【5面】御魔の手下 其の一
飼育小屋の裏。そこは御魔たちの領域だった。何人かの手下と共に、御魔は顔をしかめて話し出す。
「「今、我々御魔の立場に暗雲が漂っている」」
「危ないということか」
「我々がするべきことは…あの玖神結人を倒すことだ」
「倒す…?奴も支配下に入れるのですか?」
「「そうだ。奴を放置すればいずれ、我々の人生に影響が来たるだろう」」
御魔は幼稚園児にも関わらず、口調はまるで国を統べる王のようだった。
「御魔!俺が行くぜ!」
しかし御魔とは反対に、誰かが威勢よく声を上げた。
「…唯臣か」
「剣道四天王の俺が…結人をブッ倒す!」
彼は真の幼稚園児だ。純粋で何事も何とかなるという子供の中の子供だった。
——翌日——
「…なるほど。太鼓の時間は週3回」
「何してるの?玖神様」
「様?ああ」
玖神結人は先生専用の日誌簿を読んでいた。ちなみに結人は、和太鼓ドラムをやっていて、和太鼓の時間が楽しみな人だ。
「色葉ちゃん、これは秘密ね」
「良いよ。でも漢字なんて読めるの?」
「よ、読めるよ。あ、そっか」
ここが魔法世界だったとはいえ、この場所は幼稚園なのだ。
(…にしても、日本語なんだなあ。創造主が日本人とかいうファンタジー小説によくあるやつか)
ベタだが、いざ生きる身となると助かる。
その時だった。
「わぁー、」
わざとらしい大きな声が背中をたたく。
「結人〜、先生の日誌覗いてる」
「ほう…」
突然のチクリに、結人は驚くことなく彼へ歩み寄る。
「君、日誌って言葉が分かるんだ」
「な、何だよ!?いっつも先生が言ってっから分かんだよ!!」
「ああー、そういうことね」
納得したように何度か首を縦に振る。
「君、隣のクラスの子だよね?名前は?」
「き、北宮唯臣だー!」
(普通の苗字だな…)
((大人だー!))
しかし色葉と凛紗希は逆に驚いていた。北宮のチクリスキルを難なくスルーしている。やはり、力だけじゃなく精神面も強いのか?
「北宮くんかあ」
「何で苗字なんだよッ!?下の名前で呼べや!」
「え、異性を下の名前で呼ぶのは恥ずかしいよ…って、ううん。何でもない」
つい結愛だった時の本性がこぼれてしまった。マズイな、と身構えた。
「はぁ!なんだよ!イセイって」
(あ、ラッキー)
しかしそれは杞憂に終わった。何とか誤魔化せたからだ。
「あ、四季山先生来た!」
「…コイツ!覚えてろよ〜!」
小者みたいな台詞を吐いて、四季山の横をすり抜けるようにして逃げていった。
「足のバネが強いのかな?」
独り言を呟いていると、色葉と凛紗希がやってきた。
「すごいね!」
「唯臣のチクリスキル交わせるの、天才すぎ」
「え、えへへ。それはありがと」
つい照れてしまう。
(まぁ、ただ気になったことを聞いただけなんだけど…)
幼稚園での実技時間は、1日2回ある。幼稚園と言えども、放課は4時と魔法世界ながら遅めだ。ちなみに年長と年中は2クラスあり、剣道と空手などの武道のみ合同だ。
「今日は剣道をやります!」
そう言ったのは、外部指導の神野和郎。
(かんの…まさろう…。普通の名前だなあ)
「では、まず打ち込み台に打ってもらいます。では北宮くん!」
「はいっ!」
すると先程のチクリ魔が、竹刀を持って前へと出る。彼は肩を揺らして深呼吸すると、大振りに構えた。そして氷面を翔ける馬の如く、打ち込み台へ向かい竹刀を振り下ろした。
「やぁあ!!」
ぱぁーん!!
打ち込み台が悲鳴をあげる。
(やっぱり足のバネが凄い。動きは大振りだな。パワー型なんだろうね)
結人は北宮の技を冷静に分析する。
「…!?」
しかし次の瞬間には、別の意味で驚いた。
(竹刀にエフェクト?)
なんと竹刀からは、光の粉末が漏れていたからだ。
(なんか、カッコいい)
すると和郎は話を再開する。
「竹刀の威力と、息が合えばこのように光が舞う。頑張ってやりましょう!」
「「はい!!」」
そうして剣道の実習が始まった。
「凛紗希ちゃん、剣道のルールガン無視だね」
「そういう子よ」
結人と色葉は、凛紗希の離れ業に苦笑していた。
なぜなら…
「やぁあ!」
彼女はトリッキングを利用して、剣を振るっていたからだ。回転する度竹刀からは、紫の残光が美しく煌めいていた。
「…僕もやってみようかな?」
「玖神様ー!いけー!」
「…っ」
剣道などやった事がないが、見た感じ正統派になる必要はないようだ。ならば、と彼は打ち込み台へと飛び出した。
次の瞬間、紺青の光が竹刀から溢れ出す。どうやら振るだけでエフェクトは現れるようだ。
「やぁあ!!」
人一倍大きな掛け声。すると打ち込み台が凹む。
「…わぁ!」
辺りから視線が集まるが、知らないフリをするように結人は逃げ出した。
(魔法世界だし…たぶん元に戻るよね?)
謎の推察で逃げた彼。
(…ちっ)
しかし、それは余計に唯臣の怒りを煽るだけだった。
「最後は竹刀で打ち合ってみましょう!1回当てたら終了!」
その後、透明で軽い鎧を着させられた園児たちは対戦相手を探すべく右往左往する。
「玖神様ごめんね。私は凛紗希ちゃんとやってくる」
「ああー、同性でなくちゃダメなのかあ」
色葉と離れ、迷っていた時だった。
「結人!」
「あ、北宮くん!」
「唯臣くん、って呼べ!」
「た、唯臣くん…」
北宮唯臣がこちらへ来たのだ。
「…さっきの借りを返すぜ」
「えっ…、いいよぉ。他にやってくれる人、誰もいないし」
(丁度良い、結人を叩きのめせば、御魔から褒められる)
結局、結人は唯臣と向き合う。
「よ、よろしくお願いします」
ふたりは竹刀を構える。唯臣の鋭い視線に、少しドキリとした。だが結人も負けじと圧をかける。
「よーい!はじめ!!」
次の瞬間、審判の声がホールへと響き渡る。
「やぁあ!」
(先手必勝!!)
唯臣は一気に間合いを潰す。しかし結人は弱点を見抜いていた。
「はい、突き」
「…なッ!?」
次の瞬間、結人は単純な突きで彼の鳩尾を押す。飛び出した勢いも相まって痛い。唯臣が怯んだ時だった。
「いっぽぉぉん!!」
「ぐあ!?」
(それジュウドー!!)
竹刀で容赦なく彼の右肩をたたいた。透明な鎧が悲鳴を上げる。思わず唯臣は床へと倒れた。
「優秀だね。皆が怖がるわけだよ」
同時、辺りから視線が再び集まる。
「でもね、速いからこそ対策されるんだよ」
「…いてて」
「さっきまで全部見てたよ。君、スピードとパワーが両立できてるね。だけど、剣はただ振るだけじゃないよ。まずは物事を俯瞰から見る癖を付けたらどうかな?」
そう言って彼は竹刀を仕舞う。
次の瞬間、辺りから拍手が浴びせられた。
(…ま、強いよ。やっぱりタダの幼稚園じゃないな)
勝っても結人はただ冷静だった。
「ふっ、次は…こうは行かねぇ」
「だろうね。頑張ってね」
唯臣の宣戦布告を、ただ賞賛で返した。
ホールを出ると、色葉と凛紗希が結人へ駆け寄る。
「凄かったねー!」
「カッコよかった!」
「へへ…」
三度褒められ、つい嬉しくなって笑ってしまった。しかし横では不穏な会話が蠢いていた。
「…まぁ、唯臣は剣の四天王の中で最弱…」
「御魔の手下で1番弱いかも…」
その声は彼には聞こえていなかった。
そして翌日。
「…わぁあ」
和太鼓。
結人の本分が始まるのだ。
【次回】 結人が狂気の笑み…。 和太鼓バトル!!
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