何でもできるうちのメイドさんが『心配だから』と一緒に学校登校することになった
「だめですよ、ハルト君。下着はうらっ返しにして洗濯機に入れては」
「はいはーい。明日からやるって」
いつもの俺の部屋での会話。
高校生のプライバシーを考えないそぶりで一人の女子が俺のベッドに座って説教していた。
古めかしい、典型的なメイド服。
艶のあるショートカットの黒髪。
いかにも年頃が好きそうな女性である。
「私は心配です。明日から高校生なんて」
「大丈夫だって。さすがにアンナさんの手なんか必要ないって」
ぼふん、とゲームをしている俺の隣に寝転がってはため息を漏らす。
しばらく、ゲーム画面を眺めていると、
「あっ」
「もう、何度言ったらわかるのですか? こんなえっちなゲームは禁止だって」
「おめーはスーパーマルオをしらんのか」
「しりません」
某会社から発売されているゲームを取り上げ、頬を少し朱色に染めながら続けて、
「とにかく、こんなゲームより高校生として粗相がないか確認するか、勉強するか私と遊ぶかのどれかにしてください」
「今、変な選択肢なかった?」
「ありません」
仕方がないので勉強机の椅子を引き、学校から予習課題として出されたプリントを解き始める。
すると、隅でゴソゴソと音が鳴る。
「……なにしてんの」
「ハルト君が変なモノ持ってないか調査してるんです!」
「……しっかり勉強するんでそれだけはやめてくれませんかね」
男子には見られたくない聖域と言うのがあるのだが。
満足そうに、にまーっと笑顔になると探す手を止め、
「私がハルト君と同い年だからってナメちゃいけませんよ?」
これはなんですか、と取り出したるは水色の一枚の布切れ。…………三角の。
「見なかったことにしてください」
「イヤです」
男子なら一度は夢見たであろう、性別が違えば汚物扱いされるソレだ。
「一生に一度のお願いです。見なかったことにしてください」
「許しません」
平謝りである。
そう、うちの専属メイドことアンナさんは俺と同じ15歳なのだ。
もとは父が何でもできるお手伝いさんを雇おうという話だったのだが、いつの間にか穀潰しである俺の専属のメイドになったのだ。
同い年という関係上、そういう感情も生まれてくるわけで……。
「ほんっとうに、何してるんですか。これ結構高いんですからね?」
「スンマセン」
つまむようにソレを持ち上げ、なぜか元の位置に戻した。
「欲しいなら欲しいと言ってくれればいくらでもあげたのに」
「意味わからん」
思春期男子が聞いても首をかしげるその言葉をも気にせず、
「ところでハルト君。お腹空いていませんか?」
「今勉強してるんだけど!?」
「間食ってやつです。勉強する前にちょっとぐらい栄養を取っておきましょう」
そう言って部屋の扉を開けてちょいちょいと手招きをした。
「今日はハルト君の好きなオムレツでも作りましょうかね」
「やったぜ」
少し乱れたヘッドドレスを直し、こちらに手を差し伸べた。
好物につられた俺は椅子から降りようとしてずでーんと音を立てて転んだ。
「大丈夫ですか、ハルト君?」
「折れてはないと思うけど痛い……」
「こんなんで折れてたらどこにも行けないですよ」
「確かに」
「あちゃー、ちょっとここ擦り剝けてますね。ちょっとまってください」
膝のところを見ると確かに血が滲んでいた。
そして、エプロンポケットから絆創膏をとりだし器用な手つきで張り付けた。
「いつも思うけど、アンナさんって何でもできちゃうよね」
「尊敬は私よりこれからできるご学友にしてください」
ちょっとうれしそうな顔を俯いて隠しながらしながら立ち上がり、
「ほら、キッチンまで行きますよ」
「……照れちゃった?」
「何言ってるんですか。照れてるに決まってるじゃないですか」
「おっ、おう」
案外、乙女なアンナさんもいるのだなと思った。
♢♢♢♢♢♢♢
「おい、なんであんたも制服を着てるんだ」
すました顔でそれを聞き流すアンナさん。
家を出た時から不審に思っていたのだが、なぜか彼女までもが同じ制服を着ているのだ。
「べっつに~? ハルト君と同じ学校がいいってお父様にお願いしただけだけど~?」
「何してんだよ親父」
「あ、学校ではアンナって呼んでね。私もハルトって呼ぶから」
そこじゃないだろ。
ただ、年が同じということから普通の可愛い女子高生にしか見えない。
そんな奴に急に下の名前で呼んだらチャラい奴だと見られるじゃないか。
「しっかし、良く入学できたよな。出願はいつしたんだ?」
何気なく、当然のことを聞いてみると、出願?と首をかしげて、
「そんなの知らないわよ。お父様に裏口入学させてもらったから」
「なにしてんだ」
そういえば親父はアンナさんを特に気に入っていたなと思い出す。
「ねえねえハルト。バスの時間は調べた? 定期券は買った? お弁当は?」
「あんたは母ちゃんか」
「実質母ね」
なれないタメ口を聞きながらカバンをがさがさと調べていると、忘れ物が一つ見つかった。
「やべ……弁当忘れた」
「やっぱりね~。大丈夫、私二人分持ってきてるから、一緒に食べましょう?」
「わかった」
イヤホンを耳に突っ込み、適当な音楽を流す。
ちょっと憧れていた行動だが、案外どうってことなかった。
曲が3つぐらい聞き終えたところでバスがやってきた。
おもむろに、後ろを見る。一つの壁が出来ていた。
「げっ、あれ全部うちの高校かよ……」
「みたいね。あ、扉開きましたよ」
「おう」
この人数だと、俺たちは座れなさそうだ。
「ハルト、あそこの隅の吊革につかまってください。私が入れません」
「しょうがないだろ、一つのバスにいっぱい乗ろうとしてるんだから」
ようやく積み込み終えてバスが発進したかと思えば、曲がり角にぶつかる。
慣性にしたがって大きく体が揺れる。
倒れるかも、と思った時アンナさんによってそれは免れた。
「大丈夫?」
「う、うん……ありがとう」
……やわらかい。ナニがとは言わないが。
妙齢の女性の体に触れるというのは以外にも初めてだ。
ちょっと押し込めば骨の形が分かってしまうのではないかと思わせるほどにやわらかかった。
「……なにニヤニヤしてんの」
「なんでもないです」
ラッキースケベを体感しつつ、気付けばもう学校に着いていた。
ぎゅーぎゅーに押しつぶされた俺とその制服は完璧にくたびれてしまっていた。
「ふー、つかれた。ハルトは大丈夫?」
「う、うん。ダイジョウブ……」
「制服がしわしわじゃない。ちょっとこっちに来て」
ピンピンっと制服のしわを伸ばしてくれた。
「ありがと……」
「うん。じゃあ行きましょ?」
まるで子供を連れていくかのように手を取った。
「アンナさんって母性めっちゃあるよね?」
「まーね? 好きな人にしか母性はでないけど」
「今なんつった」
「さん」付けはやめてね、と的外れな軽口を入れる。
ん?と首をかしげて、なんか変なこと言った?とでも言いそうな表情をする。
「だから、『さん』つけるのは私たちの関係がバレちゃうからやめてって……」
「そこじゃねー! 一個前のセリフ!」
ああ!と手をぱちんと合わせ、
「母性は好きな人にしか出さないよって」
にぱー、と真っ白な歯を見せて
「つまり、アンナは俺のことを……?」
「じゃあ、行きましょうか! もうすぐ授業が始まっちゃいますよ!」
そう言い残して、我先にと駆け出した。
「おおおい!! ちゃんと答えてよおおおおおお!」
てへぺろ、と舌を出したアンナがいつもに増して可愛かった。
そして、息を思いっきり吸い込んで、
「ハルト君が、思っていることと全く同じですよーー!!」
「俺もー!!」
気が付けば言っていた。
心の底にあった感情が初めて引き出せたのだと思う。
そして、
「……ありがとう」
顔を赤くしたアンナが大勢の人に見られながらつぶやくのが聞こえた。
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