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第144話 竜人族ザントによる身体検査

リュカとヴェルガとで繰り広げられた腕相撲はヴェルガの勝利で決着して、何故か言葉のやり取りもなく突然笑い出した二人は、いつしか笑いを止めて真面目な顔で向かい合っていた。


「いやはや、リュカ殿は人間にしておくには惜しい人材ですな」


ヴェルガの方もギリギリだったのか何でもない顔をしながら、右腕をテーブルの下で摩っている。


「結局負けちゃったけどね。あ~あ、やっぱり敵わなかったか」

「いや、リュカは凄いよ。直ぐに決着がつくと思っていたのに、鍛冶の仕事で巨大な槌を軽々と持ち上げているヴェルガとほぼ互角な勝負をするんだから」

「そもそも互角な勝負を出来ること自体が可笑しいんですよ。それにリュカ殿の右腕は包帯で包まれておりますが、間違いなく竜人族の腕ですな?」

「やっぱり気づくよね。秘密にしているつもりはなかったのよ。ただ、これが元で化け物扱いされるかと思うと、怖くて言い出せなかったの」


リュカは其れだけを言うと、誰かに言われたわけでもないのに指先から順々に包帯を外していった。


やがて見えてきたのは手の甲から肩付近まで、竜の鱗のような物でビッシリ覆われた腕だった。


そして最後に眼帯を取り外して、爬虫類を思わせるかのような縦に裂けたような右眼を露わにする。


「確かに言われる通り、右目と右腕は竜人族の物のようですな」

「ヴェルガ、こうなった原因って何かわかるか?」

「かなり昔の話にはなりますが人間と獣人とで子を為した際に、その子供が人間族でありながら獣耳を生やした例はいくつかありますな。もしやリュカ殿の御両親のどちらかは竜人族じゃったりしないだろうか?」

「ううん、お父様もお母様も普通の人間よ。でも聞いた話によれば、何代も前の御先祖様が竜人族だったという話は聞いたことがあるわ。流石に男性か女性かも分からないし、名前も聞いたことが無いけど」


それは俺も前に聞いたことがあるな。


これが元で王位継承者の目に竜眼が現れるってレイヴから聞いていたし。


「ヴェルガはリュカのこの状態が遺伝だと?」

「その可能性はかなり低いでしょうな。流石に腕一本というような、此処までハッキリとした遺伝は有り得ませんからな。後は何らかの薬で強制的に今の状態にさせられたと考える方が無難かと思うが、そのような薬があること自体、聞いたことがありませんからな。或いは八百年近く無駄に生きているメレスベルなら何か知っているかも……そうと決まれば、ちょっくら呼んできますわ」


いや、『そうと決まれば』って何も決まってないだろう。


ヴェルガは俺が止める間もなく俺の家を後にすると、途端に窓からメレスベルとヴェルガが言い争うような声が聞こえてきた。


更に偶々居合わせたのか、それとも例の如く夕食を馳走になっていたのか分からないが喧嘩する二人を止めようとする生粋の竜人族であるザントの声も聞こえてくる。


「お、お二人ともおやめください。ヴェルガ殿も先ずは何用があって此処に来たのかを話して下さらないと事態の収拾がつきません!」

「じゃから神子様とリュカ殿の件で長い時を無駄に生きた婆の知識が必要なんじゃ。分かったらさっさと支度せぇや」

「神子様がお呼びじゃと!? 何故それを真っ先に言わないんじゃ、耄碌爺が! こうしては居られん」

「それから丁度いい。ザントにも関係している事じゃ、オヌシも一緒に来い」

「わ、分かりましたから、鱗を引っ張らないでください。い、痛い痛い、抜けるぅ」


というか良く考えてみれば、知識ならエストに聞いた方が早いんじゃないだろうか?


態々メレスベルと喧嘩(?)しに行ったヴェルガと痛い思いをしたザントには悪いけど。


《って事でエストは何か知ってる?》


と軽い気持ちでエストに意見を求めた俺だったが、その答えは予想だにしていなかった物だった。


《申し訳ありません。私はマスターが求めている答えを示すことが出来ません》

《それって何百年も古代遺跡で封印されてたって理由で?》

《先にヴェルガが言ったように先祖返りや遺伝で、本来の種族にあってはならない部位が現れる事については良く存じておりますが、このような例は精霊である私とて見た記憶が御座いません。ただ身体の中から、何やら不自然な人工的な気が感じられます》

《不自然な気って……そりゃ人間でありながら、竜人族の腕を持っていること自体が不自然だと思うけど》

《いえ何と表現すれば良いのか私でも分かりませんが、結論から申しますと遺伝などで先祖返りを起こしたわけではなく、まるで誰かが故意に竜人族の細胞を腕に埋め込んだような気がしてならないのです。現に竜人の右腕からは、完全に腕に馴染みきっていない何かが見受けられます》

《ちなみに、その『何か』を今から取り出す事は?》

《残念ですが。馴染みきっていないとはいえ、無理に引き剥がそうとすると命に拘る危険性が生じます》

《……そうか。幾らなんでも、腕一本と命とでは釣り合いが取れる訳がないか》

《申し訳ありません。私が無知だったばかりに》

《いやエストの事を無知呼ばわりなんてしたら、この世の人間は全員がアホという事になるぞ? それに俺はエストを責める気なんて端からないから》


その後、エストと色々とやりとりをしていると、メレスベルが家に現れた。


すぐ目と鼻の場所に住んでいる筈なのだが、不思議とメレスベルの息が上がっているのが見て取れた。


「神子様、私の知識が必要と聞き馳せ参じましたぞ。何でも聞いてくだされ!」


意気揚々と家に現れたメレスベルではあるが、結果からハッキリ言ってエストの記憶以上ともなる情報は出ず、何も進展はなかった。


その時のメレスベルの顔色ときたら、まるで天国から地獄へと真っ逆さまに堕ちてしまったのではないかと思ってしまうほどに落胆の差が激しかった。


ちなみに今はメレスベルの家で一緒に食事を摂っていた、生粋の竜人族ザントがリュカの右腕を診ている。


「これは確かにヴェルガ殿が言うように竜人族の腕そのものですな。リュカ殿、失礼を承知で言いますが、身体の彼方此方を触る事を御承知頂けますか?」

「えっ!? え、えっと……」


リュカはそう声を掛けられた瞬間、茹蛸を思わせるかのように顔を真っ赤にして両腕で身体を隠すようにして部屋の隅で膝を抱えて蹲ってしまう。


ただ俺の位置から見てみるとリュカの目は怯えているというよりも、何処か相手が自分の悪戯に100%嵌ってしまって面白いと言っているように見える。


そんな中でリュカと目があった時に軽くウィンクしてきたことから俺の考えが正しい事が確定した。


こんな場面になっても、まだ人をからかう元気が残っている事に脱帽するよ。


実際、悪い事なんだけどな。

ザントも最初はよく分からないと言った表情をしていたのだが、徐々に自分がリュカに何を言ってしまったのかを理解し、慌てふためいて両者の食い違いを説明しだした。


「ち、違います。私はリュカ殿の腕の触感や痛感などを事細かに調べたいと言っているのです!」

「ほ、本当に? 右腕を診察するふりをして、〇〇を触ったり、××●▲してきたりするんじゃないの?」

「し、しませんよ、そんな事! 私が触るのはリュカ殿の右腕だけです。それ以外の場所には絶対に触れません。私の命を賭けて此処にお約束いたします!」


ザントの言葉が冗談では済まされないほどに鬼気としていた事から、リュカもそれ以上の事は言えなかった。


幾ら悪戯好きなリュカとはいえ、流石に今のザントの前で此れ以上ふざける事は出来ないだろう。


「右腕だけだから。それ以外のところを触ったら絶対に許さないから!」

「承知致しました。では右腕を真っ直ぐにテーブルの上に載せてください」


その後、俺とメレスベル、ヴェルガ、ラウラが見守る(監視)中でザントによるリュカの右腕の診察が開始された。


やっぱり餅は餅屋という事なのか、リュカの右腕と同じ竜人族であるザントの診察は、完全に竜鱗に覆われた肌を指先で擽って触感があるかや、鱗を捲るようにして痛覚があるか、鱗の上からツボを押すかのように親指の腹でグイグイ押し付けたりと本格的なものだった。


「なるほど。では掌を、私の掌の上へと重ねる様に置いて頂けますか?」


ザントはそう言いながら、自身の左手を掌が天井を向くようにしてリュカの腕の左側へと差し出す。


「こ、こう?」

「ありがとうございます。では失礼して……と先に謝っておきます。申し訳ありません」


ザントが意味の分からない謝罪をしたかと思うと次の瞬間、広げていた左をきつく閉じてリュカの右腕を握りしめると何を思ったのか、リュカの腕のある鱗を突然1枚剥ぎ取ってしまった。


「い、痛っ……くない? いや最初だけ痛かったんだけど。それどころか、何? この感覚……」


ザントの突然の行動に対し、慌てた俺だったが当人のリュカは右腕の鱗を剥がされたというのに少しも痛がる素振りを見せてはいなかった。それどころか、何処か擽ったそうにもしているように感じられる。


その後、時間にして5秒か其処らでザントによって剥がされたはずの鱗が、まるで歯が生え変わるようにして皮膚の下から生えてきて、元通りに何の問題も無かったように鱗が生え揃った。


「最初は外見だけが我等竜人族を模した腕かと思っていたのですが、検査をしてみた結果から言えば、リュカ殿の腕は間違いなく竜人族の腕そのものでした」

「具体的に分かった事を聞いてみても?」

「はい。まずは鱗を軽く擽った時ですが、この時は間違いなくリュカ殿の表情に変化があった事から、鱗に神経が通っていると判断しました。鱗を態と剥がしかけたのも同様の理由からです。最後に一言謝罪してから行った実際に鱗を1枚剥ぎ取った行為は、自己再生能力を確認するための事でした。結果としてリュカ殿は最初の一瞬だけは痛がったものの、すぐに何かに擽られるかのような感覚に陥ったはずです」

「確かに行為そのものは見ていて痛そうだったんだけど、剥がされた後は痛くないどころか皮膚の上を小さな虫が這っているかのような、くすぐったい感覚に襲われたわ」

「竜人族の特性として何らかの怪我をした場合は、瞬時に患部を塞ぐように鱗が生え変わり再生すると言った物があります。これは外からの攻撃に対しては強固だが、内からの毒などを使っての攻撃には弱いという弱点を失くすために進化したと聞いたことがあります。その気になれば腕一本足一本落されたとしても、時間を掛ければ元通りに再生する事ができるという事です」


その後、リュカも俺も知らない竜人族の事を事細かに教えられた後、何故かヴェルガが持ち込んだ酒で宴会となり、その日は何が何だか分からないままの状態で終わった。


因みにリュカとヴェルガとで無謀にも酒の飲み比べをした結果、意外にも買ったのはリュカだった事を此処に記しておこう……。


というか、あれだけ強い酒を水みたいにガブガブ飲んでいたリュカって一体……。

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