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第127話 ラスボス的存在?

街のゴロツキ連中の追従を役所に入って振り切った俺とレイヴは今、貴族街入口のゲートを抜けた先に立っていた。


ゲートを潜る際に右往左往しているゴロツキ共の横を通り過ぎたのだが、完全に見た目が変化して別人となっているレイヴは良いとしても、髪の色が白銀から緑へと変化しただけの俺を何故かクロウだと見抜けられないのは不思議な感じがするな。現代とは違い、染髪の風習がない異世界ならではという事か。


そして今は容姿を元の姿に戻してレイヴとヴォルドルム卿の屋敷に向かって歩いているところだ。


前みたいに案内役の執事を通さなくても良いのかと聞いたが、レイヴ曰く『前もってヴォルドルムに許可を得ているので、神子様一人で屋敷を訪ねても受け入れられるはずですよ』との事らしい。


こうしてゲートを抜けてから歩き続ける事、5分。たいして迷わずに屋敷へと到着

する。


屋敷の前にはヴォルドルム卿の長男で元・剣騎士のアシュレイに次男で元・槍騎士のテオフィルが俺達が来た事で軽く会釈し、此処からの道案内とばかりに先導役として屋敷内へと足を踏み入れてゆく。

前回は屋敷に入って直ぐの応接間での会見だったが、今回は随分奥へと案内された。


やがて高さが5m近くもある両開きの大きくて重そうな扉の前で立ち止まると、アシュレイが中に向けて声を上げる。


「父上、レイヴ殿とクロウ殿を御連れ致しました。入っても宜しいでしょうか?」

「入っていただきなさい。くれぐれも失礼なきように」


中からそう聞こえるや否やアシュレイは扉の右の取っ手を、テオフィルは左の取っ手をもってゆっくりと手前に引いて観音開きのように開いて行く。


「さぁ中へとどうぞ」


そう言われて中へと足を踏み入れると其処には巨大なテーブルがあり、正面にヴォルドルム卿と奥方のウェンディーナ様が座り、ヴォルドルム卿の左手側の椅子を1個開けて座るのはドラグノアのギルドマスターだったジェレミアさんが、ウェンディーナ様の右手側の椅子をこれまた1個開けて座るのは脇に杖を持っている何処かで見た事のある御爺さんがいた。


テーブルの横には応接室で見たメイドさんが表情を変えずに、不慮の事態に備えて居るかの如く直立不動のままで四方八方に視線を向けている。


《彼女達はただものではありませんね。一見して何も武器を持っていないように見えますが、袖口に小型のナイフを隠し持っているようです》


流石はエスト……というか如何して其処までわかるんだ?


彼女らとは別に、扉付近で待機していた表情豊かなメイドさんが俺とレイヴを皆が待っているテーブル席へと誘う。


「さて遅れている者も居るが、所要人数が揃ったところで話を始めるとしますか」


ヴォルドルム卿がそう言いながら立ち上がり、手をパンパンと叩くと其々の目の前にティーカップが置かれ暖かな湯気が立ち上る、良い匂いのお茶がメイドの手によって注がれてゆく。


カップの数が2個多いようなと思っていると、武装解除したアシュレイとテオフィルが既にテーブルについている皆に会釈しながら其々空いている席に腰かける。


ちなみに2人の位置はアシュレイがジェレミアさんの席から1個空けた左側の場所で、テオフィルが謎の御爺さんの席から1個空けた右側の場所だった。


「新たな御客様もいらっしゃることですし、最初は自己紹介からですね」


全員のティーカップにお茶がそそがれた事を確認すると不意にヴォルドルム卿が立ち上がって会釈する。


「では僭越ながら私から元公爵位、現平民のヴォルドルムです。とある理由で姿を消したデリアレイグ領主の代理として皆を取り纏めております」


『とある理由』っていうのは何となく想像できるけど、元公爵ってどういうことだ?


咄嗟に訳を聞こうとしたが、話の流れを止める訳にはいかないので此処は我慢する。


どうせ後から質問タイムを設けられるだろうしな。


「ヴォルドルムの妻でウェンディーナと申します。どうぞ良しなに」

「当家長男アシュレイです。元はドラグノア剣騎士隊に所属しておりましたが、今はデリアレイグ警備隊にて第一区長の座を任されております」

「同じく当家次男テオフィルです。私も元はドラグノア槍騎士隊に所属しておりましたが、今は兄同様にデリアレイグ警備隊にて第五区長を任されております」


兄弟揃って街の警備隊区長を任されているのか。


話の内容的に少なくとも、後3人の区長が居るという事になる。というかそれだけいるのなら、不審者の炙り出しだけを重視せずにゴロツキ連中を取り締まったりしてほしい物だ。


「さて次は順番から言って私だな。今はもうないが、元はドラグノアのギルドマスターだったジェレミアだ。一応はSランクの冒険者ではあるが、デリアレイグの副ギルドマスターも兼任している」

「次は儂じゃな。デリアレイグのギルドマスターをしているレオンじゃ。本当はもっと長い名前なんじゃが少し言いづらくての……気軽にレオン爺と呼んでくれりゃ良い。何なら爺さんだけでも良いぞ」


やっぱり杖の老人はデリアレイグのギルドマスターだったか。

というか流石に初対面(二回目だけど)で爺さんと呼ぶのは失礼すぎる。

ディアナなら何の遠慮もなしに呼びそうだけど……って確か以前、アリアとディアナはギルドマスターの孫娘だって聞いたことがあったな。

それじゃ正真正銘、ギルドマスターはディアナの御爺さんじゃないか。


前のデリアレイグの図書室で会った時に気配も見せずに何時の間にか俺の正面に座っていた事から、只者ではないと思っていたんだよなぁ……と言っても、俺もその当時は凡人でしかなかったわけだけど。


「本当は後二人紹介したい者がいるのですが、訳あって少し遅れているようです。なので不躾とは存じますが、御二方の事を改めてお願いいたします」

「では儂から……と言っても此処にいる皆は知っているとは思うが、ドラグノアに居たころは『クレイグ』の偽名を用いて王家二世代にわたり、宰相の座に就いていたエルフ族長老メレスベルが義息レイヴじゃ。もしエルフの森に来ることになったなら皆を歓迎するぞ」


ツッコミどころ満載な自己紹介だな。


おっと次は俺の番か……俺も人の事は笑えない自己紹介になるだろうな。


「じゃ最後は俺ですね。ドラグノアに魔物が襲撃してきた際に衛兵・騎士殺しの濡れ衣を着せられて、無実の罪で街を追われる事となった元Cランク冒険者のクロウです。一応は剣士スタイルですが、魔術は一般的なものは一通り、無詠唱で使う事が出来ます」


というところで自己紹介は終わり、気になっていた質問タイムと相成った。


当然の如く真っ先に疑問を投げつけてきたのは、今日までまるで音沙汰がなかった俺に対するジェレミアさんの質問……というか、これじゃ尋問に近いかな。


そして其れを止めたのは顔は笑みを浮かべているが、眉間に物凄く深い皺を寄せているウェンディーナ様だった。


「まぁまぁ、お客様が困ってらっしゃるではありませんか。気持ちは痛いほどよく分かりますが、もう少し落ち着いてくださいな」

「ですが、ウェンディーナ殿」

「何か異論が御有りで?」

「い、いや何でもない。そうだな……す、少し落ち着くとしよう」


ウェンディーナ様がジェレミアさんの会話するために横を向いてしまった事で、俺が居る場所からは表情を見る事は出来ないが、あのジェレミアさんが身体を小刻みに揺らして怯えて震えているところを見ると余程のものなんだろうな。

その頃のヴォルドルム卿はというと我関せずといった表情で目を瞑り、お茶を味わっていた。



ふと見るとレオン爺とレイヴも一緒になって茶を啜っていた。


ちなみに息子であるアシュレイとテオフィルはというと、何処ぞの民芸品の首振り人形の如く、ウェンディーナ様の発言の一言毎に無表情で首を縦に振っている。


余程怖い事があったのか、2兄弟とジェレミアさんの着ている服がまるでプールに飛び込んだみたいにびしょ濡れになっており、更に床にも滴が垂れている状態だった。


「そうよね~~~貴方達もそう思うわよね」

「「はい! そう思います!」」

「という訳でクロウさんと仰いましたね。あの人に何か聞きたいことがあるのでしょう?」


散々目で脅しつけて置いて、という訳でも何もないんだけど……まぁ良いか。


「では御言葉に甘えて。ヴォルドルム卿にお聞きしたい事があるんですが、今宜しいですか?」

「なんでも聞いてくれて構わんよ。と言いたいところだが、少し待って貰えるだろうか」

「あ、忙しいと言うのであれば無理にとは言いませんが」

「そうではないのだよ。話に夢中になるあまり、茶を飲み過ぎてしまってな。少し用を足しに行ってくるので話は戻って来てからという事にしておいてもらえるだろうか。それと先に話した通り、私は既に貴族ではないのでな。敬語は使わずに普段通りの言葉遣いで話してもらえると有難い」

「わかりました。でも貴族であろうとなかろうとヴォルドルム卿はヴォルドルム卿なので、口調はこのままで行かせていただきます。それが目上の人への礼儀だと思いますので」

「意志は固いようですね。では少しの間だけ時間を頂きたい」


ヴォルドルム卿はそういうと周りからの視線を気にしているのか、半ばで早足で応接間を後にしていく。 


そして約10分後、応接間に戻ってきたヴォルドルム卿の傍らには燃えるような赤い髪を腰付近まで伸ばしている、俺と同年代くらいの何処かで見たことのあるような女性がいた……。


ただ女性の右目には海賊風の眼帯、右腕には骨折でもしたかのような包帯が幾重にも巻きつけられていた。


更にその女性の後ろには、三十代半ばくらいの執事風の男性が従っている。


「遅れていた2人がついさっき到着した。こちらは……」


ヴォルドルム卿が発言しようとするや否や、赤い髪の女性は一目散に俺が座っている席へと走りよってくると、驚くべき一言を口にするのだった。


「お待たせ! また会えて嬉しいよ、お兄ちゃん」


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