表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

雨は酩酊する。

誤認した歌姫の突発的な演技はよかった。

月葡萄酒日ボルドーワイン、天気雨。風は猛々たるものなり。


じめじめする。

鬼哭啾啾きこくしゅうしゅうの庭。

牽強付会けんきょうふかいな花束。

「うーん、気持ち悪いなあ」

僕はこんな青白い雨が降る日が苦手だ。

電波も膨大な量が卑金属に降り注ぐのだ。

混淆こんこうした平仄ひょうそくが食卓に出る。

これがまたびっくりするほどまずいのだ。

トコトコ、トトト、

「なーに更けているの」君がしゃべる。

埋没した精神では如何いかんせん悲しい。

けれど華奢な君がいてくれれば元気百倍さ。

しつこいけれど、僕は君のことが好きなんだ。

すべてを愛しているんだよ。

「今日は外出しないよ」

「あら、今日は家に閉じこもるの?」

「うん。雨が降っているからね。まるで黒魔術ピンクフロイドのような雨だもの。呪われそうさ」

「そうかしら……」

「でも――これで君と一緒にいられるね」

「ばか」

君の頬が赤く染まる。

かわいい奴め。

僕は即物的にその脱け殻を食べる。君の感情の脱け殻。故郷の味がする。母の味だ。先日詣でた墓参りが思い出される。ゾンビーとレクイエムを昏倒デストルドーで炒めたような味。瘴気しょうきに包まれた酸素せいぶつをいかすどくぶつの中で、食べるこの味がおいしいんだよなあ。


「ねえトランプでもしない?」

君のリポジトリが瀰漫びまんする。

十三次元の笑窪がかわいい。まあ、どこの部分でも霧のように白くて奇麗なんだけど。

「暇だし、しようか」

「うん!」

なんて幸福そうな笑顔なんだ!

ますます君を好きになってしまうじゃないか。

――――――

僕がカードを混ぜる。そして一枚ずつ配る。手札は7枚。

おや、なんてことだ。

手札が全てジョーカーだけだ。

こんなこと初めてだぞ?

でもいかさまにしてはあまりにも端正わざとすぎる。

でも、僕がカードを繰んだから、君の罠ではないようだ。

無作為抽出ランダムサンプリングにおける5%の算術誤差とらわれのみかもな。

僕がこの矛盾をを言う前に、

「私から出すわよ」

と君は柔らかな鼻の線をきらめかせて一枚の「尖塔」を提出した。

それは炎帝の司る新橋色のカードだった。

僕はそれに対して「遡航した」ジョーカーを出す。

「ふふ」彼女は余裕の笑みを浮かべる。

結果はわかっていた。というかこの手札の時点で……ねえ。

「負けたよ、僕の負けだ」 

そりゃあ、そうよね、と言って手札のカードを見せる。

「修道士」「アンニュイ」「解剖」「鎧袖一触」

みんな強いカードばかりじゃないか。

「ふふ」君は笑む。


神から庇護されたこの家は、そんな颶風ぐふうには負けない。

だって君と僕の家だもの。そんな暴力じみた暴力でこの愛の城は崩れないさ。

僕たちはトランプを止め、陽炎が昇る部屋で、

ポチッ、と

テレヴィを付けた。

その映像では、襤褸ボロを着る落伍者が自然に擬態していた。

「趣味じゃないわ」

「う~ん」

コロコロとチャンネルを変える。

でも、僕は、「興味深い番組はないな」といってリモコンの赤いボタンを押す。

ぷつん。

テレヴィは完全に沈黙した。

「何しようか?」

君は言う。僕の胸は妖しく鼓動した。

「……」あえて返事をしない。君への――を――するためだ。


そして、僕はいつもの蛍光ペンを取り出す。脳に直接、詩歌を書く。

「産業廃棄物は君への恋文……う~ん」

「詩を書いているの? いいことばのられつじゃない」

「それほどでもないよ」

謙遜する。赤ら顔で――君に褒められるなんてそれほどないからね。

贋物がんぶつの城は君を包む……ってどうかな?」

君が提案する。いいじゃないか。

「おどろおどろしいキップルは喋喋喃喃ぺちゃくちゃしゃべる」続けて君は言う。

砂糖菓子ポルノえいがはガラス細工」僕は負けない。

「面会謝絶は機械仕掛ノコギリけのごとく」

「タイムマシンはただ爆ぜた。運命じんぞうにんげんを殺すように」

ふう。

「……いい詩だね。これもアップロードするの?」

君は首をかしげて訊いた。

僕はいつもあるサイトに詩を投稿している。「無題詩」という名で。それは昏き土壌のように単なるアウトサイダーなのかもしれない。自慰行為かじょうぼうえいかもしれない。けれど、僕は――投稿し続けるだろう。――君の次に大切な趣味そんげんしのほうほうなんだから。

「ううん。これは僕だけのアルバムに挟むんだよ」

僕はやさしい嘘を吐いた。

「そうなの? いい詩なんだけどなあ」

ごめんよ。その日になったらわかるよ。君にあげるんだから。楽しみにしといてくれないか。

僕の意図に反して――いや、賢い君はわかっていたんだと思う。

君は偽善しったかぶりじゃなくて本当に賢い。僕は到底及ばないな。

「もうすぐで私の誕生日よ。何くれるのかしら」

と、彼女は僕に聞かせるように呟いた。

僕のもくろみはとっくに理解できていたんだろうな。

「楽しみにしといてよ。きっと喜ぶものさ」

「うん!」

君へこの詩を捧げる。……これが君へのプレゼント、だなんて今言えないな。君はわかっているだろうけど。

君はわら束のようにしんみりした。

「私もあなたが好きだもの。信用しているわ」

……僕の顔がアプリコットのような色に変わるのが実感できた。


――――――

相変わらず、雨はピチャピチャと降り続けている。

けれど、僕はそれを黒魔術ではなく、――そう白魔術らくえんのトークンのように認識していた。

どうしてだって?

言わなくなってわかるでしょ?

君――五十嵐坂祈いがらしざかいのりのおかげさ。

僕の大切な恋人。うん。僕は君を愛し続ける。

君は言う。

「ねえ」「うん」

わかっているさ。ね。

そのあと、僕は君と雨を楽しんだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ