【4面】トリッキングバトル!!
「…あれれ、色葉ちゃ〜ん、結人くんと何を話してるの?」
「あ、凛紗希ちゃん」
「凛紗希?」
「そ。愛馬凛紗希ちゃんだよー」
すると少し背の高い彼女は、にこりと笑う。
「凛紗希だよー」
「ああ、さっきバク転してた子ね」
「見てたのかあー」
どうやら凛紗希という少女は、トリッキングの天才らしい。
「私、生まれてすぐに、まえまわりとかできたんだって」
「凄いね。体が柔らかいのかな…」
結人はこの少女たちの扱いに、殆ど慣れていなかった。
彼の正体は、元々高校2年生だった女の子だった。和太鼓ドラムが大好きなただの女の子。
(てか、ここの幼稚園はまともな苗字の子いないんだなあ)
そして、ふと思ってしまった。
この幼稚園で知り合った子たちは、殆どの苗字が自身と同様に珍しいものばかりだったのだ。
(ま、玖神も大概かな)
結人が立ち上がったときだった。
「そうだ!凛紗希ちゃん、この子ね!私の絵魔法に勝ったんだよ!」
「!?」
すると凛紗希の顔が一変した。
「…え?なに?」
「何じゃないよ…。私でも大変だったのに」
「えぇ」
普通に看破して、魔法を逆手にして倒しただけなのに、こう言われると自分が凄いと思ってしまう。
「…じゃあ、私とトリッキングバトルしない?」
「トリッキングバトル?」
「そう!」
次の瞬間、しなやかな鞭の如く、長い足が宙を裂いた。しかし動体視力と経験が優れていた彼にとって、それは容易に避けられた。
(やっぱり、身体能力と記憶は引き継がれるのか)
「すごぉ…。でも、ゆだんしないでね」
「油断?」
その時、彼女の両足が砂を蹴飛ばす。瞬間に宙を舞った彼女は、再び鎌の如き蹴りを放つ。
「うっわ!」
腕で受けたかったが、自然と足が後退する。次の瞬間、反撃の為、震脚を加える。
「!」
何か危ない!生物的反応で彼女の体が止まった。思わず体を銅像のように固める。
しかしそれは…フェイクだった。偽の攻撃態勢を見せた彼は、細い足を振り上げる。
「やばっ!」
思わず後退しようと、足と腰を奮い立たせるも、彼の神速の蹴りには間に合わない。
「…やば!今は男の子だった」
しかし蹴りが彼女の顔を襲うことはなかった。
「軽く蹴るつもりだったけど、下手したら怪我しちゃうからね」
そう言って足を地面へくっつける。
「……」
あと数ミリで触れていた。それを彼はわざと抑えたのだ。たぶん、勝てないな。
「結人くん、めっちゃ強いね」
「そ、そう?」
(言うて幼稚園児だからなんだけどね)
それでも凛紗希の身体能力は恐ろしい。普通の園児なら、何もできずに一方的にやられていただろう。
「…これさー、御魔を倒せるんじゃない?」
その時、彼の力を認めた凛紗希がそう言った。
「御魔?」
「うん。魔法園児の中でも最高級の支配者」
「し…支配者…」
やはりここは——現世ではないのだろうか?
「ねぇ、ここってさ…、地球?」
「?」
すると2人は突然、首を傾げた。
「地球って……EA?」
「…?」
やはり…か。
結人は、ようやく合点が行った、と言わんばかりに肩をすくめた。だから、現実世界なら有り得ない競争システムもあるのだ。
ここは魔法世界なのだ。
それを、幼稚園児からやり直す…。
明日から戦いが始まる。
【次回】北宮唯臣vs玖神結人 剣道使いNo.4
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