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第126話 お約束?

デリアレイグの街にいる不審者を炙り出すためにレイヴと共に街を散歩し終えた俺は、最後にデリアレイグの領主であるヴォルドルム卿の屋敷に行くことになった。

レイヴ曰く、以前の領主なら会う前に前もって袖の下を渡したり、思ってもいない褒め言葉を並べ立てて御機嫌をとらないと会ってくれなかったらしい。


酷い時には領主に面会を希望する家族に若い娘が居た場合、10日ほど領主に預けて『教育』させなければならなかったという事だ。『教育』という言葉が何を意味するかは一目瞭然だろう。


「ヴォルドルムの屋敷には前もって声を掛けていた、デリアレイグのギルドマスターとドラグノアのギルドマスターだったジェレミア、当主であるヴォルドルムと奥方のウェンディーナがいます。神子様の事も含めてこれからの事を話しあうための物ですのでお疲れとは思いますが、もう暫くお付き合い願います」


デリアレイグのギルドマスターか、そう言えば会ったことが無いな。


怖そうな人じゃなければ良いんだけど……問題はジェレミアさんだよなぁ。


「ジェレミアさんか……この姿で会ったら、間違いなく今まで如何していたか問い詰めてくるだろうな」

「他人事では御座いますが、心中お察し申し上げます。ですが場での主役は神子様とヴォルドルムですので、少なくとも話し合いの場では責められないと思いますよ」

「いや、延々と話し合いが続くわけないでしょ? 終わったらすぐに逃げないと」

「泊まっている宿屋が同じなので、時間の問題かと」

「はぁ~~~」


今後の事を考えれば仕方ないのが、踏み出す足が石のように途轍もなく重たく感じる。


「……ところで建物の陰からこっちの様子を窺っている奴等を如何見る?」


街の大通りから、ちょっと裏に入った路地付近に此方を舐めまわすかのような視線で目をぎらつかせている集団が目に入る。


たぶん隠れているつもりなのだろうが、複数の影や服の一部がユラユラと風に靡いて、其処に誰かがいるという存在感を見出している。


街の彼方此方には不審者スパイを捕縛するために信頼がおける冒険者達が配置されているが、此奴等チンピラの為に動いてしまうと逆に警戒心を持たれて姿を現さなくなってしまうだろうな。


「恐らくは何らかの伝手で神子様や儂に掛けられている手配金額を知って、捕まえようとしているのではないかと思われます。儂も神子様も掛けられている賞金は文字通り、桁が違いますからな」

「落ち着いている場合じゃないと思うけど。あいつ等、今にも飛びかかってきそうだし」

「知性の欠片もない屑とはいえ、こんな人の多い場所で襲撃しようとは思わないでしょう。もし仮にいたとしても……」

「な、何を! グエッ!?」


素のレイヴってこんな毒舌なんだと軽く引いていると、馬鹿共が隠れていると思われる路地裏から家畜を〆たような声が聞こえてきた。


「あれだけの人数であるならば、確実に指揮を執っている者がいるはずですからな。勝手な行動をしようとする者を止めない筈はありませんから。逆に指揮する者がいなかった場合は今頃は既に始まっている頃でしょうな」


レイヴはそう言いながら俺を連れて街の大通りから、旧貴族街への境界線である場所へと足を進める。


彼が何を考えているのかは分らないが、何か算段があると見てついていく。


「なるほど。で、レイヴは何処で奴等が襲撃を仕掛けてくると思う?」

「今のところ考えられる場所は2つですな。1つは儂等が泊まっている宿に暗くなってから襲撃する事ですが、此方は無謀ともいえる事なので流石に実行には移さないでしょう。元がつくとはいえ、ギルドマスターであったジェレミアや、多数のAランク冒険者がいる宿を50人にも満たない人数で襲撃しても勝てる見込みはまずないでしょうから。そしてもう一つは今儂等が立っているこの場所ですね」


そう言ってレイヴが足を止めた場所は酒場やギルドなどがある一般街と、既に街から大挙しているが嘗て貴族が多く住んでいた貴族街とのほぼ中間に位置する広場だった。


誰もいないかと聞かれればそうではなく、一応は貴族街に立ち入る者の無い様にと門の前に監視の人員は居るが、彼等は貴族街に直接害を及ぼす者が来ない限りは其の場を離れる事はまずないとの事だった。


「たぶん……というか恐らく此処で破落戸ごろつき連中と戦うつもりなんだろうけど、申し訳ないが対人戦となるとちょっと自信がない。対魔物相手なら手加減する必要はないし、魔法を使っても良いと言うんであれば低魔力で放つ雷魔法サンダーで感電させて身動き取れなくするくらいは出来るんだけど」


自分で言っていて情けなく、結果『期待を裏切られた』と呆れられると思っていたのだが、レイヴから返ってきた言葉は思いも因らぬ者だった。


「儂も神子様も奴等と争うつもりはありませんから。かと言って金銭を渡すつもりも身柄を拘束されるつもりもありませんのでどうか御安心ください」


そう言うが高額な手配金に目が眩んだ奴等が話を聞いてくれるはずもない。如何するつもりなんだ?


「一度でも冒険者登録をした者は例えゴロツキとはいえ、一般人に手を挙げる事は良くも悪くも後から問題になるのですよ。面倒な事この上ないですな」


レイヴはそう言いながら俺を連れて、態と物陰からこっちを見てくる輩に対してゆっくりと歩き、堂々と姿を見せる様にして役場の建物へと足を進めて行く。


役場に行くことで戦わなくて済むようになるんだろうか?


ゴロツキ連中が役場の職員の叱責を素直に聞くとは思えないんだけど。


そう思いながら付いて行き、普通に役場の扉を開けて中へと入った。

役場は外からの土埃を防ぐために入口の扉は二重になっていて、俺とレイヴは最初の扉を開けたに過ぎない。目の前には外と同様に土壁に覆われた二番目の扉がある。


「では神子様、ギルドカードを作った姿へと変身してください。儂も今の姿(クレイグ)から、元の姿(レイヴ)へ戻りますゆえ」


そう言ってレイヴは宿で見せた姿見の魔道具を手に取って握りしめると、途端に時を遡って行くかの如くその姿を若々しいエルフへと変化させる。


俺も何をしようとしているのか分からないままでフィーと同化して、緑髪の冒険者フィロへと姿を変える。


「これで儂等は手配中の元宰相クレイグと冒険者クロウではなく、全くの別人と相成りました。本当は直ぐにでも役場を出てヴォルドルムの屋敷に行きたいところではありますが、此処は休憩も兼ねて上の図書室で時間を潰しましょうか」


レイヴはそう言って役場の窓口で図書室使用の旨を伝えると、3階へと足を進める。


そして図書室へ到着するや否や、階下から物々しい声が響いてきた。

恐らくは俺達を追ってきたゴロツキが何時まで経っても出てこない事にしびれを切らして、役場に突入してきたんだろうが隅々まで調べられたとしてもクロウとクレイグの姿は何処にもありはしない。


現に図書室にもゴロツキの仲間らしき男が悪態をつきながら上がってきたが、其処に前の姿の俺達がいないと分かると、階段の木製の手すりを破壊しながら文句を言いつつ戻って行った。


階段の途中や図書室の貴族街側の、人が通れる大きさのある窓を前もって開けて置いた事で窓から外に逃げたと誤解してくれれば幸いなんだけどな……そこまで頭が良くないか。



その後1時間程度、図書室で時間を潰した俺達は未だ役場前の広場で屯しているゴロツキを横目に、ヴォルドルム卿の屋敷に行くために貴族街へと足を進めたのだった。



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