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第110話 騒がしい夕食

俺がお世話になっているエルフ族長老の家の目と鼻の先で、水やり当番の為に果樹園に行くラミ親子と別れた俺は完成間近だと思われる俺の家となる予定のバンガローを横目に長老の家の入口をあけて中へと入ると、俺の帰りを待ちわびていたかのように声がかけられた。


「おかえりなさい」

「お待ちしていました」

「待っとったぞい」


玄関である土間で軽く靴底を拭いて部屋の中へと足を踏み入れると、其処には此処の家主であるエルフ族長老のメレスベルを始めとして、煤に塗れた顔をしているドワーフ族長老ヴェルガ、悲しげな表情で俺に視線を合わせている水棲族長老ミルメイユの姿があった。


メレスベルの家族であるラウラとセルフィは日が落ちかけている今となっても、まだ狩り部隊の訓練をしているのか姿が見えなかった。


「3人とも御揃いでどうしたんです?」


俺がそう聞くと3人が3人共、顔を見合わせると最初にヴェルガが立ち上がって口を開いた。


「まずは儂からじゃな。神子様の御要望であった魔物の肉の毒抜きをする為の鍋が完成したので広場に置いてきたのじゃが、その折に余った鉄材で生活用の鍋、ヤカンを作っておいた。隣にある建物に運び込んでおいた、後で確認してくだされ。焼き用の物は鉄材の量が足りなかったんで微妙な大きさの物になっちまったが」

「それは有難う。毒抜き鍋どころか生活用の鍋まで作ってくれて嬉しいよ」

「前にも言ったが、今掘り進めている鉱山から採れるの物では畑の道具か武器ぐらいしか使い道がない。もし必要があれば何なりと言ってくだされ。御要望の物が出来るかどうかは分らぬが、他の何よりも優先的に作らせて頂く」


ヴェルガがそう言いながら低い背を更に低くしながら俺に頭を下げてくる。


「俺には鍛冶の事は何一つとして分かりません。仮に道具を貸してもらったとしても何もする事が出来ないです。だから何か必要な物があったら遠慮なく依頼すると思います。今日は有難う御座いました!」


俺がそう答えると茫然としながら立っていたヴェルガはソッポを向くかのように壁の方に顔を向けると、袖のあたりでゴシゴシと目の辺りを擦り始めた。


俺の立ち位置からは背中しか見えないので何とも言えないが、擦る腕の高さから言って目の辺り。もしかして泣いているのだろうか……。


「次は私からですな」


言いたい事を言って床にドスンと腰を下ろすヴェルガに代わり、メレスベルが立ち上がる。


「かねてより建設中であった神子様の住まわれる家ですが、ごく一部を除いて完成いたしました事を此処に御報告致します。とは言っても、別に神子様を此処より追い出そうとしているわけでは御座いませんので誤解なさらぬよう」


まぁ俺からしてみても正体を知っているラウラとメレスベルは良いとして、未だ俺の事を勘ぐっているセルフィと同じ屋根の下で済むのが段々と苦しくなってきたのも事実だし、心良く住まわせてもらうとしよう。いつかは何らかの形でセルフィにも説明する日が来るとは思うが……。


「して肝心の未完成部分なのですが、ベッドの数は4個で足りますでしょうか?」

「はっ? ちょっと待ってくれ。それはどういう意味だ!?」

「どういう意味も何も神子様がこの先、めとられる者達の数です。4人で足りなければ後で増設する事も出来ますので、今は我慢してくだされ」

「確かに一部の獣人の子供たちには好意を寄せられている事は確かだけど、それも近く森に新たな獣人がやってくれば其方に興味が行くと思いますよ。俺みたいなオッサンが相手だと彼女達も可哀想ですし。まぁ不老で今のまま齢を取らない俺と10年ほど齢を重ねた後の彼女達となら、つり合いが取れるかもしれないけど」

「いえ昼間に一部の獣人の子らから相談を受けましたが、彼女らは本気の様なので幸せにしてあげて下され。仮に不老とはいえ……ん? 不老? 失礼ですが神子様は私達エルフとは違い、人間の身だった筈では?」

「あっ、まだ言ってなかったね。俺と契約した精霊達との話からすると、始まりの無の精霊と契約した時点で、それまで何処にでもいる普通の人間だった俺は不老。つまり、このまま齢を取らない者になったらしい。ただ『不老』であって『不死』ではないので、色々と気を付けないと駄目みたいだけど」

「おおっ! ではこの先、私の寿命が尽きるまで共に居られるという事ですな。あと数十年で人間族である神子様を看取らねばならないと思っていただけに嬉しい気持ちで一杯です。ありがたや、ありがたや」


メレスベルはそう言いながら建物の中から世界樹のある方向に顔を向けると、涙を流して何度も何度も頭を下げては両掌を合わせて祈っている。


俺からしてみれば1分、1秒先の未来の事は何も分からないので何とも言えない。


何か魔法では治すことが出来ない病気に掛かる恐れもあるし、何者かに寝首を掛かれるとも限らない。


《マスターに害を為す者は私達精霊が許しません。何があっても守って見せます!》

《そうですよ。お母様と比べて、まだ契約して頂いてから日が浅い私達ですが、何人たりともマスターに危害を及ぼそうとする者を近づけさせません!》


エストティアを皮切りにサララクスフィーの精霊から強い意志が伝わってくる。本当に俺なんかの為に有難い事だ。


《私達精霊にとってマスターは唯一無二の存在でかけがえのない御方です。あまり自分自身を卑下しないでください》

《分かってるよ。こちらこそこれからも頼むよ》

《《《《《はい! お任せくださいマスター》》》》》


「あの~~私からも良いでしょうか?」


そう言いながら恐る恐る手を挙げたのは、一番目立つ格好をしているのにも拘らず殆ど存在を忘れかけられていた水棲族長老ミルメイユだった。


「何か非常に失礼な事を想われているような気がするのですが……それは兎も角として。どうして私のところに来てくれないんですかぁ!」

「えっと、どういう事?」

「聞くところに因ると、エルフの広場で皆と会話したり食事したり、ドワーフの集落で酒盛りしたり、獣人の森で子供たちと手を繋いだりして散歩していたそうじゃないですか! 今度こそ、今度こそ私達水棲族のところに来てくれるものと思っていましたのに全然足を向けてもくれないのはどういう事ですか!」

「だって水棲族が住んでいる場所って水の中なんでしょ? どうやったら神子とはいえ、何の変哲もない人間が水の中に行けるのさ。確かに水の精霊と同化すれば水の中でも呼吸することが出来るよ? でも俺が精霊と契約している神子だというのは皆に内緒なんだから如何しようもないよ」

「それはそうなんですが、まるで私達だけ除け者にされてるようで寂しいんですよぉ」


ミルメイユはまるで駄々っ子のように足首に付いてるヒレのような物で家の床をビタンビタンと叩きながら駄々を捏ねている。


最初に会ったときは水の女王様(?)って感じがして、近寄りがたい雰囲気だったんだけどな。


「除け者にしてるつもりはないんだけど。水棲族っていうのは1日中水の中で過ごしてるの? 今のミルメイユみたいに地上を歩くって事は無いの?」

「確かに歩けることは歩けますが、基本的に川とか池とかの水のある場所の近くしか歩けないので、森の奥とか丘の上だとか言う場所には近づけないですね」

「そうか。それなら果樹園の傍はどうなんだ? 今日も何人かが樹の水やり当番とかで向かってる筈だけど、水棲族には水やり当番とかいうものは無いのか?」


幾ら水やり当番とはいえ、遠くから水を持ってきて畑や樹木に水を掛けるのでは効率が悪いという気がして、果樹園の近くに水源は無いのかと遠回しに聞いてみると……。


「私達も森の一員ですので、果樹園の水やり当番も当然担ってますよ。私達の当番は明日から3日間の予定となっていますね。丁度、果樹園の中を縦横無尽に小川が流れてるので私達水棲族が居るのにも困りませんし」

「明日から3日間か。ならその時に俺も水棲族の皆に挨拶することが出来るかな」

「本当ですか!? それなら皆で歓迎しないと!」

「俺も空間倉庫に残っている獲物の運び出しとかで予定が狂う時があるかもしれないし、日時とか時間については何とも言えないけど出来うる限り、顔を出すようにするから。それでも構わないかい?」

「もちろん! 大歓迎です。これなら毎日が水やり当番でも良いくらいですよ」

「それは流石に皆が可哀想だろ……」


ヴェルガ、メレスベルと来て最後のオチはミルメイユと。



でも俺だけの家があるというのは本当に嬉しい事だ。


今日はもう日が暮れてメレスベルの家で、先程の会話に関係しているのか度々思い出し笑いをしているミルメイユの手によって、食事の準備が着々と進んでいる事から御披露目は明日になりそうだ。


そしてヴェルガもまた何処から取り出したのか、自身の体と同じくらい大きな甕に並々と入れられている酒を、木をくり抜いて作ったコップで掬っては嬉々として口に運んでいる姿も見受けられる。


そんな事をしている間に、顔に擦り傷を作って疲れ果てた表情のセルフィと、米神に血管を浮き立たせたラウラが帰って来て、家に集まっている面子に驚いたりもしていた。


結局、その日の夕食はヴェルガ、メレスベル、ミルメイユ、俺、ラウラ、セルフィの6人で執り行われる事となったのだった。



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