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第142話 お嫁さん候補!?

俺が送った土産を手にした皆の様子をリュカと並んで微笑みながら、ふと自身の家の方に目を遣ると其処には10人ほどの獣人の少女たちを先導して、俺の家へと入って行くラウラの姿があった。


「えっと? あれは如何いう?」

「どうしたの、お兄ちゃん?」

「なんでか分らないけど、ラウラと獣人の子等数人が俺の家に入って行ったんだ。ちょっと気になるから行ってみるよ。リュカは如何する?」

「私一人で此処に置いてかれても困るから、お兄ちゃんと一緒に行く。なんだか面白い事が起きるような予感もあるし」


思いっきり他人事なリュカを連れて自分の家へと戻ると、其処にはラウラを隊長として指示を仰いでせっせと家の掃除をしている獣人の子供たちの姿があった。


「ラウラ、これって何をしているところなんだ?」


子供たちに指示を出しながら、自身も箒で地面を掃除していたラウラに背後から声を掛けてみる。


というか舗装されてない土の地面を幾ら箒で掃除したところで、キリがないような気もするんだが。


「これは神子様、皆に御土産を配り終えたんですか?」

「持ってきた土産物を全部配り終えたところで、ふと家の方を振り向いた時に子供たちを連れて家に入って行くラウラを見かけてね。いったい何をしているのか気になって来てみたんだけど……」


ラウラと話している最中にも葉っぱを丸めた物を雑巾代わりにして、家の壁を綺麗に磨いていた小学生高学年くらいの獣耳と尻尾を生やした少女が気が付いて此方に頭を下げてきたが、直ぐに掃除に戻って行った。 


此れを皮切りにして次から次へと少女たちが一時的に手を止めて頭を下げて挨拶してくるが、掃除を手を止める事はなかった。


「この少女たちは神子様のお嫁さん候補の子等ですよ」


ん? ラウラは今なんて言った? お嫁さん? 誰の? 俺の? まさかな……。

ふと横を見るとリュカもまた目を点にして、一点を見つめたまま微動だにしていなかった。


「えっと、良く聞こえなかったんだけど。今なんて?」

「聞き取り辛かったですか、誠に申し訳ございません。もう少しゆっくりと言いますね。神子様のお嫁様候補として私達が選んだ少女たちが此処にいる10人です」


改めて言われても中々納得しづらいが、俺の耳に入ってきた言葉は間違っていなかったようだな。


「神子様が不在時に話を進めるのも大変失礼な事とは思ったのですが、遅かれ早かれ必要な事に成るかと思って勝手とは思いましたが、お嫁様候補者を数日前から選考しておりました。数も勝手ながら10人まで絞りましたが、少なかったでしょうか?」

「いや、多い少ないじゃなくて! 俺のお嫁さんって本当に? 本当に俺なんかを好きになってくれる娘がいるの?」

「今でこそ10人にまで絞りましたが、当初は40人近くまで居たんですよ」


現代で暮らしていた頃には銀髪だと何回も説明していたにも拘らず『白髪男』『老け顔』と馬鹿にされ続け、仕事場以外では半径5m以内に女性が近づいた試しのない俺を此処まで好いてくれるなんて……って言ってて、凄く悲しくなってきたような。


「その後、年齢・種族に関係なく一人一人対等に面接をしたり、家事がどれだけ熟せるかを見たり、少女たちの両親に前もって聞いていた事と比較して、今ある姿と食い違っていないかを細やかに調べ上げた結果、此処にいる10人が残った訳です」

「10人残ったって言うけど、あまりにも幼すぎるような気がするんだけど?」

「御心配には及びません。今の内から掃除や料理、身の回りの世話、言葉遣い、夜の御世話などを教育して、神子様に対して年相応になった頃には何でも出来るように完全に仕上げますので。と言っても、まだあの子たちは子供を作る準備が出来ていませんので、今そう言う行為をしても子は為せないですよ」


仕込むってなぁ。なんか一つ気になるものもあったけど、今は気にしないでおこう。 『行為』って言うのもなぁ……。


と此処まで話が進んだところでリュカはやっと覚醒し『私もお兄ちゃんのお嫁さんになる!』と冗談で言っているのか、本気で言っているのかは分からなかったが、ラウラから『今回は諦めてあの子たちに華を持たせてあげてください』と優しく諭されていた。


というか『兄妹の関係では結婚は出来ない』とは言わないんだな。


《マスターの世界では御兄妹だと結婚できないんですか?》

《俺の記憶が正しければ『近親婚』って言って、近しい親戚の間柄だと結婚する事が出来ないっていう事が国の定めで決められているんだよ。今の俺とリュカみたいに血が繋がっていない兄妹なら大丈夫だと思うけど……。此処ではどうかは分らないけどね》

《こちらでは兄妹・姉弟で結婚し、子供を授かったというのは珍しい話ではありませんね。一部の者は一族の血を絶やさない、薄くしないためにと兄妹・姉弟での結婚、子作りは勿論として時には親と子の関係で子孫を残す、他人を家庭に入れるなんてもっての外という貴族も居りますし》


そうこうしている間に家の掃除が終わったのか少女たちが続々と、ラウラの前へと草臥れた草の塊を手に集まってくる。中には屋根まで上って掃除をしていた少女も居たのか、何の躊躇もなく屋根から飛び降りて他の皆と同様に列へと加わって行く。


その後、ラウラによって掃除の見落としが無いかどうかが検査されて、これで終わりなのかと思いきや今度は桶に水を汲んで、新たな丸めた葉っぱを持って家の中へと入って行く少女たち。


聞いてみるところによると外は終わったので、次は家の中を掃除するとの事。


確かに言われてみれば、外を掃除したのだから中も掃除しなければならないよな。


俺が此処を離れている間にも、2日おきに掃除が行われていたとの事だった。

ラウラを伴って家の中へと入ってみると、土間にひいた簀子の上で足を拭いて室内へと上がり、乾いた笹のような葉っぱを束ねた箒で室内の床を掃き、その後別の少女によって丸めた葉っぱでの水拭きを経て、仕上げとばかりに乾いた葉っぱで拭きあげる。


それが終わったらバケツリレーのように全員で水甕の中の水を木桶で汲んでは外に持って行き、水甕の中に水が無くなったところで水甕の内側を磨き、再度泉から水を汲んで水甕を満たしていく。


俺の身長の半分ほどしかない少女たちが水の入った重そうな木桶を運んでいる姿を見て、手を貸してあげたくなったがラウラ曰く『これも花嫁修業の内なので』という事で俺は見ているだけしかできなかった。


その後、開始から大体2時間程で全ての掃除を終わらせてラウラに合格を貰った少女たちは、それぞれ自分たちの日課の仕事をする為に彼方此方へと散っていったのだった。


「思いっきり他人事だけど、あの少女たちはあんな大変な思いまでして俺なんかの嫁さんになろうとしているんだな」

「最初こそは神子様の立場に引かれた者達が多数いましたが個別に面接したり、掃除させたりして嫌々やってないかをチェックしたりして10人に絞り込んだのです。あの10人は本気である事だけは信じてあげてください。そしてそのように自信を卑下なさらないように」


どれだけ愚かな発言をしたかを直ぐに反省した後はラウラとリュカを連れて、聖域の各所をリュカの顔見世兼聖域の見どころ紹介で歩き回るのだった。


まず最初は俺が亜空間倉庫に入れて運んできた魔物を捌いて毛皮、肉、臓物に分けていく作業の見学からだが、流石は冒険者紛いな事をしてきたリュカだ。


魔物とはいえ結構グロイ場面があったにも拘らず、目を逸らすことなく魔物肉の解体をしているエルフの手元を一挙手一投足見逃すことなく注視している。


魔物の毛皮は均して敷布や布団代わりに、肉は毒抜きをして干し肉・燻製肉に変わり、臓物や血管・血そのものは獣人の胃袋へと消えるし、残った爪や骨関係も狩り部隊が加工して武器の一部となるそうだ。


狩り部隊と聞いてリュカの目が輝いた気もするが、其処は触れずに置いておこう。


下手に藪をつついて蛇を出されちゃ敵わないからな。


次に行った獣人の集落では獣耳を生やしている色々な種族を老若男女問わず抱き着いて中々前に進まなかったな。


家の掃除をしていた獣人少女たちを見ていた時、リュカが挙動不審者ばりに落ち着きを見せなかったのも此れが原因しているんだろう。


で次のドワーフが掘り出した鉱石を製錬しているのを見に行った時には、此れまでにないほどの慌て振りを見せていた。


「こ、こ、こここれって……!?」

「もう少し落ち着いて喋ろよ。鶏か狐じゃあるまいし」

「それどころじゃないわよ! 今掘っている鉱石ってミスリルじゃないの!? 良く見たら打ち損じみたいなミスリルの残骸も転がってるし」

「ん? そうなのか? 確か武器には使えるけど、鍋には使えないって言ってたような気がするな」

「なんでそんなに落ち着いてるのよ!? ミスリルの武器って小さなナイフ1本だと、最低でも金貨5枚は払わないと手にする事すら難しいのに……それがこんな無造作に積み上げられているなんて」


とリュカが興奮したり怒ったり悲しんだりと、百面相しているのを作業しているドワーフと共に微笑ましく見つめていると狩り部隊だと思われる一人のエルフ族の青年が俺に対して深々と頭を下げて会釈しながら鍛冶場へと入って行くと、その数分後にはミスリルの剣を両手で5本持って来た道を戻って行く姿が見受けられた。

この際にもリュカは『ミスリル、ミスリル……』と何者かに取り憑かれたかのように繰り返し、作業している屈強なドワーフを恐れさせるほどだった。


その後はヴェルガに無理を言って、ミスリルでリュカ用に飛びっきりの剣を1本打って貰えるようにお願いして興奮が治まらないリュカを連れて果樹園に立ち寄って我が家へと戻ってくるのだった。


興奮し疲れたのか巨大な果物が実っている果樹園でも、それほど興奮せずに通り過ぎてしまったのが少し残念と言うか何と言うか……難しい話だ。


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