第120話 罠?
新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
なんとか遅れずに完成する事が出来ましたが、少し短いかも……。
此れまでの流れ……。
1.半年ぶりに訪れたドラグノアの街の様子が見るからに可笑しかった事。
2.ラファルナさんの宿、ジェレミアさんの冒険者ギルドが同街から廃止されていた事。
3.自分自身の手配書に書かれていた、謎の古代文字に従ってデリアレイグの町に来た事。
4.デリアレイグの町から衛兵や騎士、更に大多数の貴族が居なくなった事。
5.風精霊と同化している状態の身分証明証作成の為、冒険者ギルドに『フィロ』という偽名で登録した事。
そして今現在はギルドを出た辺りから俺の後をつけ狙っていた謎の5人を、ガウェインさんの酒場内で出会ったディアナに飯代(1800G)で退治(?)して貰ったところで静かに用意して貰った食事を満喫していると急に酒場内が騒がしくなり、一人のエルフが入ってきたところだ。
そのエルフの名はガウェインさんの口を経由して、Aランク魔物オーガを単独で撃退できる実力を持つ、何故か爺言葉の冒険者レイヴと判明する。
その後、俺の隣の席に座ったエルフが左を向き、食事中だった俺がエルフを確認しようと右を向いたところで俺とエルフがお見合いした形になったところで、何故かエルフが固まってしまった。
「おい、レイヴどうしたんだ? この兄ちゃんはお前さんの知り合いか?」
エルフの様子が明らかにおかしい事に気が付いたガウェインさんが話しかけるも、当のエルフは俺から視線を外さないまま固まっている。かと思いきや、いきなりエルフ言語で話しかけてきた。
『神子様、お久しぶりでございます。よくぞ御無事で……』
このエルフと会った覚えはないんだけどと思っていると。
《マスター、このエルフはクレイグ殿のようです》
《クレイグと言えば、ドラグノアの宰相をしていた人物だぞ? その正体が実はエルフだとは知っているけど、此処まで若くはなかったはずだ》
《恐らく魔道具か魔法などで姿を変えていたのでしょう。人間とは違い、見た目が何時までも若い姿のエルフは目立ちますからね》
《結論から言うと、目の前のエルフはクレイグさんで間違いないと?》
《はい。身体から漂っている魔力の色が本人であることを証明しています》
俺には魔力の色も匂いも感じられないんだけど、エストが言うんだから間違いないだろう。
『神子様?』
何時の間にかクレイグさんの手には強烈な匂いが漂う、茶色の飲み物が入った木製ジョッキを手に、カウンターに背を向けるような形で小声で俺に話しかけている。
ただ気にかかるのは目の前にいるエルフがクレイグさんで間違いないとはいえ、それが俺の味方であるかどうかだ。隙を見せたところで束縛されてしまう危険性も捨てきれない。
そういえば城の魔法騎士訓練所で一度だけフィーと同化した姿を見せた事があったっけ……あれが原因で今の姿の俺を見極められたんだとすれば大失態だったかな。
相変わらず酒場の中は喧騒で五月蠅いが、逆に俺達の言葉は喧騒でかき消されているようだ。
ちなみに5人を始末しに行ったディアナは未だに酒場には帰って来ていない。
『今は拙いです。此処を出た後、適当な場所で説明します』
『……何か事情があるようですね』
『それと新人冒険者【フィロ】でカードを作ったので、人前で俺を呼ぶときはフィロと』
『分かりました』
『じゃ、町に来たばかりの俺に宿を紹介するという名目で酒場を出ましょうか』
クレイグさんは俺の言葉に対して頷くと、手にもっていたジョッキの中身を一気に飲み干してガウェインさんと軽く会話を交わすと席を立って俺の後ろに立ち、取り決めていた言葉を口にする。
「では行くとするか、フィロよ」
「は、はい。ちょっと待ってください。これ食事代の200Gと、ディアナさんへの報酬の1800Gです。事が終われば戻ってくると思うので、申し訳ありませんが渡しておいてもらえませんか?」
「おぅ確かにな。でも急にどうしたんだ?」
「レイヴさんがお勧めの宿屋を紹介してくれるというんで、御言葉に甘えようかと思いまして」
「なるほどな」
「ところで名前を聞いてませんでしたので教えて貰えますか? ちなみに俺はついさっき登録したばかりの新人冒険者でフィロと言います」
「俺はガウェインだ。また来いよ」
その後、酒場の他の客同士の会話から俺が何者かに狙われている事を知ったクレイグさんは念のためという事で先導し、俺はその後ろを付いて行くという形になった。
酒場の外では何者か(ある程度予想がつく)が争った跡があるものの、例の5人とディアナの姿は何処にも見当たらなかった。
酒場から出てギルドから逆方向にある貴族街方面へと足を進めていて思った事はといえば、エルフという人外な存在が町に受け入れられているというところか。
道ですれ違う人が一部の例外を除いて何らかの会釈をしている事こそが、更にそれを納得させる。
ちなみに一部の例外というのは路地付近から殺気立った、今にもクレイグさんを射殺さんばかりの鋭い視線を投げかける、俗にいうゴロツキのような存在だ。
まぁクレイグさんが其方に顔を向けた瞬間に逃げ出してしまうような情けない連中なのだが……。
『あの……俺を何処に連れて行くつもりですか? このままだと貴族街に入ってしまうんですけど』
その言葉通り、俺とクレイグさんが居る場所は酒場やギルドなどがある一般街と、爵位を持つ貴族が住んでいる貴族街を隔てる壁の前でクレイグさんが要請した案内人を待っている状態だ。
『神子様に是非とも会って頂きたい人物がおるのですよ。それと貴族に会うかもしれないという御心配は無用です。今この貴族街には貴族という俗称を持つ者は一人たりとも居りませんからな』
貴族は一人もいない? なら貴族街で俺に会わせたい人物とはヴォルドルム卿ではないという事になる。
ヴォルドルム卿の爵位は貴族としては一番上にある公爵であり、ドラグノアを治める王の兄でもある。
『一体俺を誰に会わせようとしているのか』と聞こうとしてクレイグさんの顔を見ると、その顔は何処か憤怒を思わせるような表情で固く拳を握りしめていた。
それに一国の宰相を務めていたクレイグさんが、姿を変化(元に戻して?)させてデリアレイグで冒険者をしているのも気にかかる事だが、その事についても説明はあるのだろうか。
「レイヴ殿、お待たせいたしました」
そんな風に考えていると、街を隔てる壁に取り付けられている重厚な扉を開けて初老の男性が姿を見せた。 その格好から判断すると、お偉いさんに仕えている執事といったところだろうか。
「大事な用があって参った。不作法は承知しておるが、急ぎ取り次ぎ願いたい」
「承知致しました。ところで先ほどから気になっているのですが、其方は?」
初老の男性はそう言いながら、俺を訝しんだ視線で舐める様に見ると直ぐにクレイグさんが窘める。
「この者も大事な客人じゃ。粗相のないように頼むぞ」
「……では此方へ」
見るからに納得していない感じではあるけど仕方ないだろうな。パッと出の冒険者風情がクレイグさんの立会いの元とはいえ、此処に来て良いとでも思っているのかと言わんばかりの態度だったから。
よく見るとクレイグさんに対しても険しい表情を見せているが……いやクレイグさん本人というよりは、顔の横にあるエルフ特有の長い耳に殺気を帯びた視線を這わせているとも言えるか。
《人間の中には種族の違いというだけで嫌悪感を示す愚か者が存在しますから。推測ではありますが、彼もその手の忌避感を持っているのでしょうね》
《嘆かわしい事だな。見た目だけで判断して、中身を見ようともしないなんて》
その後、町と街とを隔てる壁で会話してから執事風の男性は一度も振り返ることなく、会話もなく貴族街の中でひときわ大きい、2人の騎士風の男が門を護る屋敷へと俺達を誘ったのだった。
屋敷の門を護っている男のうちの一人がヴォルドルム卿の長男であるアシュレイである事から此処がヴォルドルム卿の屋敷である事は間違いないようだが、確かアシュレイはドラグノアで剣騎士隊に所属していた筈なんだけど、一体如何いう事なんだろうか?
宰相だったクレイグさんの事も含めて聞いてみようかな?
この招待が罠でなければの話だけど……。