第11話 念願の魔法習得
アリアと一緒に図書館に来て、早2時間余りが経過しようとしていた。
まだ時間が早いという事もあり、この図書館の中には俺とアリアの2人しかいない。
この2時間の間で読んだ本はといえば、魔物に関する本が4冊、薬草関連の本が2冊、自然に生えている食べられる物を事細かに書かれている本が1冊と、後はチラ見程度に見たこの世界の地図の計7冊と1枚だ。
俺としては一刻も早く魔法関連の本を読みたいところではあるのだが、一緒に来たアリアが必死な思いで本の中身を、鞄の中に詰め込んできた紙に書き写しているため、中々読むことが出来ないでいた。
聞くところによると魔法関連の本は数がとても少なく、魔法学園で使われている教科書も今アリアが読んでいる物を書き写した物が1冊あるのみで、その都度魔法学園の生徒が書き写して使ってきたものだという事らしい。
「ふぅ~~~やっと終わったぁ」
アリアはまだページが半分近く残っている本を畳むと、本の中身を書き写した紙を鞄の中に詰め込み帰り支度を始めた。
「すいませんが、私は此れから学園の友人達と勉強会を開く予定なので、お先に失礼します」
此処で魔法書片手に2時間掛けて勉強しておいて今から、また学園の同級生と勉強会だなんて…………。
俺はアリアが来る時と同じように重そうな鞄を引き摺るようにして階段を下りていくのを見届けると、すぐさまアリアが本棚に戻した魔法書を手に取り、アリアが座っていた場所で読み始めた。
「ふ~む。やっぱり、どの魔法に於いても詠唱が付きものか。しかも難易度が上がるにつれて詠唱文も長くなるとは」
本の中身によれば、回復魔法である【ヒール】を使用するには『聖なる光よ、彼の者を蝕む不浄なる穢れを取り払いたまえ』という長文を口にしてから発動するらしいのだが、大袈裟に言うとすれば呪文詠唱の最中に怪我人は出血多量で死ぬ恐れさえある。
現代社会で生きてきた俺にとって、魔力という物が如何いう物なのか全く感じられない。
この世界に来た時に天使様が言っていた『魔力を最大値にまで引き上げておいた』という言葉を信じるならば、俺にも何不自由なく魔法が使えるはずだ。
だからと言って此処で試しに本に書いてある、火や氷の魔法を使っては貴重な本を痛めてしまう恐れがあるし、回復魔法に至っては目の前に対象者(怪我人)が居なければ、何の効力も示すことはない。
腰に装備している剣で自身を傷つけて回復魔法の効力を確かめてみようかとも考えたが、流石に自分で自分を傷つけるという自虐的な趣味は持ちあわせていないので、その考えは却下した。
俺は此処で出来る唯一の事である魔法取得を念頭に置いて、魔法を試すのは後の楽しみだという事にして本を読みふけっていた。
そうして読み始めて30分が経過したころ、漸くアリアが読むことを止めたページへと差し掛かるのだった。
「確かアリアは此処で読むのを止めたんだったな。この先には一体何が書かれているんだ?」
俺は期待と不安を心の中で織り交ぜながら恐る恐るページを開くと、其処には【禁忌とされる召喚魔法】という文字が見出しに大きく書かれていた。
だが、よく見るとこのページからは使われている文字が、今まで依頼書などで見てきた文字とまるで違っていた。
もしかしてアリアは読まなかったのではなく、読めなかったのではなかろうか?
自分には【言語能力】があるので、眼で文字を見た瞬間に見たことのない文字でも脳内変換されるために読むことが出来るし、当然会話することも問題なく行える。
「召喚魔法っていうと、某ゲーム等で戦闘時に別の世界の生き物を呼び出して戦わせるっていうアレの事か? 俺も使えるものなら使ってみたいな」
だが予想に反して、本の何処にも召喚魔法を発動するためのキーワードが書かれてはいなかった。
唯一書かれていたことと言えば今から数百年前、とある魔術師が放った召喚魔法に於いて火の魔神、水の魔神、土の魔神、風の魔神が現れて、数多くの国や人類が滅亡したという事。
戦いの中で運良く生き残った者達も、滅亡するのは時間の問題と思われていた。
そんな矢先に何処からともなく現れた賢者が手に持っていた光り輝くオーブに召喚魔法を唱えた魔術師を封じ込めると、途端に召喚され暴れていた魔神たちは何処へと姿を消したのだという。
その魔術師を封じ込めたと言われているオーブは今もなお、何処か見知らぬ土地で封印されているとの事らしい。
「でもなぁ……この本に反論するわけじゃないけど召喚魔法にしたって普通の魔法にしたって、要はソレを使う者の心構え次第で何とでも取れるんじゃないか? 武器である剣にしたってそうだ。誰か大切な人を守るために振るわれる剣も、自分の欲望のために誰かを傷つける剣も、元を正せば何の変哲もない剣じゃないか」
「そのとおりじゃ! オヌシ若いのに中々良い事を言うのぉ」
「!?」
一人で誰かに聞かせるわけでもなく、自分の考えを口にしていると俺の斜め向かいにある席に何時しか一人の老人が魔法書を手にしながら、俺を見て頷いていた。
「おっと、驚かせてしまったかの?」
普通、どれだけ一つの事に熱中していたとしても、目の前に誰かが来れば嫌でも気づくはずなんだが俺の前に居る老人はまるで瞬間移動でもしてきたかのように気配を感じる事が出来なかった。
「たまたま役所に書類を届けに来たら、上の階から何やら熱弁する声が聞こえてきての。盗み聞きするつもりはなかったのじゃが、ついつい聞き惚れてしまったわ」
「下の階に聞こえてしまうほど、大声で叫んでしまってましたか?」
俺は此処が図書館だという事を忘れ、大声で叫んでしまっていたんではないかと反省していると…………。
「いやいや、儂が階段近くに腰を下ろしていた為に、偶々オヌシの声が聞こえたに過ぎぬよ。其れが証拠に役所の人間は誰も騒ぎを聞きつけて、3階に上がって来てはいないじゃろう?」
目の前の老人にそう言われ、恐る恐る階段を数段降りて役所の中を覗き込むが、誰も此方に関心を示してはいなかった。
「ところで今読んでおるのは魔法書のようじゃが、剣を持っているところを見るとオヌシは戦士職じゃろ? 魔法は無縁のように思うのじゃが……。あっ、気を悪くせんでくれよ? ただの爺の戯言として聞き流して貰っても構わんぞ」
「いや別に構わないですよ。俺は身なりこそ剣士ですが、魔法の心得も多少はありますから」
「ほう? 剣も魔法も両方使えるとは珍しいのぅ」
俺は何故見ず知らずの老人に此処まで話してしまうんだろうか?
そもそも、剣と魔法を両方使える魔法戦士っていうのは、この世界には居ないのか?
このまま話を進めていくと、そのうち取り返しのつかない事まで話してしまうんじゃないかと考えた俺は、魔法を習得するという目的も果たした事から、いそいそと机の上に置いてある魔法書を本棚へと戻すと、老人に『お先に失礼します』と頭を下げて図書館を後にした。
役所から外に出た俺は予想以上に長い間、図書館にいてしまった事を反省し、この後にギルドの仕事を受けるかどうか考えながら酒場のある方向へと歩いて行った。
一方その頃、クロウが居た図書館に残された老人はというと…………。
「ふむ、戦士であると同時に魔術師の力も備えた男か。しかもアヤツの読んでいた頁は古代言語で書かれているところ、これは若しかすると何かが起ころうとしているのかもしれんな」
クロウが図書館の本から習得した各種魔法
・万能回復呪文【ヒール】
・初級火炎呪文【ファイア】
・初級氷結呪文【ブリーズ】
・初級雷撃呪文【サンダー】
・初級疾風呪文【ウィンド】
・初級水撃呪文【ウォーラ】
・初級呪文+【ボール】で高威力呪文…………例)ファイアーボール等
・初級呪文+【レイン】で広域型呪文…………例)サンダーレイン等
・照明魔法【シャイニング】
更に本の後半部分にて、別の言語で書かれている記述から。
・魔法防御【マジックガード】
・武具魔法【マジックウェポン】
という二つの魔法を習得することが出来た。
召喚魔法に関しては発動キーワードが書いてなかったため、習得する事は出来なかった。
ちなみに回復呪文である【ヒール】は使用者の魔力量に応じて『死亡』、『呪い』を除く、どのような状態異常にも対応できる、万能型の回復魔法らしい。