第15話 100倍②
「1割か……」
俺のライトニングエクスプロージョンが炸裂し、イカさんが雷の渦にのけぞる。
弱点属性にもかかわらず――事前に芽衣から聞いていた――与えたダメージはたったの1割。
つまりあれを倒すには、同じ魔法を十発も叩き込まなければならないって事だ。
因みに、雑魚には無いがボスはHPゲージが見える仕様となっている。
「すっご!1割も削れたよ!翔お兄ちゃん!」
ダメージが芽衣の想像以上だったのか、彼女のテンションは高めだ。
それに反して俺のテンションは低い。
10発分位普通に我慢できる。
だが、ゲームで一番弱いボス如き相手にあの痛みを10回も我慢する羽目になるとか、ゲンナリもいい所だ。
「おっと!」
「わっと」
イカの砲塔の様な口が膨らみ、黒い墨が吐き出される。
もちろんこちらに向かってだ。
俺と芽衣はそれを後ろに飛んで躱す。
「結構射程が長いな」
ライトニングエクスプロージョンは射程が長いので、かなり離れた場所から撃っている。
なので、即座に反撃が飛んで来るとは思わなった。
「ボスの遠距離攻撃だしねー。さっきの魔法の威力は凄かったけど、レベル1じゃ今の魔法を10発も打てないでしょ。どうする?撤退しちゃう?」
墨を吐いたイカがこちらに突っ込んでくる。
どうやら近距離戦闘優先の様だ。
接近戦を仕掛けて来るなら……
「いや、普通に戦う」
俺は再び無音魔法を詠唱する。
但し、今度は攻撃魔法ではない。
身体強化の魔法だ。
そして続けて別の魔法、武器に雷を付与する魔法を発動させる。
痛みを堪え。
「わ!なにそれ!?そんなスキルあったの?」
遠距離魔法で10発分我慢するより、これなら合計3回分の済むからな。
肉体強化と弱点を突いた物理戦闘なら。
まあ勝てるなら、ではあるが。
「ぎゅおん!」
目の前に迫ったイカさんが、その足を頭上から叩きつけて来る。
「わっ!巻き込まれちゃう!」
「ふっ!」
俺はそれを躱しつつ、剣で切り付けて見た。
「って!?一刀両断!?」
俺の一撃でイカの足があっさりと跳ね飛ぶ。
そのさまに芽衣が驚きの声を上げる。
楽勝だな……
回避は簡単。
一撃の与ダメージは1割ほど。
肉体強化と弱点属性での攻撃なら、簡単に処せそうだ。
一応、頭からのイカミサイルは気を付けた方がいいのだろうが、それもこのダメージなら使わせる前に仕留めてしまえばいいだけの事。
「切り刻む!」
俺は横凪に飛んで来たイカさんの足を切り飛ばす。
そして一気に間合いを詰め、その胴体を滅多切りにしてやる。
「ぶしゅうううううう」
俺の攻撃を受けたイカさんのHPゲージが一気に0になり、そして何とも言えない断末魔を上げて消えていく。
頭上には『レイドボスディフィート』の文字が。
そしてレベルアップ音が連続に鳴り響き。
更に、『主人公補正上昇』のパネルが表示される。
どうやら、ソロでボスを討伐すると主人公補正が上がる様だ。
「いや……いやいやいや、お兄ちゃんいくら何でも強すぎでしょ!?適正レベルだと100人は必要なボスだよ!?」
「勇者は凡人の100倍は強いって事だ。なにせ必要経験値100倍な訳だからな」
実際は、この世界の人間基準なら100倍どころじゃないが。
ペナルティナシなら100人ぐらい瞬殺する自信あるし。
いやまあもちろん、そんな真似はしないけど。
「えぇー……もうそれ、ゲームバランス滅茶苦茶だよ」
俺もそう思う。
だが俺はガチの勇者だからしょうがない。
強くて済まんな。
「まあレベルが上がって、装備の比重とかが……くっ……」
死ぬほど無双できるのは序盤だけ、そう言おうとして言葉を詰まらせる。
全身に激痛が走ったからだ。
「お兄ちゃん?どうしたの?」
ダメージは受けていない。
そもそもこのゲームでは、ダメージを受けてもちょっとした衝撃を感じるだけの仕様だ。
ダメージに応じて痛みを受ける仕様だったら、芽衣みたいな子供、というかほとんどの人間がこのゲームをプレイしてないはずである。
つまりダメージじゃない。
考えられるとしたら……ペナルティか。
だが何のペナルティだ?
魔法のペナルティは詠唱時に受けてるし……まさか魔法で肉体を強化した反動とかか?
「ああいや、なんでもない。気にしないでくれ」
怪訝そうな芽衣に、俺はなんでもないと返す。
痛みのレベルは魔法と同じ程度だ。
不意打ちだったので、ちょっとびっくりしただけである。
痛みってのは、覚悟してる覚悟してないかで全然違ってくるからな。
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