第4話 金持ち
警察署の外には高級な外車が止めてあった。
それが母の足の様である。
身なりや、背後に付き従う男から察してはいたが、かなり金を持ってそうだ。
「私はね、どうしても叶えたい夢があって」
母親が、どうして父と離婚したのか。
その辺りを、聞いてもないのに話してくる。
どうやらデザイナーとして成功したかった母と、父親とで、揉めて分かれたって感じらしい。
で、その際、親権を父が持つことが離婚の条件だったそうだ。
その後母が俺に会いに来なかったのは、父が結構すぐ再婚して、自分が姿を見せても俺を混乱させるだけだと思ったかららしい。
「私は翔より仕事をとったの。ごめんなさいね」
「いや、まあ別に謝らなくてもいいよ。別に不幸だったわけでもないし」
子供の頃から苦労して……って感じなら、恨みもしただろうが、そんな事は全くなかったからな。
普通に生活できてたし。
父は勿論の事、後妻として結婚した母も、俺の事を本当の息子の様に可愛がってくれてから。
父と母の顔を思い出し、ふと考える。
二人は交通事故で重体になり、治療の甲斐むなしく亡くなる事に。
もしあの時、今みたいな力があれば、俺は二人を救うことは出来ただろう。
と。
召喚の際に引き出された力は、俺の中で眠っていた力だ。
もし自力でそれが引き出せていたなら……いやまあ、流石にそれは無理か。
力を引き出せても、魔法はどう考えても使えなかっただろうし。
ま、過ぎた事だ。
考えても仕方ない。
「今更、私が翔の母親を名乗るのは烏滸がましいって事はわかってる。でも、私は貴方の力になりたいの。どうか翔と関わらせてちょうだい」
「まあ正直なところ……俺も色々とあってさ。今は生活を立て直す必要があるから、手助けして貰えるのなら助かるよ。ただ、一つだけ約束して欲しい」
「何でも言ってちょうだい」
「俺の5年間の事は詮索しないでほしいんだ。ちょっと人には話したくない内容だからさ」
話したくないって言うか。
話すと頭おかしくなったと思われるから、話せないってのが正解だけど。
ああもちろん、母親ってだけで、自分の力を見せる様な真似はしないぞ。
血が繋がってるってだけで、信頼関係なんてないに等しいしな。
「ええ、分かったわ」
程なくして、車は一件の大きな屋敷へと到着する。
どうやらここに住んでいる様だ。
「いい所に住んでるね」
「こちらは別邸になります」
「あ、そうなんだ」
運転している七三が口を開いた。
どうやらここは本宅じゃないみたいだな。
これで別宅とか、相当金を持ってるみたいだな。
想像以上である。
「色々と説明をしなくっちゃいけないから、今日は取り敢えずこの別邸の方に泊まって頂戴ね」
「ありがとう。助かるよ」
車が、何台か車が止まっている駐車スペースっぽい所に止まる。
「奥様。お坊ちゃま方が来られている様ですが……如何いたしましょうか?」
母親は再婚し、俺には3人の弟妹がいた。
移動中、その説明は聞いている。
「困ったわね」
たぶん、家族への紹介はまた今度にする気だったんだろうな。
だから俺を別邸の方に案内したんだろうと思う。
もしくは、紹介自体する気が無かったか、だ。
ま、その辺りはどっちでもいいけど。
どうせそう長く世話になる気はなかったからな。
弟妹だって、いきなり現れた俺と姉弟としてやっていくってのは面倒くさいだろうし。
「翔。本当はもっと落ち着いてから紹介しようと思ってたんだけど、あの子達勝手に来ちゃったみたいで」
弟妹共は、母親の言う事を聞かないタイプの様だ。
絶対甘やかして育ててそう。
「構わないさ」
まあ紹介する気だったなら、いずれ顔を合わせる事になる。
ならその遅い早いに意味はない。
「おかえりなさいませ」
車を降りて屋敷に入ると、侍女っぽいのが10人ぐらい並んで待ち受けていた。
ざ、金持ちって出迎えだ。
「お母さんおかえりー」
メイドとは違う、玄関に居た小学生高学年ぐらいのツインテールの女の子が手を上げた。
服装は動きやすそうなスポーティーな感じで、金持ちにしては普通の子供っぽいものを身に着けている。
たぶんこの子が俺の妹だろう。
お母さんって言ってるし。
違ったら逆にびっくりだ。
「芽衣。紹介は今度にするって言ってたでしょ」
「えへへー。お兄ちゃん達が見に行くって言ってたから、付いてきちゃったー」
芽衣って子は、良く言えば笑顔が可愛らしい。
悪く言うとアホっぽい感じの子だ。
「その人が例のお兄ちゃん?ふーん、なんか……ぱっとしない感じだね」
ぱっとしないと来たか。
人を見る目がない奴だ。
こちとら異世界を救った勇者様だぞ?
ま、所詮おこちゃまには難しいか。
「私は芽衣よ。園崎芽衣。11歳。よろしくね、お兄ちゃん」
「俺は天道翔だ。俺の事は気軽に天道さんと呼んでくれていい」
「うん、分かった。よろしくね。翔お兄ちゃん」
全然わかってねぇじゃねぇか。
礼儀のなってないガキだ。
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