第108話 人間と亜人の関係
物見櫓の解体をしていた獣人達に混じって果物片手に周りにいる獣人の会話に耳を傾けていると、俺を此処まで連れてきた狐人族のラミと猫人族のニルが村の奥から少し齢がいっている、狐耳と猫耳の2人の女性の腕を引っ張って俺の前へと連れてきた。
連れてこられた女性は其々ラミとニルに耳打ちされて顔を真っ赤に染め上げながら、何処か恥ずかしがっている表情を見せて、俺の正面にペタンコ座りで腰を下ろした。
「えっと失礼ですが、どちら様で?」
「アタシのママだよ。此れからの事もあるから紹介しとこうと思って」
「お兄さんとは夫婦になるんだから、前もって家族を紹介するのは当然でしょ?」
夫婦って……流石に展開が早過ぎないだろうか?
まぁ、前に言っていた若い男が居ないというのは周りを見て一目瞭然なのだが。
ただ見た目的には性別はおろか、年齢すらも分かり辛いドワーフ族や未だ会ってない水棲族は措いといて、エルフ族には俺と見た目がそう変わらない若いエルフの姿も何人か見受けられた。
エルフは長命種なので見た目が若いとは言っても、下手をしたら3ケタ年齢だからな。
「もぅ! いつまで睨めっこを続けてるのよ」
「まぁまぁラミちゃん。アタシたちが居るから恥ずかしくて話が出来ないのかもしれないよ。此処は場を読んで席を外した方が良くない?」
「それはそうね。じゃ私達は少し離れたところに移動するから」
そう言って少女たちは笑顔を見せながら俺から離れて行った。
普通、お見合いでは『後は若い2人に任せて』と親が席を離れる物だと思うんだけど……。
俺が少女たちを目で見送りながらそう思っていると、不意に女性が重い口を開いた。
「この度は娘が大迷惑をお掛けして申し訳ないです。でも娘が言っている事は冗談でもなんでもないんですよ?」
「この齢で孫が出来るというのも何処か複雑な気持ちですが私は別に反対はしませんし、貴方が何人の娘達に手を出されても構わないですよ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。確かに前もって聞いてた通り、若い男性が集落に居ないというのは見て分かりますけど、御嬢さんらと出会って半日も経ってない見ず知らずの男を如何して其処まで信用できるんですか? それにエルフの集落には本当の年齢は兎も角として、若い男性の姿が多くみられるじゃないですか!」
皆が休憩している場所の隅ではラミやニルと比べてあまり齢の変わらない少年たちが3人だけでモソモソと果物を手に談笑していたが、何故か誰もその3人に話しかける事はおろか目を合わそうともしていない。まるで其処には誰も居ないと物語っているかのように……。
俺がラミ達の親に対して声を荒げた事に対して耳障りだと思っているのか、何回も此方を睨み付けては直ぐに顔を背けるという行為を何回も繰り返している。
「もしかしてあの子たちの事、嫌いなんですか? 狐人の尻尾は手触りが良いんですよ?」
「そんな訳ないじゃないですか。可愛いと思いますし、あの獣耳や尻尾を何時までも触り続けていたいとも……って何を言わせるんですか!?」
「それなら良いじゃありませんか。花嫁修業も、ベッドの中での修業も物心がついた頃からミッチリと教育してありますし。今ならもれなく私もお付けしますよ?」
何処ぞの通信販売じゃないんだから……って言うか、あの子の耳年増な発言はアンタの所為か!
というか何でエルフの若い奴を捕獲しないで、森にばかりの俺を狙うんだ?
皆が皆子孫を増やしたいと思っているのなら実年齢は兎も角、言い方は悪いが手のだし放題じゃないか。
《亜人種は他の種族と子供を作ることが出来ないのです》
《どういう事だ? それだと俺が獣人族からモテる事の説明がつかないぞ》
《例えば獣人族と一言に言っても狐型、猫型、犬型、豹型、鳥型、竜型と様々な種族が居ますが、そのどれもが同じ種族でないと子を授かることが出来ません。これはエルフ族、ドワーフ族、水棲族も同様の事が言えます。ですが何事にも例外があります》
《例外?》
《はい。それは相手が人間であるという事です》
《でもドラグノアでクレイグさんから聞いた話に因ると、人間とエルフとで子供を作るには可也確率が低いという話だったけど?》
《確率が低いというだけで、決してゼロという訳ではありません。ちなみに過去、周囲の反対を押し切ってエルフ族と獣人族で結ばれたという話が幾つかありましたが、残念ながら子を授かる事が出来ませんでした》
《でもその話が本当なら人間と竜人族、人間と鳥族でも子供を作れるって話になるけど。竜種も鳥も母親から産まれる時は卵だろ? どうやったら霊長類(哺乳類)と爬虫類、鳥類とで子供が作れるんだ?》
《此れまでの例が限りなく少ない事と、人間の女性が獣人族を相手にしない事から確実な事は言えないのですが、どうやら母親となる種族がそのまま産まれてくる種族となるようです。人間の男性と獣人族の女性の組み合わせが多いようですね》
それはなんとなく理由が分る気がする。俺でもふさふさな尻尾と耳を見ると触りたくなってしまうし。
俺が精霊と会話していると先ほどまで会話していた狐人の女性が顔を覗き込んでいた。
「どうしました? あの子たちに魅力、感じませんか?」
「あ、いや、そう言う事じゃなくてちょっと考え事を。ところで広場の隅に、俺とそう齢の変わらない獣人族の男性が何人か座り込んでますけど、彼等には娘さんを勧めないんですか?」
俺はそう言って先ほどから此方をチラチラと見ている、広場の隅に此方に背を向けた状態で固まって座っている獣人族を指さした。
そして彼女らが俺の指さした方に目を向けた直後、それまでの穏やかだった表情を一転させて見た者を凍らせてしまうんじゃないかと思うほど冷血な目で睨み付ける。
先程からチラチラと見てきている彼等も、その視線に気が付いたのか逃げるようにして林の中に入って行った。
「あの……」
「あ、すいません。何処まで話しましたっけ。えっと、花嫁修業の事でしたね」
「心配せずとも大丈夫ですよ。森で採れる食材全ての調理を今勉強させてますから」
これはアイツらの事は話題にあげるなと遠回しに言っているのかな?
そうこう言っている間に休憩時間が終わったのか、先程まで寝転がったり周囲と喋っていたりしていた獣人族が各々の道具を持って櫓の方向へと歩いて行く。
そして話をしやすいようにと席を外していたラミとニルも母親の元に戻ってくる。
「お母さん、どうだった?」
「時間があまりなかったから何とも言えないけど、少なくとも私には反対する理由は無いわね」
「アタシたちの事は?」
「よく言えたと思うわよ。と・こ・ろ・で物は相談なんだけど、あなた達に渡す前にちょっと味見してみてもいいかしら?」
「「駄目!!」」
「一口だけ。なんだったら一舐めだけでも良いんだけどな~~」
「「駄目だってば!!」」
というか本人を目の前にして味見とか、手を出すとか、一舐めとか……。
その後、このやり取りは5分程続き、周りに誰も居なくなっても『ある一角』だけは何時までも騒がしかった。