第15話:閑話②ライガとマリアの誓い
いつも読んでくださりありがとうございます!
最新話をお届けします。
楽しんでいただけると嬉しいです。
明日も更新予定です(*^^*)
それでは、どうぞ!
俺様、ライガ・フレイムファングは、誇り高き狼の獣人だ。
その誇りは、一度、王宮の厨房で燃え上がったことがある。そして、無残に踏み消された。
俺様のギフトは【絶対味覚】。ランクはA級。
その才能を買われ、俺様は故郷のフェルザ獣人自治区から、サリス王国へ「貢物」として差し出された。表向きは王宮付きの料理人。実態は、故郷を人質に取られた、金の首輪付きの奴隷だった。
それでも、最高の食材と設備が揃う厨房は、俺様の魂を燃え上がらせた。俺様は、ただひたすらに料理を作り続け、王侯貴族どもの舌を唸らせてきた。
転落は、一瞬だった。
確か、第二王子カインの誕生を祝う宴でのこと。あいつは、己の権勢を誇示するため、腐りかけの高級魚を「これぞ希少品だ」と嘯き、俺様に調理を命じた。
俺様の【絶対味覚】は、その食材が放つ、僅かな腐敗の匂いを決して見逃さない。
「こんなものでは、殿下の御舌を汚すだけだ」
料理人としての誇りが、俺様にそう言わせた。
それが、命取りだった。王子の逆鱗に触れた俺様は、その日のうちに厨房を追われ、「処分」として、全てを奪われ、奴隷商人に売り飛ばされた。
最高の厨房から、最も劣悪な奴隷船の船底へ。
俺様の炎は消え、ただの抜け殻になった。もう二度と、料理を作るものか、と。
あの嵐と、信じられねえ魔法を使う若い男女に出会うまでは。
レオンの旦那が作り出す「塩」。
それを初めて味わった時、俺様の身体に衝撃が走った。消えたはずの炎が、心の奥で、再びパチリと火花を上げたのだ。
どんな王侯貴族が口にする聖塩よりも、純粋で、深く、そして力強い。素材の味を、極限の、さらにその先まで引きずり出す、奇跡の調味料。
この塩がある。そして、この島には、まだ誰も知らない極上の食材が眠っている。
料理人としての俺の勘がそう告げている。
魚、獣、木の実、草の根。
俺様の料理人としての魂が、腹の底から燃え上がるように熱くなった。
共同生活が始まって数日、俺様は自然と調理場を仕切っていた。
「おい、そこのお前! その魚は腹わたの処理が甘えぞ!」
「その肉は火を入れすぎだ! もっと表面をカリッと、中はジューシーに焼け!」
俺様は、奴隷船に残されていた有り合わせの道具と、レオンの旦那が塩で作ってくれた即席のナイフを使い、次々と料理を仕上げていく。
「ライガさんのご飯、おいしい!」
俺様の足元で、ティムという人間のガキが、目を輝かせながら骨付き肉にかぶりついている。食いっぷりのいいガキは嫌いじゃねえ。
「当たりめえだ! 誰が作ってると思ってやがる!」
そう啖呵を切りながらも、自分の作った料理で、皆が笑顔になるのを見るのは、悪い気分じゃなかった。
王宮の厨房では、俺は奴隷であり、顔色を窺いながら料理を作っていた。
だが、ここは違う。
皆が、腹を空かせた獣のように、俺様の料理を美味い美味いと平らげてくれる。そこには、何の打算も、政治もない。ただ「生きるための喜び」だけがある。
腹を満たすだけじゃねえ。心を満たす、最高の料理を、この島で、この塩で、作り上げてやる。
それが、王宮に全てを奪われた俺様が見つけた、新しい誓いだ。
◇
私、マリア・フローレスは、ごく普通の人間です。
貧しい農家の生まれで、口減らしのために人買いに売られ、貴族の館でメイドとして仕えていました。私のギフトは【浄化】。ランクはD級。触れたものの汚れを綺麗にするだけの、何の役にも立たない生活魔法です。
仕えていた主人が没落し、借金のカタに奴隷として売り飛ばされた時も、私はただ、無力に流されるだけでした。
そんな私が、今、この島で、誰かの役に立っている。それが、まだ信じられません。
レオン様とエリ様に命を救われ、最初に意識を取り戻した時、私にできたのは、汚れた寝床を私のギフトで綺麗にすることだけでした。
ですが、エリ様は、そんな私を見て「ありがとう、マリア。あなたの力は、今、何よりも尊いわ」と、優しく微笑んでくださったのです。
共同生活が始まると、問題はすぐに現れました。人数が増えれば、当然、ゴミも出ますし、水場も汚れます。皆、生きることに必死で、衛生面まで気が回りません。
このままでは、また病が流行ってしまうかもしれない。
私は、エリ様にそっと進言しました。
「どうか、皆の衛生管理と、身の回りの整理整頓を、この私にお任せいただけないでしょうか」
それから、私の役目が決まりました。
調理場の清潔を保ち、ゴミの分別ルールを作り、水場が汚れないように見張る。そして、レオン様が生み出してくださった『石鹸』を皆に配り、その使い方を教えること。
私のD級の【浄化】は、皆の健康を守る上で、なくてはならない力になりました。
「マリアお姉ちゃん、きれいになったよ」
奴隷生活の恐怖からか、まだ臆病なリリという少女が、私が洗ってあげた髪を嬉しそうに触っています。その小さな笑顔を見ていると、私の心まで、温かいもので満たされていくようでした。
貴族の館では、私はただの道具でした。ですが、ここでは違う。
レオン様とエリ様という、温かいご主人様と、守るべき仲間たちがいる。
このお二方と、皆が安心して暮らせる、清らかで温かい「家」を守ること。
それが、モノのように売られ、全てを諦めていた私が見つけた、新しい約束。
私は、この楽園のメイド長として、今日もそっと、汚れた場所に手を触れるのです。
お読みいただき、本当にありがとうございましたm(_ _)m
今後の展開に向けて、皆さまの応援が何よりの励みになります(>_<)
少しでも「面白かった!」「続きが気になる!」と思っていただけたら、ぜひ**【ブックマーク】や【評価(★〜)】、【リアクション】、そして【感想】**で応援していただけると、作者が泣いて喜びます(そして執筆が捗ります)(#^.^#)
誤字脱字報告も大歓迎です。
皆さまの声が、皆さまが考えてる100万倍、私の創作活動の大きな原動力になります。
次回更新も頑張りますので、引き続きお付き合いいただけますと幸いです(*^ω^*)