墓が収斂する。
幻影のギロチンに首を捧げませんか。
久しぶりに母親の墓参りにいこう。
僕は思潮を敷衍しながら双眸を開いた。
「そう。じゃあ、私も行くわ」
「本当かい? きっと母も喜ぶよ」
「うんっ」
君――恋人は僕の母と仲良かったからついてくることになった。
「じゃあ、待ち合わせしよう」
「そうだね」
一緒の家に住んでいるのに別々に行くっておかしいと思う人もいるかもしれない。でも僕たちはそうやって過ごしてきた。まるでそれがデフォルトであるように――狂言綺語のように。
楽しみだ。
君とのデート。なんて、嬉しいんだろうか。たぶん君は外にあまり出ないから、ね、それが僕の鬱憤的不満だったんだ。でも君も確かに人間で僕の恋人。そりゃあ外出するときもあるさ。女の子だもん。
僕は五分前に待ち合わせ場所の戦場にきた。
荒れた城塞。城壁。障壁。がしゃどくろも笑っているや。
やっぱり戦場、紅く濁っているね。
「君はまだかなあ」僕は小さな声で囁く。
まるで運命をもがくように。
その二秒後、
有象無象を巻き込んで、
磊落な君がやってきた。
ピンクのワンピースが、
君の美貌を強調している。
あたかも桜花のように。
「相変わらずコケットリーだね」
「あなたこういうの好きでしょ」
君の三つ目の目がウインクした。
四つ目の目は瞑っていたけど。
さんさんさん。
太陽が高かった。まだ二時くらいだろうか。
その墓は山の一番上にあった。
僕たちは上る。
心情を掩蔽しながら、
脱水症状にコネクトしながら。
空中分解する飛行モービル。
厭世的な入道雲。
堕胎する処女懐胎。
いろんな対象を見ながら、
僕たちは上る。
「ふう」息を吐いた。
「疲れちゃったの?」君は笑う。
「少し、ね」
「じゃあ」といって君は唇を突き出す。
「うん」僕は自分の唇をそれに接着させる。
唾液を通して1GBの情報を交互処理する。
恋人のエピステーメーは聖女の憎悪のようだった。
政治の矛盾点を内包する琥珀色の上位構築。
「いつも通りの冠詞だね」
「うん。theの虚栄がわかるでしょ」
接吻は終わり、再び歩き続ける。
塋域に到着した。
僕たちは墓前で祈った。
世界が終りますように。
世界が始まりますように。
その時、僕の致命的な傷が痛む。
「あんた、きたんだね」
逝った母親の様子がインストールされ、母の言葉が紡がれる。
「楽しくやってるよ。あんたは幸せかい」
と声がかかる。まさしく母だ。
「うん」
数分間、母と会話をした。久しぶりだったけど、なにもかも変わっていなかった。死んでいるからそうなのかもしれない。話によれば、破門された僕の母は、自分だけの天国で娼婦をしているらしい。
「客はいないけど、儲かっているんだよ」
「そうなんだ」僕は唱えた。
まあ、幸せならいいけどね。
母はいつのまにか消滅していた。喪失感はなかった。
飄々した君が言う。
「じゃあ、帰ろうか私たちの家に」
「うん」
いつの間にか日が落ちている。
鮭色に日華が奏でている。
嘘八百。
天地創造。
神の脳髄。
……帰りも多種多様な幾何学を見た。
「僕も死んだら、ここに埋葬されるのかな」
僕はここぞとばかり訊いた。
それに対して冷笑的に君は言う。
「そうよ。きっとそうよ」
「死ぬってどんな感じかな」
「アヘンのようで、仮想化された図書館に近いわね」
「ふーん」
僕は君――五十嵐坂祈りの肩を抱いた。ゼロ距離になるまで近づいた。いわゆる融合ってやつだ。君の精神と僕の精神が触れ合う。二が一になる。いうまでもないが、この現象は数分間だけさ。けど、たぶん忘れはしない。何回も結合したけど、心地よい。気持ちよい。セックスとは違った快楽。だって肉体じゃなくて精神、心だ。それが瀰漫する。剃刀のようでありながら、蜜蜂に似た世界観だ。やっぱり、いいね。
そのまま僕たちは落日を背に坂を下った。真っ赤な円が僕たちを祝福していた。
僕たちは気持ちよかった。