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第107話 お邪魔します

狐耳の少女に右腕を猫耳の少女に左腕を抱きしめられるといった、両手に花状態のままで俺は獣人族の集落へと足を踏み入れる。


時折、ファサっと手触りの良さそうな尻尾が腕に触れて、尻尾を思う存分触りまくりたい抱きしめたいという欲望が頭をぎっていた。


道すがら少女達から自己紹介が為され、狐耳の少女はラミ、猫耳の少女はニルという名前だという事が判明した。 因みにもう一人いた、犬型獣人の少女の名前はと聞くと……。


「それは彼女の口から直接聞いた方が良いよ」

「逆にアタシたちから聞いたなんて彼女が耳にしたら、怒涛の如く怒り狂うと思うから」

「そういえば、お兄さんの名前を聞いてませんでしたね。セルフィお姉さんが名前を呼んでたみたいですけど、出来れば直接お兄さんから名前を聞かせてくださいな」

「俺はクロウ。外見ですぐにわかると思うけど、ごく普通の人間族だよ。ヨロシクね」


自己紹介ついでに頭を撫でようかと思ったが、両腕が彼女らに拘束されている為に出来なかった。


「クロウお兄さんですね。ところで『お兄さん』と『お兄ちゃん』どちらの呼ばれ方が良いですか?」


親戚にも近所にも親しい年下の子は一人もいなかったから、そう呼ばれるのは新鮮味があって良いな。

でも幼げな子供たちから『お兄ちゃん』と呼ばれるならまだしも、自身の腕に抱き着きながら『なぁに?』と首を傾げている、この世界では成人を迎えている少女からそう呼ばれるのはどこか恥ずかしい。


「え、えっと『お兄さん』で頼むよ。『お兄ちゃん』だと少し落ち着かないかな。でも呼びにくかったらクロウさんでも良いよ」

「その呼び方は一緒の家で暮らすようになるまで楽しみにとっておきます。じゃ早速、村の中を案内しますね」


そう言うと少女らは抱き着いていた腕から手を離す。


やっと解放されるという気持ちと、残念だという気持ちとで板挟みになっていると今度は狐耳の少女ラミが左手を猫耳の少女ニルが右手を引っ張る形で俺を引っ張りながら走り出す。


「ちょ、ちょっと待って」

「早く早く、ぐずぐずしてると日が暮れちゃうよ」


大人の俺が中学生くらいの少女に引っ張られるわけなので当然、俺の姿勢は前屈みとなる。

加えて両腕を引っ張られているので、このまま前のめりに転びでもしたら受け身も取れずに情けない姿を晒してしまう事に成る為に必死で回避しなければならなかった。


体格でいえば此方の方が上なので逆に少女らを引っ張る事も出来るが、そうしてしまうと少女たちは後ろ向きに倒れ、運が悪いと腰を強打して怪我をしてしまうかもしれない。


結局何も言えないまま、引っ張られはじめて5分が経過したころ漸く何人かの獣人が作業をしている場所へと到着することが出来た。


「はい、到~着! ここが獣人集落の入口だよ」

「ラミ、どうした? お前は今日は夜まで休みなんだから、ゆっくりしてきていいんだぞ」


そう話しかけてくるのは作業を下から見守っている狐耳の女性だった。


その男勝りな口調を聞いているとドラグノアで別れたジェレミアさんを思い出すが、今はどうしているのやら……ギルドマスターだから仕事に追われているのかな? エティエンヌに引っ掻き回されている姿も目に浮かぶけど。


「うん♪ だからニルと二人でクロウお兄さんを集落に案内してるの」


ラミがそう説明するや否や声を掛けてきた犬耳の女性が、俺と肌が触れそうなほど近くまで寄って来て全身を舐めまわすかのような鋭い視線で見つめてきた。


視線を向けてくる途中から鼻がヒクヒクと動いていた事から身体の匂いでも嗅いでたのかな? 


それほど臭くはないと思うんだけど……最近は風呂に入れてないしな。

水浴びだけでもしておけば良かったかもしれない。


「ふうん。危険そうな香りはしないみたいだね」

「相変わらずだね。その匂いを嗅ぐ癖」

「前に思いっきり腐った果物の匂いを嗅いで3日間鼻が利かなくなったのに全然懲りてないんだね」

「えっと……これは一体?」

「ああ、気にしないで。この人、いつも匂いで判断するから」

「しかも不思議な事に良い人悪い人の的中率が9割以上ってのも凄いんだけどね」

「うん、アンタは信用できる。いつでも遊びに来ていいよ」

「は、はぁ、ありがとうございます。ところでさっきから気になってたんだけど、この建物は何?」


俺がそう問いかけたのは集落の入口付近に建っている、高さが10m近くはありそうな木で作られた2本の塔だった。 


余程重要な物なのか井形に組んだ木を、外側から更に二重にロ形で組んで、更に木と木の隙間に大量の土と砂利、泥で埋めてある。


「ああコレ? コレは物見櫓ものみやぐらだよ。例のラグルと、その取り巻き連中が集落の皆を見張る為の物さ」

「見張る?」

「奴は自身が長老になった途端に集落に住む皆を奴隷の様に扱き使って、何処に行くにしても何をするにしても取り巻き連中の内の1人が付きまとっていたからな。まぁ平たく言うと逃亡防止、他の集落への駆け込み防止、果樹園でのつまみ食い防止。更にいうと事前に許可した者以外の集落への立ち入りを、この櫓の上と木の陰から手下に見張らしていたという事だね」


そう言う話を聞いているとラグルが生きていた期間、此処は収容所だったのではないかという風に聞こえてくる。


こりゃアレが死んだ事に対して喜びはしたものの、誰も悲しまなかったという事が納得できるというものだ。


「で、今はその櫓を解体しているという事だけど、何処か慎重になってるのは俺の気の所為か?」

「確かにアンタの言うとおり、ただ壊すだけってえんなら1日も掛からずに解体で出来るさ。ただまぁ、ラグルが使っていた木ってだけで胸糞悪いが、木を粗末に扱うと森の精霊様のバチが当たるっていうんで、なるべく傷つけずに解体した後に良く洗って汚れを取り、乾燥させて家づくりに再利用してるんだ」


そう説明している最中にも櫓の上で作業している獣人から、地面の上で作業している獣人に上から下へのバケツリレーの要領で、どう考えても人一人の力では持ち上がりそうにない木材が次から次へと降ろされていく。


降ろされた木材は川の近くにいる別の獣人の手に渡ると、草を丸めた物で綺麗に泥などを洗い流された後、乾燥させて村の奥へと運ばれてゆく。


この洗い流す作業のところには、さっき集まっていた子供たちが大人の獣人に混じって作業していた。


まてよ? そうすると俺が此処にこうしている事は、かえって邪魔になっているのでは? と思っていると大人とばかり会話をして、話が弾んでいるのが面白くないのか俺を此処に連れてきたラミとニルの2人が此れまでよりも力強く俺を集落の奥へと引っ張ろうとしてきた。


「もういいでしょ! お兄さんに村の中を案内するんだから。ニル、行こ」


やっぱり子供とはいえ、獣人は力が強いな。俺も決して弱くはない筈だけど、獣人少女2人の力で大の大人が抵抗むなしく引き摺られてるんだから。 まぁ抵抗する気もないんけど……。


その後、2人によって集落に暮らしている様々な種類の獣人族を紹介されて、話が弾んではラミもしくはニルに離されて集落の隅から隅へと案内された。


途中、ラウラとセルフィが入って行ったと見られる狩人部隊の訓練場入口に立ち寄ったが、前に聞いていた通り関係者以外は立ち入り禁止との事で中に入れてはくれなかった。


ただ訓練所の入口を見張っている獣人の男性から話を聞くところに因れば、狩人ランク上位者(1位~10位)の許可と付き添いさえあれば、遠くから見学だけは出来るらしい。


ラウラに頼み込めば何とかならないかなぁ……。


そして櫓解体関係の仕事をしている獣人達の休憩時間になったところで俺も御呼ばれすることになった。


場にはオヤツと称して魔物の骨付き肉が葉っぱの皿に並べられたが、俺は人間なので毒抜き前の魔物の肉は食べることが出来ない事を言うと、代わりに果樹園で収穫された果物を出してくれた。


魔物肉の解体と毒抜き作業しているのは見て知っているが、実際に食べているところを見たことが無いので『本当にこんな物を食べるのか!?』と疑惑の眼で見ていたが、何故かちゃっかりと混じっているラミが口元を魔物の血で赤く染めながら骨付き肉を骨ごと美味しそうに齧っているのを目の前で見せられて、アレは本当の事だったのかと改めて実感させられたのだった。


ちなみに先ほどの話題に上がっていたラグルに媚び諂っていた取り巻き連中はというと……ラグルが火の精霊サラの怒りをかって、其の身を死体の一欠けらも残さずに焼失した当日から今の今まで行方不明になっているという事らしい。

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