第3話:楽園の第一歩
3話目もお読みいただきありがとうございます( ;∀;)
無人島でのスローライフのスタートです(*‘ω‘ *)
どれほどの時間、漂流しただろうか。満身創痍の状態で、俺はようやく陸地へと辿り着いた。柔らかな砂浜に身体を投げ出し、生きているという事実を、ただただ噛みしめる。
見渡す限り、人工物は一切ない。背後に広がる鬱蒼とした森からは、火山が顔を覗かせている。
「さて、と……」
俺はゆっくりと身体を起こした。
まずは、行動計画を立てなければならない。王宮での三年間、俺の居場所は書庫だけだった。そこで読み漁った歴史書、地理書、そして博物誌。その中にあった、遭難者の手記や古代の生活技術に関する記述。そして、蘇った前世の科学知識。
実践経験ゼロの、頭でっかちな知識だけが、今の俺の唯一の武器だ。最優先で確保すべきは、「安全な水」と「食料」、そして「火」。
水に関しては、すでに解決済みだ。俺は波打ち際に歩み寄り、海に手を浸す。(――この範囲の海水から、塩化ナトリウム及びその他の不純物を分離)
意識を集中させると、手の周りの海水から塩辛さが消え、完璧な真水に変わる。海がある限り、渇きに苦しむことはない。これは何よりも心強い事実だった。
問題は食料だ。書物には「魚は銛で突く」と簡単に書いてあった。俺は手頃な枝を拾い、その先端を石で打ち付けて、なんとか尖らせる。見様見真似の、粗末な銛だ。
浅瀬に立ち、息を殺して水面を見つめる。銀色に輝く魚が泳いでいるのが見えるが、その動きは思った以上に素早い。
「――えいっ!」
狙いを定めて突き出すも、銛は虚しく水を掻くだけ。魚はひらりと身をかわし、あっという間に姿を消してしまった。その後も、何度も、何度も挑戦する。しかし、結果は同じ。王宮で受けた最低限の剣術訓練など、動く獲物を相手には何の役にも立たない。
「くそっ……こんなこともできないのか、俺は……」
腹の虫が鳴り、情けなさで涙が出そうになる。その時、ふと足元に目をやると、岩場に小さな巻貝や、カニに似た生き物がいるのが見えた。そうだ。何も、格好良く魚を獲る必要はない。今は、食べられるものを確実に手に入れるべきだ。
俺は方針を転換し、磯浜の潮だまりを巡って、貝やカニを拾い集めた。これなら、俺でもできる。
そのとき運よく、小さな洞窟をみつけた。中に入ってみると、人ひとりが十分に寝れるくらいのスペースがあったので、とりあえず雨風が凌げるここを寝床にすることにした。
寝床もみつかり、最後の課題は「火」にうつる。これもまた、本で読んだ火起こし器の知識を頼りに、乾いた木を探してきて試してみる。だが、煙は出ても、一向に火種が生まれる気配がない。腕はすぐに疲れ、掌の皮が剥けてきた。
「……もう、いい」
原始的な方法にこだわるのは、早々に諦めた。俺には、俺だけの方法があるはずだ。俺は再び海に向かい、今度は別のイメージを頭に描く。
(――海水から、塩化ナトリウムだけを抽出。不純物ゼロ、完璧な単結晶として、この掌の上に)
魔力を流し込むと、海水から一つの塊が分離し、ふわりと俺の掌の上に浮かび上がった。それは、雪のように白い粉ではなく、氷のように透き通った、寸分の曇りもない完璧な結晶だった。大きさは、親指の爪ほど。
次に、この透明な塩の結晶に、再度【塩創造】を発動する。(――この結晶の形状を、光を一点に集める、完璧な凸レンズ型に再構築しろ)
すると、四角い結晶が、まるで粘土のように滑らかに形を変え、美しい凸レンズの形状へと変化した。不純物ゼロの結晶から作られた、究極のレンズ。その透明度は、王宮の宝物庫にあったどんな宝石よりも高いように感じた。
俺は、この「塩レンズ」に太陽光を通し、用意していた枯れ草の上に焦点を合わせた。
「……ついた!」
枯れ草から、ぽすっと小さな煙が上がり、あっという間に炎が燃え上がった。何度も失敗した火起こしが、嘘のような簡単さだ。この力は、俺が想像している以上に、万能なのかもしれない。
俺は、集めた貝やカニを、平らな石の上で焼いていく。じゅうじゅうと、香ばしい匂いが鼻腔をくすぐった。
そして、仕上げだ。俺は再び、海水から少量の塩を精製する。今度は、食用に適した、ミネラルをわずかに含んだ粉末状の塩だ。焼きあがった貝の身に、その真っ白な塩を、ぱらり、と振りかける。
熱いのも構わず、口に放り込んだ。
「――っ、うまい……!」
思わず、声が出た。磯の香りと、香ばしく焼かれた身の弾力。そこに、雑味のない純粋な塩の旨味が加わり、素材の味を極限まで引き立てている。王宮で食べていた、どんな豪華な料理よりも、間違いなく、うまい。
生まれてから初めて、心の底から満たされた気がした。何もない無人島。だが、ここには自由がある。自分の頭で考え、自分の力で生きる。その一つ一つが、今まで感じたことのない充実感を与えてくれた。
「悪くないな……こういう生活も」
俺は空を見上げ、呟いた。復讐なんて、どうでもいい。今は、この島で、誰にも邪魔されずに、のんびりと暮らしていきたい。
それが、この時の俺の、ささやかで、そして本心からの願いだった。
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