【6面】大好きな音
玖神結愛。
私は小さい時から、ものを叩くことが何よりも好きだった。だから小学4年生のとき、和太鼓とドラムを掛け合わせた"和太鼓ドラム"を始めた。内に秘めた激情を音にして発散する。
それが…何よりも楽しかった。
他の何よりも…。
剣道から翌日。
「すごかったー。本当にスカッとしたー」
色葉は相変わらず、結人に懐いていた。少し眉をひそめながら「何を?」と訊く。
「北宮を剣道で倒したやつ!」
「あー、あれ突きで怯ませたあとに、ただ思いっきり殴っただけなんだよね」
「それでも凄いよ!!絶対御魔から狙われるよ」
「えぇ…」
少し嫌だなあ、と思った時だった。
『はい!道場に来てください』
四季山からアナウンスが掛かった。
「道場?」
「道場はね、空手か太鼓やる所だよ」
「えっ!?太鼓!?」
「ど、どうしたの?」
結人はキラキラと目を輝かせた。なぜなら太鼓が好きだからだ。
そうして、向かった道場はふたつ棟があった。この愛幼京幼稚園は以外と広いのだ。
和太鼓の道場には、和太鼓だけでなく、様々な楽器が並べられていた。四季山と女の子が準備している。
「わぁあー」
すると結人は我を忘れて、道場へ飛び込んだ。
「どれだけ太鼓が好きなんだよ…」
もはや色葉は呆れていた。
それでも絵を描くことが狂信的に好きな彼女には、言えることではなかったが。
結人はまず構えを指導された。
「…結人くん、和太鼓の経験あるのよね?」
「はい」
「じゃあ、立奏できるようにならなきゃ駄目じゃない」
「えへへ」
他の園児たちは各々叩いていた。
「本当に結人くん、太鼓やってたの?」
「玖神様のことだから、何かあるんだよ」
「なにか?」
色葉の言う通り、結人はすぐに覚え切った。
(和太鼓ドラムは殆ど座奏だったから、立奏はあんまりやってないんだよなぁ。吹部さえ辞めさせられちゃったし…)
しかし和太鼓を前にすると、過去…いや前世の記憶がまざまざと蘇ってくる。
しばらくすると、ようやく感覚が取り戻ってきた。
「…ふう」
「それじゃあ、」
先生が何かを言おうとした時だった。
「あ、四季山先生!たぶんもうできました!」
「はい?」
手慣れた手つきで、結人はバチを構えた。軽く深呼吸をすると、綺麗な動きでバチを振り下ろす。
次の瞬間、響いたのはとんでもない爆音だった。つい他の園児もこちらを見るが、集中している結人には関係なかった。
「な、何あれ?」
「うま…っ」
「かっこいい」
右左と縦横無尽に放たれるバチ。心地よいリズムが道場の壁へ染み入る。
「…あれ、もう一個太鼓必要じゃない?」
色葉は飽きたようで、ずっと彼を見つめていた。
一方、結人は気づいてすらいない。
(…感覚が戻ってきたかな)
感覚が戻れば戻るほど楽しい。大好きな音に囲まれて全力で演奏するなど、いつ振りであろうか?
「…んあ!?」
その時、魔法少女である色葉だけが異変に気付く。結人の振るうバチの先端には、青と赤の稲妻が舞っていたのだ。
(なるほど…。玖神様の太鼓が好きな理由が分かったよ)
ただ納得する色葉。そこに側転で凛紗希がやってきた。
「結人くん、太鼓すごいんだね。剣道もできるし凄いなぁ」
「あれをハイスペって言うんだよね」
ふたりはただ結人を尊敬の目で見つめていた。
結人の独奏は止まらない。
太鼓へ力強い連打、縁を思い切りたたく。太鼓は唸り、縁からは咆哮を上げていた。これが堪らなく楽しいのだ。
しかし、四季山の声で突然、止められてしまった。
「はい、結人くん。す、少し良いかな?」
「え、はい?」
「習ってたの」
「習ってました!ふふっ」
結人は自身が男子幼児ということも忘れて、結愛だった時のように、可愛らしい笑みを浮かべた。
「かわいい…」
ひとりの男の子が言った。
「あ…」
その声で結人は完全に目が覚めた。
「な、何でもないです。あともう二つくらい太鼓が欲しいです」
「い、いいよ。余ってるから」
(バレるとこだった…)
慌てて顔を隠すように彼は、寂しそうに待つ和太鼓たちの方へと駆け出した。
(流石に、女の子だったって所は隠さなきゃ…)
しかし結愛だった時より、男だからか力強さはパワーアップしていた。
「ふふっ…」
それが少し嬉しかった。
握力や筋力も元のままだ。まだまだ演奏を進化させることができることに、結人は思わず笑みが溢れた。
まるで結愛だった時のように―――。
【次回】新たな味方…。 愛馬の好敵手 ――ライバル――




