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第138話 知らされて無かったこと

今まさに目の前で繰り広げられている、エルフ族と獣人族の俺に対する最敬礼を前にしてリュカは自分が王族であるにも拘らず、何処か緊張したような表情になっていた。


ドラグノアなら規模がこれとは比べ物にならないほどの騎士や衛兵が自分達に対して跪くはずなのだが。


「もしかして、お兄ちゃんって物凄く偉い人だったりするの?」

「偉いのは俺と契約している精霊なのであって、俺自身は少し運の良いただの人間に過ぎないよ」


混乱を招かないようにする為に、跪いている皆に聞こえないように小声で、普通に人間の言葉でリュカと話していたわけだが、それでも聞こえる者はいるわけで……。


《マスター、それは違います。確かに私達精霊は世界その物を司る存在ですが、精霊の姿のままでは何もすることが出来ません。マスターあってこその私達精霊です》


俺が自虐的な発言をすると、必ずと言って良い程に精霊達がフォローに回っている。


まぁ自分たちの契約者を悪く言われたくないというのもあるのかもしれないが。


「皆も何時までも跪いていなくても良いから立って。メレスベルやヴェルガ達に俺が無事に帰って来た事を報告しないとね」


そういって俺はラウラや獣人達に立つことを促す。


「ところで先ほどから気になっているのですが、神子様の隣にいる其方の人間の女性は一体?」

「あっ、えっと彼女は……」

「初めまして、クロウお兄ちゃんの義理の妹でリュカローネって言います。名前が長くて呼び辛いのでリュカって呼んでください。とある事情で人間の街に住み辛くなっていたのを、お兄ちゃんの薦めで此方で厄介になる事になりました! 此れから、よろしくお願いします」


行き成り自己紹介しだした事にも驚いたが、それにも増して驚きを隠せないのがリュカが流暢なエルフ言語を使った事と、俺の義理の妹という立場になってしまった事だ。


前もって説明しておいてくれれば、此処まで驚きはしなかったのに……。


リュカが振り向きざまに笑みを浮かべて舌を出した事から、悪戯成功といったところだろうか。


その後、ラウラを先頭にして俺の家へと向かう途中で聞いてみたところ、俺たちが此処に到着する2日前にも前回と同じような人間がやって来ていたらしい。

どうやって撃退したのかと聞いてみたところ。


「狩人部隊が深夜の見回りをしていたところ、結界の外から複数の寝息が聞こえて

まいりまして。すぐさま装備を整えて人数を揃え様子を見に行ったところ、見張りも立てずに全員が地面に横になっていました。その者達の首元には前回と同様に、見るのも触るのも嫌な感じの首飾りを身に付けていました。で、人間達を起こさないように注意して、離れた場所にある小型の馬車に積まれていた食糧を一つ残らず結界内に運び込んで、結界の中から朝に目が醒めるまで監視していました」


魔物避けの魔道具に頼り切っていたんだろうな。確かにアレを使えば魔物には襲われないだろうけどな。


「翌朝、目が醒めた彼らが目にした物は忽然と馬車ごと(・・・・)消えてしまった食糧でしょう。途端に襲撃者同士で喧嘩が勃発しましたものの、見るからに風貌が周りとは全然違うリーダーと思わしき男性が争いを鎮めたかと思うと何故か分かりませんが、木の陰から見張りをしていた私に向けてそっと頭を下げたかと思うと襲撃者全員を連れて其の場から立ち去ってしまいました。中には男性に刃向う者も居たようですが、力ずくで沈めてしまいました」


チンピラ騎士ばかりだと思っていたのに、一応は常識ある人間がいるようだな。

今のドラグノアを見限って離れてくれれば良いんだけど、そう簡単な事じゃないか。


ちなみに没収した馬車を引いていた馬は獣人達のペットとして、獣人の子供たちの遊び相手となっているらしい。


っと此処で唯一事態を飲み込めてないリュカが何事かと話しに参加してきた。


「ねぇ、お兄ちゃん。さっきから話に出てる【襲撃者】って何のことなの?」

「俺がリュカを迎えに行く少し前に、この聖域を襲撃してきた奴等が居たんだよ。その時は聖域全体を取り囲んでいる結界に阻まれて侵入できなかったんだけど、結界にぶつかって気絶したんだ。それで夜も遅かったから持ち物だけを没収して翌朝改めて尋問しようとしたんだけど、結界の外で魔物に襲われたのか地面が一面夥しいほどの血で赤く染まっていてね」

「でも此処まで来られたって事はそれなりに実力があったんじゃないの?」

「それが、そのときに没収した持ち物の中に例の魔物避けの魔道具があってね。その為に魔物に襲われたんじゃないかと思ってるんだ」

「なるほどね。で? 何処の国の人間だったの? もしかしてグランジェリド帝国の? でもそれだと領土侵犯になるか……」

「それが……ちょっと言い難いんだけど、チンピラ曰く『ドラグノアの騎士』らしいんだ」

「そんなまさか。こんな事を言ったら此処の人達に悪いんだけど、ドラグノアがこんな辺境の地を欲する理由が考えられない。ちょっと待って、チンピラ騎士って何?」

「騎士には有るまじき言葉遣いと、素行の悪さにそう呼んでるんだけど。で、ドラグノアで何が起こっているのか調べる為にドラグノアに行って来たんだけど、此れまでになかった『街の門を潜る為の通行料』に『武器類の所持禁止』があったね。冒険者ギルドと前に泊まっていた宿屋も国家反逆罪とかで取り壊されてたし」

「私が街を出てからそんな事が起こってたなんて……父上、一体何をお考えなのですか?」

「そのほかに気になった事はといえば、王が何を考えているのか全く分からないけど鉱山送りにした犯罪者たちを騎士として雇用しているという事か」

「そんな信じられない。鉱山送りの犯罪者を騎士にだなんて!」

「俺も最初は信じられなかったけど、街の門の所に居たチンピラ騎士の眉間に犯罪者の印である刻印を見つけてしまってからは信じるほかないと思ったから。それも一人や二人じゃないからね」


このドラグノアの現状を知った直後、それまで陽気に笑ったり冗談を言ったりしていたリュカが見るからに落ち込んだ表情を見せている。


先導していたラウラや周囲を取り囲む獣人達はリュカのその様子を長旅で疲れて居るものだと判断し、言葉は分らないものの、時には肩を貸したり、木をくり抜いて作られたコップに同じく、木を組み合わせて作られた木製の水筒から水を注いで手渡したりと、初めて此処に来たリュカに対して優しく体調を気遣うような素振りを見せている。


リュカの目尻に浮かんだ涙に対して、周囲に居る獣人達は仲間内で揉めている。

獣人でもエルフでも言葉を完全に理解できる俺にしてみれば、ちゃんと会話されている事が分るが理解できない者にしてみれば単なる唸り声にしか聞こえない。


他の種族と接する機会が多い翼人族なら片言の単語だけを繋ぎ合わせた言葉で会話することが出来るが。


ちなみに周囲に居る獣人族の会話を訳すとこうなる。


『な、泣いてるぞ。どうすれば良いんだ!?』

『俺に聞くな! ちょっと待てよ? 前に子供をあやした時に、血の滴る魔物肉を見せたら泣き止んでくれたが試してみるか?』

『馬鹿! 俺達と人間を一緒にするな』

『じゃあ、如何するんだよ』

とこうなる。


困っている人間リュカに対して獣人がどう対応するのかもう少し見ていたい気持ちもあるが、流石に困っている皆を見て笑みを浮かべるという悪趣味はなかった。


俺はそっと気分が落ち込んでいるリュカの背中に掌をそっと触れると、リュカと目線が合うように少しだけ屈むようにして腰を折る。


ちなみに俺の背が約170cmに対し、リュカの背は大体160cm位だと思われる。


これがもし逆になってしまうと俺が背伸びをしなければならなくなるので格好がつかなくなってしまう。


「こんな事を言っても気休めにしかならないとは思うが、此れだけは言わせてくれ。俺も城で陛下を見たけど、とても誰かを困らせたり、些細な事で国に反逆したと見做したりするような人間には見えなかった。それにリュカは知っているかどうかは知らないけど、城の地下には此処に住んでいるエルフ族長老の孫にあたる、エルヴェと言う名前のエルフがレイヴの手によって匿われていた」


俺が『エルヴェ』と言う名前を発した途端、俺達を先導するラウラの耳がピクッと反応した。


エルヴェはラウラの娘であるセルフィの弟になるので、当然ラウラの息子と言う立場になる。


確か今はセルフィの嘘によって行方知れずという事になっているんだっけか。

後で面倒くさいことになるかもしれないな。


「エルフが城の中で過ごしていたんだから、当然陛下もこの事は知っていただろうね。その陛下がエルフの故郷である森を侵略するために動くと思うかい? 使者を送って友好を取ろうとする事は考えられても、襲撃者を送って敵対するという事はまず考えられないと思うよ」

「そ、それは私も理解できる。エルフを敵と思っているのなら、レイヴに対してあんな風に冗談を言ったり、笑いかけたり、宴会をしたりはしない筈だから」

「というところで俺なりに考えて結論づけるとすれば、1番に陛下は何処かに幽閉されていて誰かが陛下に成りすまして騎士達を動かしている。2番に陛下がとある魔法によって操り人形にさせられて、影から誰かに操られている。3番は既に……いや何でもない」

「3番は、何?」

「いや、これは俺の口からは言えない。流石に空気を読めないにも程がある」

「じゃ私が代わりに言ってあげる」

「えっ!? おい、リュカ……」

「3番は既に殺されていて、死体を操られている。ってところかな? どう合ってる?」


俺はリュカのその問いに対して声を出すことが出来ず、黙って首を縦に振る事しかできなかった。


その後、リュカとラウラと数人の獣人(半分ほどは俺が広場に辿り着くと同時に、踵を返して来た道を戻って行った)は世界樹の広場に到着すると、エルフ族長老メレスベル、ドワーフ族長老ヴェルガ、水棲族長老ミルメイユから大袈裟過ぎると思ってしまうほどに盛大なる歓迎で出迎えられたが、俺が言葉を発する前にラウラからメレスベルに対して、俺達に視線を向けながら一言二言告げると……。


「神子様の土産話には大変興味がありますが、まずは家で長旅の疲れを取ってくだされ」

「後程、果樹園担当の者に果実を届けさせますので、無理せずにゆっくりと身体を休めてください」


ラウラがメレスベルに何を耳打ちしたかは分からないが、俺は何も抵抗できないままで俺の家へとリュカと共に半ば強引に押し込まれてしまったのだった。


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