第16話:閑話③マルコの誓い、ティムとリリの願い
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俺の名はマルコ。元は、B級の冒険者だった。
仲間たちとダンジョンに潜り、一攫千金を夢見ていた、どこにでもいる男さ。
俺のギフトは【危機察知】。ランクはB級。モンスターの奇襲や罠、脆い足場なんかの物理的な危険を、直感的に「嫌な感じ」として察知できる。この力のおかげで、俺は何度も死線を潜り抜けてきた。
だが、仲間は守れなかった。
あるダンジョンで、一瞬の油断がパーティーを壊滅させた。生き残ったのは、臆病風に吹かれて一歩退がっていた、俺だけ。
仲間を見殺しにした罪悪感に苛まれ、俺は剣を置いた。酒に溺れ、日銭を稼ぐために用心棒まがいのことをしていたが、すぐに借金が膨れ上がった。そして、返済のために自ら剣闘奴隷に身を売った。死に場所を探していた、と言った方が正しいかもしれねえ。
そんな俺が、今、生きている。
あの嵐の後、奴隷船で死にかけていたところを、レオンとエリという、若い男女に救われた。
彼らは、まるで当たり前のように、俺たち奴隷を人間として扱い、その不思議な力で、俺たち全員の命を救ってのけた。
共同生活が始まり、島は活気に満ちている。
ガイオンの親父が建築を指揮し、ライガが美味いメシを作り、エルミナやマリアが生活を支える。誰もが、生きる喜びに満ちた顔をしている。
だが、俺だけは、一人冷静に周囲を観察していた。
ここは楽園なんかじゃねえ。いつ、何が襲ってくるかわからねえ、未開の島だ。
夜になれば、森の奥から、得体の知れない獣の遠吠えが聞こえてくる。この島の豊かさは、それだけ強力な魔物や獣が闊歩している証拠でもある。
皆、平和に浮かれているが、このままではいつか、俺が経験した惨劇が繰り返される。
もう、誰も失いたくはねえ。
俺は、レオンとエリの元へ向かった。
「俺が、この島の警備と探索を一手に引き受けさせてくれねぇか。地図を作り、危険な場所を特定し、見張り台を立てる。あんたたちがこの楽園を作るなら、それを守る存在が必要だ」
俺の申し出に、二人は驚きながらも、その目に全幅の信頼を寄せてくれた。
「おっちゃーん! 俺も連れてって! 強くなって、みんなを守れるようになりたいんだ!」
俺が探索の準備をしていると、ティムというガキが、目を輝かせながら後をついてきた。
拠点を見渡せば、エルミナやマリアのそばで、リリという小さな少女が無邪気に花を摘んで遊んでいる。
その姿が、あのダンジョンで守れなかった、仲間たちの笑顔と重なった。
「…二度と、あんな思いはしねえ」
俺は、誰に言うでもなく、そう呟いた。
剣を捨て、死に場所を探していた俺に、新しい役割ができた。
それは、かつて果たせなかった「仲間を守る」という、ただ一つの、しかし何よりも重い誓い。
俺は若者たち数人を集め、交代制の見張り番を組織する。
この楽園を俺が守る。孤独だが誇り高い、番人として。
もう、俺は過去から逃げないと、固く心に決めていた。
…まあ、心配事も一つだけあるがな。
あいつら(レオンとエリ)、これだけ家ができても最初の家で一緒に暮らしてるっていうのに、まだ恋人同士にすらなってねえらしい。
どう見たって、お互いに想い合っているのは間違いない。あの距離感、空気、野暮な俺にだってわかる。まったく、見てるこっちがむず痒くなるぜ。
まあ、それもこの楽園の「平和」ってやつなのかもしれねえな。
俺は小さく笑うと、一人、再び森の奥へと足を踏み入れていく。
◇
僕の名前はティム。歳は十。戦争で、父ちゃんも母ちゃんもいなくなった。
気づいたら、怖い人たちに捕まって、あの臭くて暗い船に乗せられていた。
もうおしまいだ、って思った時、僕たちを助けてくれたのが、レオン兄ちゃんとエリ姉ちゃんだった。この島に来てから、毎日がびっくりすることばっかりだ。
レオン兄ちゃんが魔法を使うと、石みたいに硬いレンガが山みたいにできる。ガイオンのおっちゃんがそれを積み上げると、立派な家になっていく。ライガの兄ちゃんが魚を焼くと、世界で一番うまい匂いがする。
すごいなぁ。みんな、自分の『武器』を持ってるんだ。
今日、マルコのおっちゃんが、一人で森の奥に入っていくのを見た。
みんなが家を作ったり、ご飯を作ったりしてるのに、おっちゃんだけ、いつも一人で遠くを見てる。でも、その背中が、なんだか、かっこよく見えた。
僕も、早く大きくなって、みんなの役に立ちたい。レオン兄ちゃんやエリ姉ちゃんに、すごいって言ってもらいたいんだ。
「おっちゃん! 俺も連れてって! 強くなって、みんなを守れるようになりたいんだ!」
走り寄ってそう言うと、マルコのおっちゃんは「ガキの来るところじゃねえ」って、怖い顔で言った。
でも、僕が諦めずに後をついていったら、ため息をついて、こう言ったんだ。
「…拠点の周りだけだぞ。絶対に俺から離れるな」
おっちゃんは、地面に残った動物の足跡の見つけ方や、危ない植物の見分け方を教えてくれた。
難しくてよくわからなかったけど、すごくドキドキした。
これが、冒険者のイロハってやつなのかな。
僕は、僕だけのパトロールだ!って決めて、教わったことを思い出しながら、拠点の周りを歩き回った。
いつか、みんなみたいに、役に立てるようになりたいんだ。
◇
私の名前は、リリです。
最近、怖い夢を見なくなりました。
あの船の中は、いつもお腹が空いていて、寒くて、暗くて、毎晩のように怖い夢を見ていたんです。
でも、今は違います。
マリアお姉ちゃんが、私の髪を綺麗にしてくれます。ライガさんが、温かいスープをくれます。ティムが、面白いものを見つけると、一番に教えに来てくれます。
そして、エルミナお姉ちゃんと一緒にいると、心がとても、安らぐんです。
今日は、エルミナお姉ちゃんが管理している畑のお手伝いをしました。
お姉ちゃんが植物に触れると、植物たちが、喜んでいるのが、私にもなんとなくわかる気がします。
「リリ、このお花はね、触れると、心が落ち着く香りがするのよ」
エルミナお姉ちゃんが、小さな白い花を私の髪に飾ってくれました。
ふわっと、優しい匂いがしました。
この島は、とても温かい場所です。
怖い大人も、冷たい鉄格子も、お腹を空かせる夜もありません。
遠くでみんなを見守ってくれている、レオン様とエリ様がいるからです。
私は、まだ何もできません。でも、エルミナお姉ちゃんみたいに、いつか、この島の優しい植物たちと、もっとお話ができるようになりたいです。
私は、ありがとうの気持ちを込めて、畑に芽吹いたばかりの小さな双葉に、そっと触れました。
「はやく、大きくなってね」
その日の夕暮れ。
それぞれの場所で一日を終えたみんなが、レオン様とエリ様がいる、小屋の灯りを目指して集まってきます。
この温かい光景が、ずっと、ずっと続けばいいな、と私は心から願うのでした。
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