第118話 冒険者登録再び……
町の門でちょっとした事はあったが無事にデリアレイグの町へと足を踏み入れた俺は懐かしき冒険者ギルドの前へとやって来ていた。
冒険者ギルドがある丘の上から町の様子を見る限りでは以前と同様に活気づいている。
町の路地や大通りには多くの冒険者や町人が溢れ、何人かの商人は地面にシートを敷いて武器や防具、道具類、野菜、果物を売っている。
ドラグノアでは一切見かけなかった光景に、自然と顔が綻んでいるのを感じられる。
が、一つだけ気になる事はといえば図書館を境界にして町の奥にある貴族街が何やら静まり返っているように見える。まるで貴族街に誰も住んでいないかのような不気味な静けさだった。
更に前に貴族街付近で見た騎士や衛兵の姿も全然見かけなかった。
町の入口で話していた門番も衛兵というよりも冒険者、或いは一般人といった方が良いかもしれない風貌だったし。
それでもドラグノアの門番のチンピラ騎士よりも何倍も丁寧だったが。
そこまで見て、いざ冒険者ギルドの中へ行こうと思ったところで足が竦む。
この姿(緑髪の俺)の身分証明をするために新しいギルドカードを作ろうと思っているのだが、此処で困っている事があった。
一つ目は冤罪とはいえ、ドラグノア城の中で騎士殺害の容疑を掛けられて指名手配を掛けられている事。
其の時はフィーと同化していなかったので髪の色は銀髪だったが、果たしてギルドカード作成の折の水晶玉の審査を潜り抜けれるかどうか。
二つ目は元の姿の時に既にギルドカードを作っているという事。
これもどういう結果になるか分からないが『既にカードを作られていますね』と言われた場合。どう言い逃れすれば良いか。ただ単に再発行してくださいと言えば良いのか、それとも俺を誰かと間違えていないかとしらばっくれた方がいいのか。
もう一つの選択肢はこのままギルドに登録せずに、なんとかヴォルドルム卿に会うという方法だが。
そんなこんなでギルドにも入らずに入口付近で腕を組んで考えごとをしていると不意に後ろ(ギルド内)から声を掛けられた。
「あの……先ほどから何をしているんですか?」
「え、えっと邪魔になってますかね。すいませ……!?」
咄嗟にそう言いながら後ろを振り向くと、其処に立っていたのは嘗てデリアレイグの魔法学院に通っていたアリアだった。
ヴォルドルム卿とともにドラグノアに行く際に別れたっきりで、今如何しているのかと思ってたけど。
姉のディアナは相変わらずギルドで頑張ってるのかな? それとも酒場かな?
「あの? 私の顔に何か付いてますか?」
「あ、すいません。知っている人に凄く似ていたんで吃驚して」
似ているどころか当の本人なんだけどね。
「ギルドの職員の方ですか?」
「はい。まだ日が浅いんですが」
「冒険者登録したいんですけど、どうすれば良いんでしょう?」
前にも此処で冒険者になったから登録の方法は良く知ってるんだけど、後後ボロを出さないためにギルド職員に色々教えて貰おうと思ったんだ。
「新規登録の方ですね。じゃこっちに来てください」
嬉しそうな顔をしたアリアに先導されて向かった先はギルドの2階にある、A、Sなどの高ランク専用の受付だ。登録の際に何か問題があった時の為に周りに被害が出ないためと、当の本人を逸早く取り押さえる事が出来る様にとAランク以上の冒険者がいる2階で受付をしていると前の職員が言っていた。
今も掲示板を見ている冒険者風の男女3人が笑顔を浮かべて世間話をしているが、目は笑っていない。
アリアに連れられて2階に上がって来た俺に何時でも飛びかかれるように身構えているんだろう。
「それじゃ登録をする前に冒険者ギルド規則を説明しておきますね」
アリアはそう言うと、所々詰まりながら何も見ることなくランクや罰則など事細かに説明しだした。
前は水晶球に手を触れてから規則を説明してたはずなんだけど……。
《それはそうと、前に同化してない素の状態でギルドに登録してたんだけど大丈夫かな》
《フィーと同化している事で知らない人からしてみれば、全くの別人という事に成りますが。私の知識外の事なので100%大丈夫とは言い切れません》
《それと今の説明が終わってからだと思うけど、水晶玉に触れる事で手配されてるか如何かを判断するんだけど、ドラグノアを脱出する際に冤罪だったとはいえ騎士殺しの容疑を掛けられて、更にドラグノアでも指名手配されてるから、この後の展開がどうなるか……というか水晶玉ってどうやって手配されてるかどうかを判別できるんだ? 誰かが水晶玉に情報をインストールしているわけでもないだろうし》
《いんすとおる? 仰られている言葉はよく分かりませんが、あの水晶玉が私の知っている物と同一の物であるとすれば原理が理解できます。あの水晶玉に手を触れた時点で、対象が発する波動を水晶玉が読み取って発光する事で第三者に情報を伝えるという代物だとおもわれます》
何事もなければ白、手配されている場合は黒だったっけ。
だとすると、ダブりになった場合は何色に光るんだろう?
《ご安心ください。もし水晶玉が白以外の光を一瞬でも放った場合、私が水晶玉にマスターの掌から外部干渉して白に光らせますから》
《そんなことが出来るのか!?》
《水晶玉に限らず全ての魔道具は魔力で動いているので、ちょっと手を加えてやれば簡単に偽装できますよ。少し極端な例をだすと、火属性の魔道具に手を加えて水属性の魔道具に仕立て上げるという形にも》
聞いているだけでも凄い事だな。ホント精霊の力を使えばイカサマし放題ってか? やらないけど……。
「……とこれで以上です。何か質問はありますか? 分かり辛かった事などはありませんか?」
念話でエストと会話しながらアリアの説明を聞く限りでは前と然程変わらなかった。
唯一、前に登録した時とは違っていた事はと言うと……。
何故か知り合いに騎士、または衛兵が居ないかという事。
更に騎士達が敵に回った場合、戦えるかどうかを確認してきた。
話の内容からしてドラグノアを冒険者ギルドから見て敵と思っているという訳だろうか?
「いや、特に分かり辛かったことはなかったよ」
「それじゃ、カードの発行を……って、忘れてましたーーー!」
「うぉっ!? な、なんだ?」
「す、すいません。ギルドの規約を説明する前に水晶玉で確認しなければならない事があったんです」
登録の順番が変わったわけじゃなく、ただ単に忘れていただけなのか。
「それじゃすいませんが、此方の水晶玉に手を触れてください。力を入れる必要はないので、そっと掌を乗せるだけで結構です」
「わかりました」
俺は言われるままに恐る恐る水晶玉に手を伸ばす。
そして掌の一部が水晶玉に触れた瞬間、青い光が放たれたかと思いきや、直ぐにギルド全体に無色透明の白い光が迸った。 階下から何が起こったのかと騒ぎ出す声も多く聞こえてきくる。
《エスト、上手くやってくれたようだね》
《一瞬間に合わずに別の色を発光させてしまいました。申し訳ありません》
「問題ないようですね。一瞬青っぽい光が見えたような気もしますが、気の所為ですね。では最後に貴方の名前と戦闘スタイルをきかせてください」
「俺の名前はフィロ。戦闘スタイルは剣と魔法を少々といったところですね」
流石に『クロウ』と名乗るわけには行かなかったので、適当にフィーとクロウを足した名前を名乗った。
「魔法を使えるんですか?」
「何なら此処で適当な魔法を使って見せようか?」
「いえ此処ではちょっと……」
「別に心配しなくても、周りに被害を齎すような魔法は使わないから」
「そうではなく、この町には他の町にはない魔力結界が施されているんです。その為、町の中にいる限り魔法は発動しないんです。噂話で前に一人、高威力の魔法をギルド内で放ったという話もありましたが、その事を証明できる方が何処にもいらっしゃらないので眉唾ものとされています」
たぶんそれは俺の事だろうな。
ヴォルドルム卿の馬鹿息子ラウェルに脅されて咄嗟にギルド内で使おうとした【ブリーズ】が噂の元になってるんだろう。
あの時に応対してくれたギルド職員が口を噤んでいる事で噂話に留まっているんだろうな。
人の口には戸板を立てられないから、少々の噂は致し方ないか。
「ではギルドカードを作成いたします。少し時間が掛かりますので今しばらくお待ちください。本当は此処で時間を潰すためにギルド規約を説明するはずだったんですけどね。先ほどもお聞きしましたが何か質問があれば何なりとお応えいたしますよ」
「ならちょっと聞きたいことがあるんだけど、もし水晶玉から白以外の光が発せられたらどうなっていたんですか?」
「そうですね。黒い光だと殺人や傷害などで国内外に手配されている方です。この場合は後ろの掲示板付近にいる冒険者の方々が捕縛、もしくは最悪の場合討伐することになってました」
そう聞いて後ろを振り向くと掲示板付近にいた女性冒険者が口元に笑みを浮かべて此方に手を振っていた。
「他に赤い光は罪を犯して、一度でも鉱山送りにされた所謂犯罪奴隷の方が対象で此方にもカードを発行する事は出来ません。最後に青い光が発せられた場合、カードを前に作って失くされた方を意味します。この場合は丸銀貨1枚をギルドに支払って頂く事でカードの再発行が出来ます。ちなみに罰則としてギルドランクは一段階落ちることになります」
その後、何気ない会話を20分程度繰り返したところでギルドカードが完成し、俺にとって2回目となるギルド登録手続きが完了した。




