第8話 決める
「ふむ……別に攻撃はされてないみたいだな」
体に異常は感じない。
園崎家が実は魔物でしたって事はなかった様だ。
「私も一緒に移動するみたいですね」
ログアウトしたら、アクアはどうなるのか?
それが気になってそのままログアウトしたら、現実世界の方にアクアがついて来た。
どういう原理か全くわからん。
「ゲームに戻るべきかどうか……」
始まりの街で、俺は芽衣と待ち合わせしている。
だが、【アルティメットワールド】はただのゲームではない。
超越的な力を持つ者が関わってる可能性が極めて高いのだ。
下手に続けたら、俺の命がリスクに晒される可能性も……
ただ、水の精霊のアクアは神聖な感じがするって言ってるんだよな。
それなら大丈夫な気もする。
どうした物か。
安全面だけを考えるなら、ゲームはしない一択だ。
だが、これだけの真似が出来る相手に興味がないといえば嘘になる。
間違いなくその力は俺以上のはず。
そしてそれ程の力の持ち主なら、世界の壁を越える方法を知っているんじゃないか?
俺には異世界エローヌに帰って、メリエスの顔面をぶん殴るという目的がある。
だがこの世界で漠然と暮らしているだけでは、その方法を得るのは難しいだろう。
だから――
「虎穴に入らずんば虎子を得ず、か」
覚悟を決める。
ゲーム内で目立ちまくり、このAWを作った奴の興味を引く。
そして何とか接触し、異世界へ渡る方法を伝授して貰うのだ。
もちろんリスクは高い。
それに、相手が転移方法を知らない可能性もある。
だが……
5年も良いように利用されて。
俺の恋心を利用されて。
過ぎた事だと笑ってやれる程、俺の器は大きくないのだ。
アイツをぶん殴るためだったら、喜んでこの命を掛けよう。
なにせ俺は、失う物などない無敵の人だからな。
という訳で、俺は自分の周囲に保護結界を掛けてから、再び青色のスイッチを押してゲームの中へと戻る。
「あ、戻って来た!」
再ログインしたら、目の前にいた芽衣に声を掛けられた。
「街に来たと思ったらすぐログアウトするんだから、ビックリしたじゃない」
「ああ悪い。一旦、試しにログアウトしてみたんだ」
「そうなんだ」
「しかし……姿はそのまんまなんだな」
芽衣は、一目で分かるレベルで芽衣の姿形をしていた。
まあ身に着けているものは違うが。
ざ、ゲームって感じの、複雑なデザインをした物を身に着けている。
「そうだよー。このゲームは、初期は本人の姿がそのまま採用されるの。一応姿形は変えられるけど、そっちは追加料金が結構かかっちゃう感じ」
「ふーん」
まあ、姿形は別段変える必要はないだろう。
俺は自分の姿が気に入ってるからな。
そもそも、そんな金もないし。
無一文ですから。
「その反応なら、お兄ちゃんは姿変える必要ないみたいね」
「ああ」
芽衣は俺の横に浮くアクアには触れてこない。
どうやら見えていない様だ。
まあ精霊は、精霊力の無い人間には見る事が出来ないからな。
それはこのゲーム世界でも同じなのだろう。
「じゃあまずは天職クエストに案内するね。あ、転がる職の転職じゃなくて、天の職って書いて天職ね」
「天職?」
「うん。ゲーム開始時にパーソナルデータが読み込まれて、自分に合ったクラスの中から選ぶんだよ。天賦って奴ね」
「好きなクラスには付けないって事か」
「うん。まあちょっと不便なんだけど、そこがまた現実らしくて、リアリティがあっていいんだよねぇ」
現実らしくてリアリティがある、ね。
そういうのを忘れる為にゲームってのはある気がするんだが……ま、ある程度リアリティがあった方が没入感が上がるとも言うし、それを優先してる感じか。
「じゃーん!ここの教会が天職所ね!」
俺は芽衣から色々なレクチャーを受けつつ、街の南側にある大きな教会に連れてこられた。
街は結構広く、歩いて10分ぐらいかかっている。
そんなに広いと、用があるたび時間が飛んでいく?
それなら安心してくれ。
街中は一度行った事のある要所ポイントには、簡単に飛べるようになってるから。
なので、二度目以降はすぐだ。
「ほっほっほ。当アルティメット教会に何か御用ですかな」
中に入って礼拝堂に行くと、そこにいた白髭ローブ姿の、ざ、神父って感じの爺さんに話しかけられる。
チュートリアルの受付もそうだったけど、このゲーム、結構相手から話しかけてくる感じなんだな。
「天職に着きたいんだ」
「そうでしたか。でしたら、女神像の前で祈られるとよいでしょう」
芽衣の方を見るとうんうんと頷いているので、それだけでいい様だ。
なので俺は女神像の前に行って祈る。
『転移方法を見つけてエローヌへと戻り、メリエスの顔面をぶん殴れますように』
と、クラスチェンジに全く関係ない切なる願いを。
別に願うのは何でもいいんだよな?
それともクラスチェンジ関係じゃないと駄目か?
「お」
俺の目の前に三つのパネルが生み出された。
その三つには、それぞれ別のクラスが表示されている。
どうやら願いは何でもいい様だ。
そして啓示された三つのクラスは――
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