第6話 フルダイブゲーム?
完全な体験を約束すると謳って発売された、フルダイブMMORPG【アルティメットワールド】。
ゲーム筐体は特殊な物が使われており、人がすっぽりと入るタイプのカプセルに入って脳波でコントロールする形となっている。
その販売価格は200万円と、ゲームと考えた場合相当高額な物だ。
そのため初動は鈍かった。
だが先行プレイヤーの体験記や、ゲーム内の派手な映像が拡散するにつれ、出足こそ鈍かった売り上げはどんどん右肩上がりに。
そして販売から半年を経て、アルティメットワールド――通称AWはその販売数を全世界販売数300万セットに達する。
200万円もする単体のゲームが300万セットも売れたのは、正に脅威と言える売り上げだ。
だがAWの快進撃は止まらない。
更に売り上げは勢いを増して伸び続けており、現状は生産が全く間に合っていない状態だ。
このままの勢いが続けば1,000万セットを軽く越え、それ以上の普及が予想される期待の新次元ゲームとなっている。
◆◇
「おー、こりゃ凄いな。どうみてもゲームには見えねぇ」
屋敷にある、ゲーム専用の空間。
そこにはくっそデカいカプセルが三つ並んでいた。
芽衣の父親の会社が販売元と提携しているらしく、兄妹三人分として寄贈されたものだそうだ。
ただ、今現在プレイしているのは末っ子の芽衣のみで、大河と玲音はプレイしていないとの事。
「でしょ?でもやってみたらわかるよ。もうすんごいんだから」
「正直、ちょっと期待してる」
いやー、フルダイブなんて言ってもどうせバイザー的なの被って視界が、とかってしょぼいのを想像していたんだが、一つ200万円もする本格的な筐体見せられたらちょっとワクワクして来るわ。
「じゃあこれ被って。で、カプセルに入って入って」
早くしろよと、芽衣がせかせて来る。
俺もワクワクしてるので促されるままにヘルメットをかぶり、カプセルに入った。
「そこの青いボタンあるでしょ?それがゲームスイッチ。あと、横のタイマーは強制終了タイマーのセットね。ま、ゲーム内でも時間は見れるから私は使ってないけど」
「なるほど」
あらかじめゲーム時間を決めて、熱中して用事とかを忘れない様にするための機能って訳だな。
「ゲームはこの青いボタンを押すだけでいいのか?」
「うん。じゃあチュートリアルが終わったら、はじまりの街で待っててね。私が色々と案内してあげるから」
「わかった」
俺は青いスイッチを押す。
すると、視界が一気に切り替わった。
「うお!」
カプセルの中にいたのが、気づけば変な建物の中にいた。
「ここってゲームの中って事だよな?」
手足を動かしてみると、その通り俺の体が動く。
体のあちこちに触ってみると感覚もある。
「スゲーな。マジで本物みたいじゃねーか。こんなもん良く作ったな。科学文明おそるべしだ」
ふと思う。
ゲームの中の体を動かしてる俺の本体って、今すっげー無防備じゃないかと。
好奇心に任せて何も考えず始めてしまったが、冷静に考えて、今の状態を狙われたらと考えると……
「うーん、ちょっと不味いか」
魔物の襲撃はないと思う。
けど……園崎家の人間が攻撃してこないとも限らない。
一応血縁関係ではあるけど、それがイコール、味方であるという保証にはならないからな。
最低限の保険はかけておいた方がいいだろう。
勇者の癖に、人間に攻撃された程度で不味いのか?
まあ、普通に人間に攻撃された程度ならどうって事はない。
包丁程度なら余裕で跳ね返すし、銃とかでも全然平気だと思う。
けど、俺の知らないのとか、強力な兵器がないとも限らないからな。
例えば、ロケットランチャーでカプセルごと吹きとばされるとか。
そこまでやられると、流石に無防備で喰らうのは宜しくない。
「いったん中止して……お、コンソール画面が出たな」
システムパネルなどは、考えるだけで出る様だ。
「タッチパネル形式で行けばいいのかな」
指で弄ると、コンソール画面が反応する。
「ゲーム終了、と。げ……チュートリアル終了までログアウトできないのか」
なら、さっさとチュートリアルを終わらせて、防御魔法を……って、そういやこの状態で魔法を使ったらどうなるんだ?
ふとそんな事を思う。
魔法自体発動しないのか。
それとも現実の方で発動するのか。
「一度試してみるか」
魔力自体は感じられる。
取りあえず、精霊召喚辺りを使ってみよう。
本体側で発生しても、精霊召喚なら外に被害は出ないだろうし。
「サモン、アクア」
水の精霊を召喚してみる。
すると俺の目の前に、手のひらサイズの、青い妖精みたいな水の精霊であるアクアが姿を現した。
「マジか……」
いや、ゲーム内で魔法が発動するのかよ。
どうなってんだ、このゲーム。
意味が分からん。
「勇者様。ここはどこでしょうか?この世界からは、とても不思議な力を感じるのですが?」
アクアが尋ねて来る。
「不思議な力?」
「はい。超自然的な、まるで神様の様な力をこの世界から感じられます」
神の力。
残念ながら俺には感じられない。
だが精霊が嘘を吐くとも思えないので、きっとそうなのだろう。
「だとしたら……」
何らかの超常的な力が、このゲームには働いているって事か。
精霊をこのゲーム世界で召喚出来ていなければ、『科学スンゴイ!』で終わって疑問一つ持たなかっただろう。
けど冷静に考えたら、俺のいなかったたった5年でここまでデタラメな進化を遂げるのってありえないよな。
何らかの超常の力が働いているってんなら、そっちの方がよほど納得できるって物だ。
なにせ異世界がある訳だからな。
この世界にも、神様みたいな奴がいてもおかしくはない。
「何者かわからん超越者の係わるゲーム。ふむ……このゲームはしない方が良いのかもな。何されるか分かった物じゃないし」
「それは大丈夫だと思いますよ。この世界からは、悪意の様な物は感じませんから。それどころか……ここは清らかな世界と言って良いくらいです」
「悪意はなく、清らかな世界か……」
悪意とかその辺りに、精霊は凄く敏感だ。
その感覚を生かし、異世界では人間に化けた魔物をあぶり出すのに随分と活躍して貰っていた。
なにせ、一度腹を思いっきり魔物の不意打ちで刺されてるからな。
それ以降は、もうずっと精霊をだしっ放しよ。
ああ、メリエスの部屋に行く時も出しときゃよかったなぁ。
そうすりゃ、不意打ちで送還される様な事もなかったってのに。
いやまあ、これから男女の営みを致そうって時に、精霊出しっ放しは流石にあれか……
拙作をお読みいただきありがとうございます。
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