニル、犬(狼?)耳がワムだ。
奇しくも3人はラウラとセルフィと共に森の中を歩いていた時に大人じみた発言をしていた少女達だ。
元々何をするにも3人一緒の場合が多いので、行為を強請るのも3人一緒だった。
そう言われても俺も心の準備という物があるので『体調が……』『腹が痛い』等といって、少女たちとの行為を先延ばしにしてきたが、とうとう言い逃れも逃げ道もなくし、3日前に肌を重ねてしまった。
少女が無事に懐妊すれば行為をする必要はなくなるのだが、現代と違って確かめる道具がない以上、少女達の身体つきが変わるか、月の物が来るか来ないかを確認するしか判断のしようがない。
その行為時にはリュカも空気を読んだのか、翌日の昼近くまで帰ってくることはなかった。
後から聞いた話によれば、中々行為をしたがらない俺をその気にさせるためにと、メレスベルとラウラが興奮剤や催淫剤の効き目がある秘薬の香を焚いて、俺に見つからないようにベッドの下に忍ばせたとの事。
エストも香の存在に気がついてはいたが、俺の子供を見たいという好奇心から口に出さなかったらしい。
当然、獣人の少女が居るのだから獣人の少年もいる事はいるのだが、一部は狩り部隊に入った後で訓練がきつくて途中で逃げてしまったために、実際に目の前に居るものの存在していない様に扱われている。
森の掟なので、誰も逃げ出した者の味方になる者はいない。
そしてそれは実の親・兄弟姉妹でさえも……。
今も俺の目の前に虚ろな目で体育座りをしてボーっとしている、狐耳の獣人の少年の姿があるが周りの人間は其処に誰もいないかのように目を向けてさえいない。
ちなみに戦えないほどの大怪我をしたり、女性限定で妊娠したりした者に限り、狩り部隊からの脱退が認められているらしい。
そして今、俺は森を出てデリアレイグへと向かうべく、例の魔物避けの魔道具を装備して遥か上空の更に上空の雲の上を飛んでいる。
一応、念の為に言っておくが、決して少女達に対しての夜の営みが嫌で逃げ出したわけではない。
俺がデリアレイグへと向かっている理由は、リュカがこの50日間をどう過ごしていたかをヴォルドルム卿らに報告するためだ。
特に彼等と『何日ごとに現状報告を』と約束したわけではないが、リュカを放置したままで心配にならないという事はないだろう。
デリアレイグからドラグノアまでの距離なら兎も角、Sランクの魔物が跋扈する区域を突破しないとまず辿りつけない、秘境中の秘境なのだから。
これまで何の音沙汰がなかった事もきになるし。
ただ単に実力が不足していて、Sランクの魔物が跋扈する区域を突破することが出来なかっただけかもしれないけど。