第9話 問い
守り導く者――統率者。
限界を越えて輝く存在——勇者。
復讐に全てを捧げる者——復讐者。
この三つが俺に掲示されたクラスだ。
「全部特殊クラスじゃん!しかもロードがあるよ!ロードが!」
クラスチェンジなんかのシステムパネルは、通常は自分にしか見えない。
個人だけの情報だ。
が、パーティーメンバーには、設定で開示できる様になっていた。
まあつまり、俺は今芽衣とパーティーを組んでる訳だ。
芽衣がクラスチェンジのアドバイスをしてあげるって、言って来たからな。
因みに特殊クラスってのは、公式で発表されている基本クラスにはないクラスの事を指す。
要はレアクラスって事である。
「ロード?」
芽衣はどうやらロードってクラス推しのようだ。
「ロードはね、最強ギルドにほぼ必須って言われてるクラスなんだよ」
芽衣は知り合いとギルドを立ち上げており、そのギルドを大きくするのが目標だと道すがら言っていた。
そのギルドを強くするクラスだから興奮している訳か。
「だからお兄ちゃん、ロードにしようよ。ロードロード」
「クラス概要の確認をしてからだ」
テンションを上げ、ロードロード連呼する芽衣を無視して、俺はクラス概要をパネルを弄って確認する。
まずは芽衣御希望のロードからだ。
統率者。
過去やしがらみを捨て、皆の希望を背負い進む者。
その力は味方を鼓舞し、導くだろう。
その能力はパッシブによるギルド強化を始め、ギルドメンバー、パーティーないし、複数パーティーの連合メンバーのアクティブ強化まで担う事に。
本人の強さはそれ程でもないが、その強化能力は他の追随を許さないレベルである。
その強さ故、他クラスより成長が遅い。
中二病っぽい説明文である。
「ギルドの強化に、自分の味方全般の強化か」
追随を許さないって言う位なので、そうとう強力なのだろう。
芽衣がロードロード連呼するの頷けなくもない。
まあ本人が今一って時点で、俺的には微妙だな。
「唯一レベルの有能さなんだよ!もうロードで決まりだね!」
「次は勇者を見てみるか」
芽衣の戯言はスルーする。
勇者。
異世界を救った勇者のみが選択出来るクラス。
ヒーローがこの【アルティメットワールド】の頂点に立つとき、きっと神との邂逅が果たされるだろう。
超越的ハイスペッククラスであり、ありとあらゆる能力に秀でている。
正に勇者と言える強さを持ったクラスと言って良い。
その圧倒的潜在能力の高さから、成長速度には大きな制限がかかっている。
異世界を救った勇者。
そして神との邂逅……か。
どうやら、このゲームに関わっているであろう超越者は、既に俺の事に気づいているようだ。
でなきゃ、俺をピンポイントで狙ったかのような文言は出ないだろう。
にしても神か。
自分をそうハッキリ言い切る辺り、そうとうな自信が伺えるな。
アクアの言葉を信じるなら、邪悪な奴ではないっぽいが……
「あれ?このヒーローってクラスの概要、最初の方が文字化けしてて見えないね」
芽衣がそんな事を言う。
どうやら、異世界帰りの勇者云々の下りは、他の人間には見えない様になっているみたいだ。
その辺りは配慮してくれてるようだな。
まあゲーム内の文言を真に受けて、本当に俺が異世界帰りの勇者だなんて思う奴はいないだろうから、あんまり意味はない気もするが。
「最後は復讐者だ」
復讐者。
己の復讐のために理性も良心も捨て、手段を択ばず突き進む者。
神への邂逅へは最も最短であるが、それと引き換えに多くの物を失う事になるだろう。
圧倒的破壊力を軸に、超人的戦闘力を持つクラス。
その戦闘スタイルは、敵味方関係なく範囲破壊で蹂躙する形だ。
圧倒的強クラスではあるが、同時に多くのデメリットも抱えるため、成長速度は速い。
ふむ、ひょっとしてこの三つのクラスって……俺がこれからどういう道を進むのかってのを、問いかけてるのか?
ロードは過去の怨恨を忘れて、周囲とこれからの事だけを考えて生きる。
ヒーローは、勇者として頂点を目指し、神から異世界へと転移する術を手に入れる。
リベンジャーは、日本での暮らし何て無視するレベルで、復讐のためだけに突っ走る。
そう考えると、ロードはまあ無いな。
メリエスへの報復は確定してるから。
術がないならともかく、何とかなりそうな他の選択肢があるのに、これを選ぶってのはありえない。
なので選ぶのはヒーローかリベンジャーな訳だが……
リベンジャーは最短だけど、多くの物を失うってのが気になる。
なにを失なうんだ?
これがただのゲームなら、ゲーム内のデメリットだけなんだろうが、このゲームには人を越えた様な超越者が関わっている。
なので、デメリットがゲーム内だけで完結するとは限らない。
現実にも影響が出る可能性も……
リベンジャーを選ぶのはリスクが未知数って考えると、無難なのはヒーローな訳か。
まあ復讐は急がないといけない訳でも無し。
ああもちろん、早ければ早いほどいいいぞ。
ただ、リスクと背負ってまで急ぐ必要はないって事だ。
なので――
「よし、ヒーローにしよう」
「えええええ!なんで!?ロードにしようよ!」
俺の決定に、芽衣が大声で不服を唱えた。
まったく五月蠅い奴だな。
このガキンチョは。
「芽衣、ゲームは楽しむためにやるもんだ。まさかお前……俺を召使か何かだとでも思ってるのか? 楽しい楽しくないなんて関係なしに、自分のためにやれって本気で言ってるなら……正直幻滅だぞ」
俺はやかましい芽衣を、強めに嗜める。
これが純粋にただのゲームだったなら、彼女の要望を聞いてやっても良かった。
だがそうじゃな以上、子供の我儘に付き合う訳にはいかないのだ。
「う……そ、そういう訳じゃないけど。出来たらロードになって欲しいなぁって……」
「悪いけど、俺はヒーローに興味がある。期待には答えてやれん。諦めろ」
「うん、分かった」
目に見えて芽衣のテンションが下がり、彼女は俯いてしまう。
なんか子供を虐めてる気分になって、すっごくモヤモヤするんだが?
「まああれだ。レベル50になったらサブクラスを選べるんだろ?その時はロードを選んでやるからさ。そう落ち込むな」
「ほんと!絶対だよ!」
「ああ」
気まずさから約束してしまったが……サブクラスで選んだからって、報復を諦めたってとられないよな?
諦めたのか、じゃあもう会う必要はないよなってなるのが一番困るんだが……
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