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第139話 2人で迎える聖域の朝

聖域の我が家でリュカと共に迎えた朝、此処までの移動で疲れていたのにも拘らず、辺りがまだ薄暗いのに目が醒めてしまった。


ちなみに俺の妹としてラウラに紹介したリュカは俺から少し離れた場所で寝ている。


ただし俺が左端、リュカが右端に寝ているが元を正せば横長の同じベッドだ。


そして水でも飲もうと、入口近くにある水甕のところに足を進めたところでデリアレイグに様子を見に行く前とは違う事に気が付いてしまった。


「えっと……これはどういう事だ?」


まず気になったのはヴェルガに無理を言って作って貰った冷蔵箱が当初の2倍ほどに大きくなっており、開閉扉も観音開きへと変わっていた。


冷蔵箱の大きさが変わったという事は、中を冷やすための氷も大きくなったはずと思い、中を確かめたところ溶けにくい様に更に回りを金属板で加工された水受けと、此処まで持ち上げられるだろうかと思わんばかりの大きな氷が冷蔵箱上部にセットされていた。


中には毎日翼人族から貰える無精卵が20個ほどと、冷蔵箱に入れる為に2分割されたアプレなどの果物類と野菜と例の干し肉が入っている。


強いアルコールの匂いを漂わせている、酒が入っていると思われる木の筒が入れられているんだけど、俺は酒を飲めないと言っておいたはずなんだけどな……。


更に冷蔵箱や水瓶などがある玄関兼炊事場はドラグノアへと出発する前には土を固めた、所謂土間状態になっていたはずなのだが、此処には足を土で汚れさせないようにする為に冷蔵箱の仕切りにも使われている簀子すのこが隙間なく敷き詰められていた。


俺が此処を離れている間に如何したら過ごし易くなるかを皆で考えた上でのことだろうな。


それで俺がいざ帰って来た時に驚かそうと思ってのサプライズといったところか。

それにも増して床に砂、壁に埃、土間の簀子に足跡、水瓶の中に入れられている水の綺麗さ等……何処ぞの窓の桟をチェックする姑ではないが、何処を見ても文句のつけようがないくらい綺麗に掃除されている。


そうこうしている間に思っていたよりも時間が経っていたようで、先程までグースカ眠っていたリュカも寝ぼけ眼で、ベッドの上で首を左右に視線をキョロキョロと漂わせているが、次第に自分が今於かれている現状を理解してきたのかハッとした表情で遠くから自分を見ている俺へと声を掛けてきたのだった。


「あ、お兄ちゃん。おはよう」

「うん、おはよう……って今更かもしれないけど、本当に俺の妹っていう設定で暮らして行くつもり?」

「その方が混乱が少なくて済むかと思ったんだけど、だめ?」


リュカはベッドの上から上目づかいで嘆願してくる。俺じゃなかったら簡単に堕ちてしまいそうだ。いや正直な話、内心ドキッとしてしまった


「それほど困らないから、別に構わないけど。でも俺の妹って事で周りに騒がれるから其れだけは覚悟しといた方が良いよ。それよりもエルフ語が上手だったね。アレはレイヴから教えて貰ったのか」

「最初こそレイヴがエルフだったことに驚いたけど、折角近くにエルフが居るんだからって事で言葉を教えて貰って覚えたの。最初は『忙しい』とか言って、取り合って貰えなかったんだけど毎日毎日顔を合わすたびに心を籠めて『お願い』してたらレイヴが折れてくれたの」


あの冷静そうなレイヴが折れる時の表情か、機会があればみてみたいな。


「って、起きて直ぐだから喉が渇いちゃった。ねぇ水貰える?」

「朝食の準備があるからベッドから降りて椅子に座っててくれるか」


俺はそう言いながら、水甕の傍に置いてある木のコップに水甕の蛇口を使わずに上部から水を掬い取ると床が濡れないように布で水滴をふき取って、炊事場とベッドのちょうど中間地点にあるテーブルへと水が並々と注がれたコップを運んだ。


その様子を見てリュカもまたベッドからテーブルに移動してくると、徐にコップを口元に近づけて水を一口煽ると、目を極限まで開いて驚きを露わにした。


「こ、これって何!?」

「何って……何の変哲もない水だけど? もしかして虫でも入ってた?」

「違う。これまで飲んだことが無いくらい美味しいの! どうして!?」


リュカはそう言って手元の木のコップの中に入っている水を一気に煽ると、御代わりを要求してくる。


で、俺も態々リュカの場所まで空のコップを取りに行くのが面倒だという事で、代わりのコップに同じように水を汲んでテーブルに運ぼうとしたところで真後ろまでリュカが近づいてきていた事に驚いた。


「これがあの水なのね! これは特別な物なの?」

「いや聖域の真ん中に聳え立つ大木、此処では世界樹って呼んでるんだけど、その木が地中から根を通して汲み出している水を桶で汲んで運んだ物がこの水なんだよ……って美味しいからって幾らなんでも飲み過ぎだ! いい加減にしないと、お腹壊すよ」


話ながら気がつけば水瓶の中にあった水がかなり減っていた。


最初にコップで汲むまでは表面張力が働いているくらい甕一杯まで並々と入れられていたのに、今気が付くと確実に1ℓは減っているように見えた。


俺もリュカにつられる様に、森を出てから何か水にも変化があったのだろうかと水甕の水をコップで掬って飲んでみるも、それほど変わった感じは見て取れなかった。


現代のように都会ドラグノアで呑む水と、聖域で湧き出る水では味に変化が生じるのだろうか? 『〇〇の美味しい水』ってとこかな。


その後、一頻り説明した後で朝食という事になったのだが……冷蔵箱を見て驚き、冷蔵箱でキンキンに冷やしてあった件の果物に驚き、無精卵を茹でて塩を振りかけた物にも驚いてと、朝から驚くことが連発でリュカは寝起きだというのにも拘らず疲れ果てた表情を醸し出していた。


驚きながらも、人一人の頭以上の大きさがある果物の半分をたった一人で平らげた事には流石の俺にも驚きを隠せなかった。


こうしている間に俺たちを起こしにラウラが家に入ってきたが、俺とリュカが起きて朝食を食べているところを見てラウラがホッとしたような表情を見せると直ぐに言葉を放った。


「もう暫くしてから神子様とリュカ殿には皆の前で朝の挨拶兼聖域に帰還した事での挨拶をして頂きますので、準備のほどをお願いいたします」


ラウラは其れだけを言い残すと忙しいのか足早に家を後にしていった。


「挨拶って何を言えばいいのかな?」

「そんな難しい事を考える必要はないよ。俺は自身が神子という事を前面に出して挨拶するから、リュカは俺と離れて暮らしていた妹という事を皆に知らせてあげればいいよ。人間とエルフ・獣人・ドワーフという事で言葉の壁はあるけど、各種族のトップは人間の言葉も話せるから翻訳されて皆に伝わるだろう」

「ああもう、緊張してきちゃった。城に居たころは緊張を解すのに一口だけ、お酒を飲んでたんだけど流石にそれは無いわよね……」


冷蔵箱には酒が入れられている木の筒も何本か入れてあったが、此れから皆にリュカを御披露目しなければならなかったため、敢えて酒の存在は知らせなかった。


リュカの事だ。未知の酒があると分かれば、飲まずにはいられないだろうしな。


その後、何故か酒の代わりに食い物で緊張を解そうとしたリュカに、勢い余って俺の分の朝食まで喰われかけながらも無事(?)に朝食を終わらせた俺たちは、今から多種族多人数の前で挨拶をしなければならないという事で服装などの身嗜みのチェックや寝癖などの修正、洗顔などを互いに変な所は無いかチェックしあってラウラが呼びに来るのを待った。


リュカに至っては洗顔やうがいをしながら水を飲んでいたが……よほど気に入ったんだな。


というか両手で水を掬って顔を洗うのかと思いきや、そのまま口に運んでいる。


その数分後、約束通り迎えに来たラウラに連れられて俺とリュカはゆっくりと世界樹の前に設置されている舞台へと足を進めていく。


何処ぞの記念式典で偉い人が演説をするような台に、長老たちが座る為の豪華な椅子、袖には進行役なのか、竜人族のザントが此方を見て口元を緩ませていた。

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