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第99話 食料という名の賄賂

聖域の広場に集まる皆の前で此処に来た理由や、ちょっとしたフェイクを合わせて自己紹介をしていると最後の最後で『食糧難』の問題が持ち上がった。


其処で俺は此処に来るまでに討伐した魔物の死体をフィーに言われるままに、聖域の皆に対する土産物として空間倉庫へと収納していた物を出すことにした。


其の時はまだ『こんな物が本当に食べれるのか?』と半信半疑だったが、今目の前に繰り広げられている現象を見る限り、持ってきて良かったと思わざるを得なかった。


「おい、折角の獲物だ。皮の剥ぎ取りは丁寧にしろ!」

「そこ何してんだ。後で均等に分けるって言ってんのに、勝手に持ち帰ろうとしてるんじゃねえよ」


空間倉庫から零れ落ちたウルフの死体から、果てはオークの死体まで皆が寄ってたかって小型のナイフを片手に捌いてゆく。


ウルフの体表を覆っている毛皮を、職人芸を思わせるかのように綺麗に剥いだかと思いきや、その次の者がなるべく血を流さない様に気を付けながら肉を解体し、手に持てる大きさに切り分けて行く。


その次に毒である魔物の血がこびり付いている臓物の類を、火にかけたかめの様な物の中で数種類の葉っぱを入れながら木の棒で潰して、血を絞り出してゆく女性たちの姿があった。


「これはまた何と言うか……件の物を持ってきた俺が言うのも何だけど、凄い騒ぎだな」

「神子様、なんと御礼をいえば良いか。本当にありがとうございます」

「いえ、気にしないでください。実を言うと俺もこんな物が食料になるのかと、半信半疑だったんです。ですが、皆の喜ぶ顔を見ていると持ってきて良かったと心からそう思います」


メレスベルと広場を前に作業を見ていると、次々に解体されているウルフやホーンウルフ、オークの姿は見受けられるが山の様に巨大なベヘモスの姿が何処にも見当たらなかった。


既に解体されて別の場所に運び込まれたのかと思ったが、あれだけの巨体を他のウルフを解体するようなスピードで処理できる筈がない。

そう思いつつ、未だ開いている空間倉庫を見てみると、入口近くに積み重ねられていた物だけが綺麗に無くなって、奥にはまだ20体ほどのウルフの死体と、3体のベヘモスの死体が所狭しに積まれていた。


俺は一旦空間倉庫を消して直ぐ近くに再出現させると、倉庫の中に足を踏み入れて中を確認する。


「あれっ? なんでこれには手を付けてないんだ? さっきまで皮を剥いでいたのも別の場所に手伝いに行ってるところをみると、もしかして気が付かなかったとか?」


俺が空間の入口に立って呆気に取られていると、それに逸早く気が付いた獣人が急に丁寧な口調になって傍に立っている俺に話しかけてくる。


「あの、これも頂いて宜しいんですか?」

「え、ええ、その為に持ってきましたので。ただ大きさが大きさですので、どうやって取り出したらいいものかと……」


そう言って俺は空間の中に収められている3体のベヘモスを獣人に見せる。


明らかに体格差が違い過ぎる事で諦めるかと思われたが、次の瞬間には獣人の身体がブルブルと震えだしたかと思うと両手を挙げて仲間を呼び始めた。


「お~い、まだこんなにも獲物が残ってるぞ!」

「うわっ凄いな。これで何日分の食料が確保できるんだ?」


その声を皮切りに何人もの獣人達が残っていたウルフを運びだしたかと思うと、次に木の蔓を何本も束ねたかのような太いロープを数人がかりで持ってきてベヘモスの胴体に括り付けて、まるで綱引きをしているかのように引っ張り出していく。


「引けーー引けーー!!」

「お前も喋ってないで手伝え!」


《皆も凄いですが、マスターも流石ですね》

《俺は何もしてないぞ。空間の中にベヘモスを運び込んだのもティアの力によるものだし》

《そうではなく【ディメンション】という古代魔法は憶えるのも一苦労で、使える者は此処数百年で数えるほどしかいません。更にいうと此れだけ長い時間、空間倉庫を開けっ放しに出来るのも凄いです。それこそまばたきする間に途轍もないほどの魔力を消費してしまうのにケロっとしているのですから》


確かにエストの言うように身体の中から何かが吸われているような感覚があるが、苦というほどではないな。 恐らくは此れが魔力という物なんだろうが、魔力チートの御蔭だな。


やがて空間の中から巨大なベヘモスの身体の一部が出てきたことで、周囲で既に運び出されていたウルフを解体していたエルフや他の獣人たちが次から次へと綱引きに加わっていく。


やがて30分も経たないうちに引っ張る人数は100人近くになり、空間内のベヘモスに括り付けられた縄は4本に増やされていた。

更にそれから1時間が経過して遂に1体目のベヘモスが地響きを立てながら地面に落された。


「休んでいる暇はないぞ! あと2体あるんだ、頑張って外に出すぞ」


そうは言うが、先の1体を引っ張り出すだけで可也の労力を使ってしまったのか、皆疲れ果てていて直ぐに身体を動かす事が出来ない。


其れに置き場所も他のウルフを解体して出来た骨や皮、内蔵に肉に魔物の血が溜まった大量の木のバケツと、肉の毒抜きをしている最中の鍋に加えて新たに追加されたベヘモスという巨大な獲物でまさに足の踏み場がないとはこの事だろう。 おまけに空も夕焼けの赤から夜の黒に変わりつつあった。


元気なのは頑張る皆に対して只管声掛けをしていた数人の若い獣人族だけなのだが、たった数人だけでベヘモスを運び出せるはずもなく、ただ五月蠅いだけの存在となりつつあった。


「大丈夫ですよ。空間の中に入れてある限り、中身は傷みませんから。また明日にでも声を掛けてくれれば何時でも空間を開きますから焦らないで良いですよ」

「その時はまたお願いします」

「それと終わってから言うのも何ですが、次からは引っ張るのに丸太を使ってみては如何でしょう?」


広場の隅を見てみると、これからバンガローを建てようとでも思っていたのか、長さが5m以上もある皮を剥いだ丸太がゴロゴロと積み重ねられていた。


「丸太を? どうやって使うんです?」

「そこの隅に置かれている丸太のように樹皮と枝を全て落して転がせる状態にしたものを大きな物の下に敷くようにして置いて、其の上に獲物を乗せて引っ張ってやれば、其れほど人数を揃えなくても運び出せると思いますよ」


俺はそう説明しながら地面に落ちていた木の枝で土の上に絵を書いて行く。


「更にそれに加えて空間の入口を地表より高めにして、空間の入口から地面に向かって坂道を作ってやれば簡単に地面に降ろすことが出来ますよ。それに今の様に場所が埋まってしまっても、別の場所に空間を新たに開ければ問題ありませんし」


ベヘモスを■に、丸太を|にして地面を書いていく。


木材が不足する事は無いとは思うが、足りなくなった時の為に先の丸太を回収して新たに並べるという方法も教えておいた。


「なるほど……こんな便利な方法もあるんですね。そうと決まれば」


俺の地面に書いた絵による説明を受けていた猫のような耳と尻尾を持つ獣人の男は、世界樹の前にいるエルフの長老であるメレスベルの元に足早に走って行った。


というか、さっきまでちゃんと2本足で立って歩いてたのに、何で走って行くときは獣のように四つん這いで走って行くかな……。


その途中、何処からか視線が集まっているのを感じ取った俺が辺りを見回すと、ベヘモスを倉庫内から引っ張り出す事に疲れ果てて立ち上がる元気もなくしたのか、地面に腹這いになって倒れている獣人達が、先の四つん這いで走って行った獣人を恨めしそうな目で追いかけていた。


ちなみに恨めしそうな眼差しを向けられていたのは彼に対してのみで、俺に対しては誰からも冷たい視線を向けられてはいなかった事に一安心している自分が其処にいた。





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