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第135話 リュカとエスト

出発する前に身柄を預けられたリュカを連れて街を出た俺だったが、森までの運び方について目測を誤っていた。


自分の考えではリュカに例の魔道具を使ってもらい、子供の姿に変化して貰ってから御姫様抱っこで一気に森まで飛ぼうと思っていたのだが……。


「この魔道具だと連続で姿を変えていられるのは3日が限界なの。それに3日使った後は、同じく3日休ませないと再度使えるようにならないのよ。レイヴが持ってる魔道具なら制限は無いんだけど」

「そういえば、前に魔道具を分解して同じような物を作ったとか言ってたっけ。それじゃリュカが持っているのが?」

「そうなの。ちなみに戻ってレイヴに魔道具を借りるっていうのは無理だからね」


デリアレイグを出て5分ほど歩いた場所だったので、すぐに戻って借りに行こうと思ってた矢先にリュカから借りる事は無理だと宣言されてしまった。


なのでSランクの魔物が跋扈する危険地帯を歩かないで済むように比較的安全地帯となる呪いの森付近まで歩いて行くことにして例の魔物避け魔道具を渡そうとしたのだが……件の魔道具を見せた途端、リュカの右腕が拒否反応を示しているかのように竜鱗状の肌が逆立って、腕の包帯を内側から破らんとしていたのだった。


「レイヴの話によると、この魔道具は最初に使った人専用の物だって言ってたのよ。私もレイヴの目を盗んで試しにやって見たかったけど、反応しなくなったら宰相としての政務が出来なくなるから駄目だって頑なに断られてしまって」

「えっ? ってことは城にいる間から、レイヴが今の姿だと知ってたって事?」

「見ようとして見たんじゃないというか、何と言うか……」

「なんだ? 滑舌が悪いな」

「御爺様……父様の前のドラグノアの王様ね。私がまだ小さい頃に政務を終えて部屋に戻ってくる御爺様を驚かそうと思って、部屋の隅に置かれている籠の陰に隠れてたの。でも部屋に戻ってきた御爺様は一人じゃなく、当時も宰相だったレイヴを連れて来たのよ。その時に咄嗟に飛び出て『ワッ!』と御爺様を驚かせていれば何の問題もなかったんだけど、私がまごついている間に御爺様が部屋の外に居る護衛騎士に人払いして、自身の部屋でレイヴと二人っきりになったところでレイヴが変身を解いて若いエルフの姿に戻ったの。で、あまりにも綺麗な顔立ちのレイヴに見とれた挙句に隠れている事も忘れて声を上げたところで御爺様に見つかっちゃって……」

「それでレイヴの正体を知っちゃったと」

「思い出したくもないくらいに長い時間怒られちゃって。更に涙目になりながら『この事は誰にも絶対に喋らない』って羊皮紙に書かされて、サインして血印を押して……もし破ったら王族であろうと重罪は免れないと散々脅されて、ビクビクしながら亀みたいに塞ぎこんで幼少期を過ごしたわ」


ほんの些細な、子供なら誰でも思いつく様な『驚かせる』という悪戯だったのに、事が終わってみればとんでもない事態になっていたという事か。焚火を灯したはずが、あっという間に山火事まで発展したと。


その後、危険地域直前までリュカを連れて歩くわけだが、リュカ本人が魔物避けを触る事も見る事も拒否した為、常に周囲に目を光らせて移動することになった。


リュカから見えない様に俺の服の中に魔物避け魔道具を隠すという事も考えたが、その物が見えない状態であっても変化した腕がざわついてしょうがないという理由で却下となった。


問題はリュカ本人の戦闘力がどれくらいあるかなのだが、リュカ曰く……。


「ドラグノアから逃げてデリアレイグに到着するまでの間にオーガの群れに遭遇して、シュナイドと私の2人で殲滅した事があるよ。確か……40体はいたような気がするけど数える暇は無かったわ」


『オーク』と『オーガ』は名前こそ似ているものの、その危険度は比較にならない。


俺もイディアと共にBランクのオークロードを討伐に行ったが、オーガはAランクで残虐性、強靭性、敏捷性と三拍子揃って反則極まりない身体能力の持ち主だ。


複数体の討伐になった場合はSランクに指定されるとの事らしい。


どうやってどんな奴等を相手にたった2人で討伐できたかを聞こうとしたところで、俺から50m程離れた林の中から番と思われる、ホーンウルフが2体飛び出してきた。


口元に溢れんばかりの涎が見て取れる事から俺たちを襲って空腹を満たそうと考えているに違いない。


「ちょうどいいわ。私がどれだけの強さなのか、お兄ちゃんに見せてあげる。女は守られるだけの生き物だと思ったら大間違いなんだからね」


リュカはそれだけを言いながら腰のベルトから2本のナイフを引き抜くと単独でホーンウルフに向かって走り出して、眼にもとまらない速度で片方のホーンウルフの眉間にナイフを根元まで突き刺して楽々1体を瞬殺、更に番をやられた事でリュカを食い殺そうとして口を大きく開けてきた、もう1体のホーンウルフはリュカの右手から発せられた【ファイア】で内部からこんがりと焼きつくされて息絶えるのだった。


「お兄ちゃん、私の勇姿見てくれた?」

「ああ、ナイフの腕だけじゃなく、魔法の心得もあったんだな」

「実をいうと、魔法は少し前まで薪に火を灯す程度しか使えなかったんだけどね。腕がこんな状態になってしまってから、なんでか分からないけど強力な魔法を使えるようになったみたいなの」

「う~ん……憶測でしかないけど、腕が竜人族みたいになった事で火の精霊に愛されることになったんじゃないかな。前に森に住んでいる竜人族から自身の種族は火の精霊から恩恵を与えられていると言ってたし」


《そうです。竜人族に限らず、ドラゴンやワイバーンと言った竜種は元々火山地帯に棲息してましたから、それが縁で私が力を与えていたんですよ》


「ほらサラも、こう言ってるし」

「えっと、サラって誰? こう言ってるって何処にいるの?」

「あっ説明してなかったっけ? サラは俺と契約している精霊の一体で火の精霊の名前なんだよ。他に水の精霊ラクスと風の精霊フィーに土の精霊ティアと無の精霊エストが俺の体の中に居るんだ。というか前にヴォルドルム卿の屋敷で皆が集まっている時に各種精霊との同化を御披露目したよね?」

「そういえば、そんなだった気がする。よく覚えてないけど……って精霊の名前を聞くのは今日が初めてだよ」

「そうだっけか?」

「それは兎も角、街を出てから歩きっぱなしの上に戦闘までして疲れちゃった。一度休憩しようよ」

「そうだな。腹も減ってきたし、此処で昼食としようか」

「やった!」


見晴らしのいい平原のド真ん中での休憩でも良いと思ったが、逆に目立ちすぎて休憩の意味がないとの事で、二人並んで座っても十分身を隠せるぐらいの広さがある大木を背にして正面のみを警戒する形での食事休憩と相成った。


俺は『早く御飯を』とせがむリュカを横目に、口元に笑みを浮かべながら【ディメンション】で亜空間倉庫を開くと、中から森から持ってきた西瓜ほどの大きさがある果物と、例の干し肉にヴォルドルム卿から援助された黒パンを取り出してリュカが待ちに待った昼食を開始した。


「こんな大きなアプレ初めて見た。どこで売ってたの?」

「アプレ?」

「この果物の名前だよ。ドラグノアで生活してた時に見た高級アプレでも、これくらいの大きさだよ?」


リュカはそう言いながら両掌を使って、普通のリンゴくらいの大きさを手で示している。


「それに味も全然酸っぱくなくて美味しいし。これなら丸銀貨1枚でも売れるよ」

「これは今から行く森で育てられている物なんだ。果樹の世話をしている皆でも此処まで大きくなった訳は分らないそうなんだけど、森に居る精霊の御蔭じゃないかとも言われてるね」

「……って事は森に居る間はこのアプレが食べ放題?」

「街を出発する前に色々な作物の種を購入してきたからね。もしかすると別の果物や野菜もこれくらい大きな、食べ応えのある物に育つかもね」

「この干し肉も食べた事のない味だけど、これも森から持ってきた物なの?」

「そうだよ。とある動物の肉を丁寧に血抜きなどの下処理を施して、色々な薬草と塩で煮込んで干し肉に加工したものだよ。ただこれは森以外では絶対に食べられない物だから、リュカが食べた事のない味だというのも致し方ないね」


この干し肉が実は魔物の肉だと知ったらリュカは如何いう反応を示すんだろうか?

その後、野生動物にも魔物にも襲われる事なく休憩と食事を終えた俺はリュカが倒したホーンウルフの死体を亜空間倉庫に放り込んで森に向けて歩き始めた。


ちなみにヴォルドルム卿に貰った食料は金属製の箱に、デリアレイグの市場で大量に購入した植物や作物の種は同じく商店街で購入した寸胴鍋に入れてある為、直接魔物の血が触れる場所には置かれていない。


「ホーンウルフの討伐証明は頭の角だった筈だけど?」


倒したホーンウルフをそのまま亜空間倉庫へと放り込む俺を見てリュカが疑問を投げかけてくる。


「此れから行く森は普通の人間の街とは違って物資が不足しているからね。魔物の身体にもいろいろな使い道があるんだ。魔物の皮は床に敷いたり、衣服にしたりすることができるし、歯や骨も物によっては鏃などの武器に加工する事も出来るからね」


肉は食用として皆の腹の中に入るとも付け加えたかったが、まだ干し肉の元になった動物の事を話していないので、余計な先入観を与えないためにも此処は秘密とした。


そして食事を終えて歩き始めてから数時間後、周囲はすっかり暗闇に包まれて月も見えない事で文字通り一寸先は闇状態となっていた。


「今日は此処までだね。進もうと思えば進めるだろうけど、暗闇からいきなり襲われるのは流石に勘弁してほしいからね」

「そうね。見張りはどうするの?」

「ん? あ、ああ大丈夫。見張りの事は考えなくていいから、ゆっくりと休みなよ」


《って事で悪いけど、誰か代わりに俺の身体を使って見張りをしてくれるかな?》

《では私が。マスター、悪いとは思わなくても結構ですよ。前にも言いましたが、私達精霊は生物とは違って【食べる】【眠る】という事はありませんから》

《いや、それでも何となくかな。俺的には人間だろうとエルフ、獣人、ドワーフだろうと精霊だろうと一人の大切な仲間だと思ってるから》

《マスター、ありがとうございます。私達は良き主に巡り合えて幸せです》


その後、昼食と似たか因ったかなメニューな夕食を終えて、見張りをエストに任せて俺とリュカは眠りに就いた。


というか今更だけど女性が男と同じ場所で無防備に眠りにつくのってどうなんだろうか? それだけ信用されてると考えて良いのかな?


リュカは2人して魔物が多く出没する区域で無防備に眠る事に納得がいっていない様子だったが……。


そして俺が木に背を預けて眠り、リュカが俺の横で同じように木に背中を付けて眠りについてから凡そ10分後、暗闇の中に動く影が1つ現れた。


「お兄ちゃんの言葉を信じないわけじゃないけど、こんな場所で2人揃って熟睡なんて納得できないわ」


リュカが長い独り言を呟いた瞬間、すぐ横で熟睡している筈の兄と慕っていた人物から声がかけられた。

 

「眠れないのですか? 見張りについて気になっているのでしょうけど、私に任せて休みなさい」

「え!? 貴方、お兄ちゃんじゃないわね! 一体誰なの!」

「気持ちは分かりますが、お静かに願います。マスターが起きてしまわれますので。私は先にマスターより紹介された、契約している精霊の一柱【無】を司る精霊、エストと申します」

「エスト? 外見はお兄ちゃんだけど、中身はお兄ちゃんじゃないのね」

「マスターは今も熟睡していらっしゃいますので、私が代わりにマスターの身体で見張りを熟している次第です。私がマスターや貴女を害する事は絶対に有り得ませんから、気にせずゆっくりと休みなさい。さもないと、此れから先の旅路で身体が持ちませんよ?」

「御伽話の精霊が目の前にいて喋っているって……納得できないけど納得するしかないのよね。分かったわ、悪いけどお願いね。また話せるかしら?」

「私達が前に出て来る時はマスターの意識が無い場合になりますからね。私と喋りたいイコール夜更かしになってしまいますから、あまり褒められた事ではありませんね」

「なんか頭の中がこんがらがって来て、眠くなってきちゃった……オヤスミナサイ」

「はい。夜明けまであまり時間がありませんが、ゆっくりとお休みなさい」


そしてリュカは自身で此処が危険な場所と認識していながらも、安心した表情で眠りにつくのだった。



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