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第114話 襲撃者の正体

統一された鎧を着た謎の襲撃者が現れてから2時間が経過したころには、森の結界を軸に扇形になる様にしてチンピラ風の男達が手足を縛られて装備を剥がされた状態で気を失って倒れていた。


とは言ってもエルフや獣人、ましてや木の陰から弓矢を構えていたラウラ達が攻撃したわけではない。


揃いも揃って森全体を取り囲む、世界樹が発する不可視の結界に阻まれて外側に弾かれて地面に身体を強打して気を失った者や、弾かれた拍子に仲間に手に持っていた武器で殺されてしまった者、跳ね返ってきた仲間の体当たりを頭に喰らって脳震盪を起こして倒れた者など様々だ。


理由はどうであれ、ハッキリ言ってしまえば自爆以外の何物でもない。


まぁ、眼に見えない壁があること自体が反則なのだが……。



既に息絶えている一部を除いて気絶してしまった者は力の強い獣人が5人がかりで身体を押さえつけながら、最初に両足を其処ら辺にあった木の蔓で硬く縛る。


その後、剣や槍に斧といった武器類を没収してから身に着けている鎧を剥がし、両腕を後ろ手で縛りつつ、猿轡を掛けた上で木に寄りかかるように座らせていく。


鎧や防具を脱がしたとは言っても男達を素っ裸に剥いた訳ではない。

一応の処置として素肌と鎧との間に着る、布の服だけはそのまま着せてある。


にしても気になるのは、こんな何処か抜けた奴等が此処まで無事に辿り着いた事だ。


俺がここを目指していた時に通ったルートは比較的安全だとエストに聞いていたが、如何なんだろうか?


《なぁエスト、俺が此処を目指している時に通ってきた『毒の森』や『大平原』は他と比べて比較的安全なルートだと言ってたけど、他のルートはどんなものだったんだ?》

《マスターが暮らしていたドラグノアの街からだと、他に2つのルートがありました。1つは周囲の物を何でも飲み込んでしまう『ロックウォーム』という巨大種がいる砂漠地帯です。此方は足場が安定していない事と天を貫くほどに巨大な魔物が跋扈している事から、余程腕に自信がなければお勧めできません。 もう1つは普通に樹が生えて普通に草が生い茂っている平原なのですが、樹に擬態している魔物や地面を水の中のように泳いでいる魚型の魔物に加えて、ドラゴンやワイバーンといった竜種の魔物が当たり前のように存在する場所です。その手前には『魔の森』と呼ばれている呪われた森も存在してますので、少しも気が休まる場所がありません。なのでマスターには比較的安全な『毒の森』と大型魔獣が居るものの、遮る物が殆どない、見通しが良い大平原を通って頂きました》

《魔の森って……もしかして400年ほど前に魔術師が変な実験をして瘴気まみれになった森の事?》

《ご存知でしたか。流石はマスターです》

《と言っても、俺も情けない事に瘴気の餌食になった一人だからね。大したことはないよ》


この世界に足を踏み入れた当時の事を思い出して、守り人の皆は如何しているのかと考える。


《話は戻るけど、そんな危険な2つのルートを此奴らが怪我なく無事に通り抜ける事が出来ると思う?》


敢えて俺が通ってきた大平原+湖ルートを外して聞いてみる。 湖はシーサーペントという魔物が居る事から、船で800kmもの水の上を船で移動する事は幾らなんでも不可能だと思ったからだ。


《こう言っては失礼ですが、魔物に襲われる事なく通り抜ける事は不可能です。フィーと同化したマスターが空を飛んで移動するとしても、空にはドラゴンやワイバーンが数多く存在してますから》

《俺も同意見だ。まぁ詳しい事はこれから此奴に尋問して聞き出せば済む事だしな》


最初にメレスベルと交渉していた男だけは猿轡を外して、身動きがとれない状態のままで結界の外側付近に寝かせる。代表して喋っていた事から話が通じるであろうと考えたからだ。


「長老、これなんだ?」


やがて襲撃してきた、総勢42名全員の装備を剥がして後は交渉役の男が目を醒ますのを待つだけとなった時、一人のドワーフが輪っか状のペンダント状の何かを木の枝に通した状態でメレスベルの目の前に持ってきた。


「これ、全員が一個ずつ首から下げてた。防具にはみえない。これ何?」

「はて? 見当もつかぬな。神子様は何かご存知ですか」

「いや俺も初めて見る物だ。この事も踏まえて聞いてみよう」


にしても此奴等はいつまで寝ているつもりだ? いい加減起きて貰わないと日が暮れてしまう。


なので手っ取り早く目を醒ましてもらうために水魔法【ウォーラ】を唱えて、交渉役の男の頭上から水を浴びせる。これでも起きなければ低魔力の【サンダー】を御見舞する予定だったのだが、呆気なく目を醒ましてしまった。ちっ、運がいい奴め。


「な、なんだ、何がどうなってやがる!? 誰か説明しやがれ!」


目を醒ました男はずぶ濡れになった状態で地面に寝転がったまま悪態をついている。


縛られて身動きが取れない状態である事は感覚的に分かっている筈なんだが……自身が置かれている状況を把握していないんだろうか?


「やっと目を醒ましたようだな。お前には聞きたいことがあるんだ。洗いざらい喋って貰うぞ」

「化け物なんかに話す事はねえな! さっさと縄を外しやがれ」

「まだ自分の置かれている状況を理解できていないようだな」


そう言いながら低魔力で唱えた雷魔法【サンダー】を男の顔スレスレになるように地面に落す。


「今のは警告だ。今度ふざけた態度をとるなら確実に当てる」

「良いのか? 俺が死んだら聞きたい事が聞けなくなるんじゃねえのか」

「別に構わん。お前が死んだら死んだで別の奴を叩き起こして聞けばいいだけだしな」


そう言うと男は首だけをまわして仲間が縛られて地面に転がされている風景を見るが、まだ何か隠し玉を持っているのか堂々とした態度で驚くべきことを言い放った。


「てめえ、天下のドラグノア騎士の俺達にこんな真似をしておいて、唯で済むと思ってるんじゃねえだろうな?」


ドラグノアの騎士? こんなチンピラ紛いな奴等が?

後ろで聞いているエルフ、獣人、ドワーフの民は何の事かサッパリだと言わんばかりの顔をしている。


「お前らが騎士だと? いい加減な事をいうな!」

「その様子じゃ『ドラグノア』が何か知っているようだな。分かったらさっさと縄を解きな!」

「お前らが森に到着したっていう証拠は何処にもない。来る途中に魔物に襲われて命を落としたといえばそれまでの話だ。違うか?」


見た感じでは襲撃者が姿を現してから、誰かが離脱したという気配は感じられなかった。


前もって別働隊が動いているとしたら話は別だが、そんな知能を此奴が持っているとは考えにくい。


「おいおい……俺達が魔物なんぞにやられると本気で思っているのか」

「えらく自信があるようだな。失礼だが、結界に体当たりして自爆した奴がそれほど強そうには到底思えないが?」


俺がそう言うと、後ろで手足を拘束された上で猿轡で喋れなくなっている何人かが目を醒まし、ムームーと声にならない猛抗議をあげていた。


「俺達が危険区域を抜けて此処にいること自体が証明にならねえか? それに悪運も強いみたいで、此処に来るまで全然魔物に襲われなかったしな」


と其処まで話した時、男が興奮しすぎたのか木に凭れ掛かった状態から、地面に寝そべるような形へと姿勢が変わった。この時、男の前髪が風で靡いて下から見えた物は見覚えのある刻印だった。


『あれは、確か重犯罪者が鉱山送りにされる時に刻印される物だった筈。聞いた話に因れば刻印を受けた者は刑期を終えた後でも刻印に縛られて奴隷以下の身分に落とされるはずじゃなかったか? それなのにどうして騎士の真似事が出来るんだ?』


「……お……おい、寝てんじゃねえだろうな! 質問に答えやがれ」

「な、なんだ?」

「俺達の処遇はどうなってるって聞いてんだ。用がねえんなら、さっさと解放しやがれ!」

「お前らの事はこれから決める。もう時間も遅いからな。早くて明日の朝までには答えは出るだろうな」

「まてや、このまま俺達を放っておく気か?」

「心配しなくても後で夜食ぐらいは用意してやる。といっても果物くらいしか無いが……それに自分自身で悪運が強いって言ってただろう? なら此処に放置していても何ら問題はないと思わないか?」


この事に関して『ふざけんな!』やら『ム、ムムー』と抗議とも取れる声を聴いたが無視する事にした。


この後、話し合いをするという口実で喚いている男達を見て見ぬふりをして其の場を後にした俺達だったが、エルフの集落に戻る途中でヴェルガとメレスベルから『話し合いなどせずとも我等は神子様に従いますが?』と声を掛けられたものの、男達を反省させるために態と放置したと言うと笑みを浮かべながら頷いていた。


そして男達が身に着けていた武器・防具類は一部を俺が貰い受けた上で残り全てをヴェルガに渡した。


何でも、素材に何が使われているかにもよるが、潰して何かに再利用するつもりなのだそうだ。


男達から取り上げたペンダント状の物は金属ではないという事と、何故か持っているだけで気分が悪くなるとの理由で全部ひっくるめて亜空間倉庫内へと放り込んである。


『そういえばペンダントの事を聞くのをすっかり忘れていたな。今更戻るのも何だか情けないし、明日の朝にでも遠回しに聞いてみる事にするか』


ちなみにペンダントの事についてエストに聞いてみるが……。


《申し訳ありません。見当もつきません》


という答えが返って来た事から、それほど古い物ではないと考えられる。



その後、夕食の時間になって約束通りに果物を持って行くことになった。


これにはメレスベルから『何も神子様が持って行かずとも』と反対されたが、男達が何をしているのか気になると理由を付けて、これだけは譲れないとメレスベルに懇願された上で護衛にラウラをお供に付けて人数分の果物を持って行くことになってしまった。


ちなみに果物を運ぶのもラウラになってしまったので、俺はただラウラの背中を見ながら後ろに付いて行くだけだ。


「お~い、飯を持ってきてやったぞ!」


そして暗い森の中をラウラ先導の元で襲撃者の居た場所に到着して声を掛けるものの、不貞腐れて寝ているのか返事が返ってくることはなかった。 

何かしらの罵詈暴言を吐かれる物と思ってたんだけどな。


その後、結界の外側(結界が俺の目に見えないので、ラウラに聞いて判断)に果物を置いて其の場から無言で立ち去ったのだった。


胡散臭い色気も何もない男には似つかわしくないペンダントを見せて笑いものにしながら色々と聞きたかったんだけど……明日の朝の楽しみにとっておくか。



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