第11話 初狩り
連れてこられた狩場――という程でもないか。
街の門をくぐった直ぐの場所には、チュートリアルで戦った小鬼がわんさかいた。
現実で、門を一歩出たら敵対生物うじゃうじゃとかありえない。
四六時中問題起きまくりである。
流石ゲーム。
ああいやでも、そうとも言えないか。
なんか街中に熊がポンポン出て来るご時世だしな。
むしろ高い塀で囲まれてて、門以外の出入り口がないこのゲーム世界の方が安全まである。
「見てて。私のお気に入りを見せて上げる。ビーストフェスティバル!」
魔法少女に変身した芽衣が、手にした鞭で地面を叩くと魔法陣が描かれ、派手な演出が巻き起こる。
カラフルな光の渦が立ち上がる的なの。
そしてそのエフェクトの中から半透明の動物——霊体か何か?——が大量に飛びだして来た。
「皆やっちゃって!」
芽衣が指示を出すと霊体の獣達は、数匹固まっていた小鬼に一斉に襲い掛かってあっという間に蹂躙してしまう。
オーバーキル待ったなしである。
「へへ、どう?」
「どうって聞かれてもな……」
因みに変身シーンはちゃんとあったが、興味はないので割愛しておく。
格好に関しては、ピンク色の可愛らしい、足元ロングブーツの動きやすそうなドレスっぽい服装だ。
頭部に関してはポニーテールのまま変なティアラが乗っかってる感じ。
「魔法少女のメイン武器って鞭なのか?」
「鞭はこの魔法の威力が上がるから装備してるだけだよ。普段はグローブとかロッドだね」
チュートリアルに出て来る小鬼相手に、レベル80台の魔法少女が威力を上げる必要性は全く感じないんだが?
「後、鞭を使った方がそれっぽいでしょ?」
「なるほど」
そっちなら何となく納得出来る。
ゲームで効率を追求するだけってのは、寂しいもんだからな。
趣味を入れるのは当然の行動だ。
「ふふ、他のフェイバリットもみせてあげるね」
いや、遠慮しておくとハッキリ言ってやりたかったが、まあ相手は子供だしな。
少し位は我慢してやろう。
「へへへ、どうだった?魔法少女カッコいいでしょ?」
演芸会終了。
「ああ、そうだな」
4種類ぐらい派手なのを見せられたが、特に俺の心に響く物はなかった。
なのでとうぜん返事は社交辞令的な物だ。
つまらん!
とか子供相手に大人が言う言葉じゃないからな。
「じゃあお兄ちゃんも狩りしてみようか。あたしがビシバシ指導してあげるからね」
芽衣が得意げに行って来る。
子どもって自分が得意な事を、偉そうに指導したがるよな。
まあでも残念ながら、百戦錬磨どころじゃないぐらい異世界で戦って来た俺に、アドバイスなど完全に不要だ。
少なくとも、動きに関してはな。
「じゃああいつらを」
「あ、お兄ちゃんそれは駄目だよ!最初は一匹づつにしないと」
少し離れたところに三匹組がいたので、そいつらを狩ろうとしたら芽衣にストップをかけられる。
「あたしが派手に吹き飛ばしたから分からないと思うけど、チュートリアルのは弱体化されてるからね。だから一回勝ったからって油断しちゃダメ。ステータスが高くても、最初はちゃーんと1匹づつ狩らないと」
「体を動かすのは得意だから、3匹ぐらいどうって事はない。まあ最悪、強い芽衣が助けてくれればいいし」
単独の敵が近くにいればそっちを狙えばいいだけだが、周囲の奴は複数で固まってるやつばかりだ。
一々歩いて探すのも面倒くさいので、芽衣を頼る風にして許可を引き出す。
子供ってのは、自分が頼られてるって行動に直ぐ乗って来るもんだからな。
まあそもそも芽衣なんか無視してもいいんだが……相手は子供だしな。
素気無く扱うのはやはり気が咎めるし。
「もう……しょうがないなぁ。翔お兄ちゃんは」
芽衣が満更でもない顔になる。
ちょろい奴だ。
所詮はおこちゃまよ。
「ぎゃぎゃ!」
「ぎゅぎゅ!」
「ぎょぎょ!」
ある程度近付くと、プチデビル三匹が鳴き声を上げて突っ込んで来た。
特段、動きの速さに違いは……まあ若干早い気がしなくもない。
完全に誤差レベルだ。
狩場に行く前に買った装備は盾と剣、後、革製の鎧である。
お値段は初期資金で買える範囲。
ビジュアルに関してはモッサイ事この上なしの、初心者セットって感じだ。
ビジュアル変更は課金ないし、ゲーム内アイテムで可能だそうだが、当然初心者セットにそんな物を使う気はない。
そもそも、俺は見た目は気にしない派だしな。
芽衣のレベルが高いなら、何かもっといい装備を借りたら?
残念ながらそれは出来ない。
このゲームの装備はレベルと、ステータスのランクで制限がかかるからだ。
筋力E以上、レベル10以上的な。
なのでレベル1で装備できるのは初心者セットのみとなっている。
「よっと」
三匹の攻撃を躱し、それぞれの首に向かって剣を連続で振り下ろす。
基礎能力にも制限がかかっているため俺自身の動きも相当緩慢だが、まあ糞遅いプチデビル相手にならこれぐらいは可能だ。
ああ因みに、事前にストレッチして体の動きは把握しているので『体の反応が遅い!』なんて無様な事態にはならないぞ。
「すっご……」
プチデビル達は全部一撃で消滅する。
まあ勇者の初期ステータスが高めなためだろう。
たぶん。
「ほへぇ、お兄ちゃん本当に初心者?実はプレイした事あるんじゃ?」
「いや、初心者であってるよ。ま、こういう風に体を動かすのが得意なだけだ」
「へぇ、そうなんだ。運動が得意なんだね。だったら大河お兄ちゃんと気が合いそう」
大河は見るからに頭が弱そうな奴だったからな。
あれで運動音痴だったら残念過ぎるので、運動が得意なのは残当か。
拙作をお読みいただきありがとうございます。
『面白い。悪くない』と思われましたら、是非ともブックマークと評価の方をよろしくお願いします。
評価は少し下にスクロールした先にある星マークからになります。




