第3話 ムーンストーン
春というには暑い、そんな時期だ。
新しく始めた部活。
新しいことばかりで、身体も頭も疲弊していた。
それでも学校生活には慣れてきて、
高校生活もこんなものかと思い始めていた頃だった。
心に少し余白ができたのかもしれない。
気づけば、無意識に新しい刺激を待つようになっていた。
遠回しに言っても仕方がない。
彼女が欲しい。
そう考えるようになった。
中学の頃にも、
告白やお付き合いのようなものはあったのかもしれない。
けれど、語れるほどの恋ではなかった。
高校生になって、大人になったつもりでいた僕は、
ちゃんとしたお付き合いがしたいと思っていた。
それから僕は、女の子を女の子として意識するようになった。
その中のひとりに、
あの日、僕を軽々と抜き去ったあの娘も入っていた。
上田 花菜さん。
その時の印象は、名前よりも
活発な子だな。という漠然としたものだった。
五月末、シンタロウが入部した。
僕を含む六人はゴールデンウィーク後の入部で、
シンタロウは五月末。
途中入部という割には時期が近い。
サッカー部を辞めてバレー部に来たらしい。
足から手のスポーツに変えるなんて、
中々肝の座ったやつだと思った。
急にシンタロウの話を出したのは、
上田さんとシンタロウが同じクラスで、
僕の隣のクラスだったからだ。
放課後、体育館で準備を終え、ストレッチを始める。
この時間、僕たち七人は他愛もない話をする。
その日の話題は「可愛い子は誰か」だった。
他の部員が思う可愛い子を挙げていく中、
僕は深く考えずに上田さんの名前を口にした。
隣のクラスとは選択授業が被ることが多く、
意識すれば上田さんを見かける機会が多いことに気づいていた。
だからだったのかもしれない。
あの時、彼女の名前を挙げた理由は。
後日知った話だが、
クラスの違う皆があまり興味を示さない中、
ひとりだけ表情に出さず驚いていたやつがいた。
シンタロウだった。
それから数日も経たないうちに、シンタロウからメールが来た。
「上田さんに連絡を教えていいか?」
開いた口がしばらく閉じなかった。
まさか、なぜ。
「別に良いよ。」と返信してから数十分後、
見知らぬアドレスからメールが届いた。
ドキドキしながら開く。
上田さんのソレだった。
まだ直接話したこともない僕たちだったが、
メールでは驚くほど自然に会話が続いた。
どんな出し物をするか、準備は忙しいか。
文化祭の話で持ちきりだった。
けれど僕は、一緒に回ろうと誘うことができなかった。
この時、初めて知った。
上田さんは活発なだけじゃなく、
恥ずかしがり屋でもあるということを。
勇気を出して僕ができた約束は、
文化祭で話しかけるという、
たったそれだけだった。




