第17話:白き街の胎動
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《エリザ視点》
それぞれが、この島で生きていくための誓いを立ててから、数週間が過ぎた。
私たちの楽園は、もはや「楽園」という言葉だけでは表せないほどの、力強い活気に満ち溢れていた。
私は、居住区を見渡せる小高い丘の上に立ち、その光景を眺めていた。
「エリ様、資材の運搬路はこちらでよろしいでしょうか?」
「エリさん、このハーブは、日当たりの良いこちらの区画の方がよく育つようです」
ひっきりなしに、仲間たちが報告と相談にやってくる。
私の視線の先では、ガイオンさんの力強い号令が響き渡っていた。
彼の【構造設計】によって描かれた完璧な設計図と、レオンさんの【塩創造】が生み出す規格外の「塩レンガ」。その二つが合わさることで、白く美しい家々が、まるで魔法のように次々と姿を現していく。ティムが、その周りを泥だらけになりながらも、小さな助手として誇らしげに走り回っている。
森の入り口に広がる畑では、エルミナさんが、リリに植物の名前を教えながら、穏やかに土を耕していた。彼女の【生命同調】のおかげで、私たちが移植した野生の植物たちは、驚くべき速さで根付き、育っている。
調理場からは、ライガさんの威勢のいい声と、食欲をそそる香ばしい匂いが漂ってくる。彼の【絶対味覚】は、この島の未知の食材の可能性を次々と引き出し、皆の胃袋を満たすだけでなく、その心に活力を与えていた。
マリアさんは、その柔和な見た目とは裏腹に、極めて厳格に、皆の生活衛生を管理していた。 彼女の【浄化】の力と細やかな気配りによって、水場は常に清潔に保たれ、ゴミ一つ落ちていない居住区は、奴隷生活で弱った人々の健康を守る、何よりの砦となっていた。
そして、その全てを包み込むように、マルコさんが組織した見張り番たちが、静かに、しかし鋭く周囲を警戒している。彼がいるというだけで、皆、安心して自分の仕事に集中できるのだ。
建築、農業、食文化、衛生、そして安全保障。
いつの間にか、この島には、一つの共同体…いいえ、一つの「国」として機能するための、全ての歯車が揃い始めていた。
その事実に、2人きりだった時のゆったりとした生活を懐かしく思いつつ、私は静かな満足感と、確かな手応えを感じていた。
報告の合間を縫って、私はレオンさんの元へ向かった。
彼は、相変わらずマイペースに、居住区から少し離れた浜辺で、新しい塩の活用法を研究しているようだった。
「レオンさん、ご覧ください」
私が声をかけると、彼は研究途中の塩の結晶から顔を上げた。私は、活気に満ちた居住区を指し示す。
「あなたの力が、あなたの意志とはあまり関係のないところで、これだけの人々を動かし、国を形作り始めています」
「…俺はただ、みんなが安心して暮らせれば、それでいいんだけどな」
彼は、少し困ったように頭をかいた。その無欲さこそが、彼の美徳であり、そして、私が最も危ういと感じる部分でもあった。
私は、そんな彼に、一歩近づいて、優しく、しかし真剣な眼差しで語りかけた。
「ええ。存じております。ですが、レオンさん。その『安心』を守り続けるためには、力が必要なのです」
「力…?」
「はい。経済力、防衛力…そして、いつか現れるであろう外部の者たちと、対等に渡り合うための『国家』という形が。この楽園は、もう私たちだけのものではないのですから」
私の言葉に、レオンさんは何かを考えるように、黙って海を見つめていた。
――その時だった。
カン、カン、カン!
居住区の最も高い場所に、マルコさんが急ごしらえで作った見張り台から、警鐘の音が響き渡った。
それは、事前に決めておいた「未確認の船影を発見した」という合図。
私とレオンは、弾かれたように顔を見合わせ、見張り台の方角へと駆け出した。
マルコさんが、緊張した声で叫ぶ。
「船だ…! 一隻、こちらへ向かってくる! 難破船じゃねえ、立派な商船だ!」
私は、水平線の向こうに現れた、黒い点のような船影を、鋭い目で見据えた。
嵐ではない。難破でもない。
明確な「意志」を持った船が、ついに、この島を目指してやってきたのだ。
「…来ましたわね。世界が、この楽園を見つける日が」
私の隣で、レオンは「面倒なことになりそうだ…」と、諦めたように、しかしどこか覚悟を決めたような表情で、頭をかいていた。
白き街の胎動は、否応なく、外の世界との接触を呼び寄せた。
私たちの、本当の戦いは、ここから始まるのかもしれない。
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