第14話:閑話① ガイオンとエルミナの誓い
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俺、ガイオン・アイアンハンドは、ドワーフだ。
ドワーフとは、生まれながらの職人。岩を削り、鉄を打ち、石を積む。頑固で、不器用で、そして、己の仕事に何よりの誇りを持つ種族だ。
そんな俺が、人間の奴隷にまで身を落としたのは、我ながら情けない話だった。
故郷の親方と、やり方が気に入らねえと大喧嘩して飛び出したのが運の尽き。一人旅の途中、人買いの罠にまんまと嵌り、その自慢の腕力を見込まれて、奴隷船の薄暗い船倉に放り込まれた。
もう、俺の槌が火花を散らすことはねえ。そう諦めかけていた。
あの嵐と、あの不思議な若い男女に出会うまでは。
意識を取り戻した俺の目に映ったのは、見たこともない、真っ白なレンガで造られた、ちっぽけだが頑丈な小屋だった。
俺を助けたレオンと名乗る若造が、一人で建てたという。
「発想は面白いが、素人仕事だ」
口ではそう言ってやったが、内心は驚愕していた。この素材は何だ? 塩の気配がするが、石のように硬く、美しい。これを自在に作り出せるだと…?
ドワーフの職人魂が、錆びついた心の奥で、ゴトリと音を立てた。
隣の寝床では、同じく助けられたエルフの女、エルミナが静かに目を覚ましていた。
彼女は、奴隷狩りに遭って捕まったと言っていた。エルフの森を訪れた人間を信じ、案内した結果、裏切られたのだと。その瞳の奥には、人間への深い不信感が凍りついていた。
◇
俺たち元奴隷の生活は、まず、住居の確保から始まった。
全員が雨露をしのげる場所が必要だ。俺は、自然とリーダーシップを取っていた。
「おい、レオンの旦那! あんたのその不思議なレンガ、もっと効率的に作る方法がある! 粘土の配合、乾燥のさせ方、積み方、全部だ! 俺に任せな!」
俺がそう吼えると、レオンは驚いた顔をしながらも、「助かるよ、ガイオンさん」と素直に頷いた。
俺のギフトは【構造設計】。ランクはB級。
建築物や道具の最も頑丈で、効率的な構造が、頭の中に三次元の設計図として浮かび上がる。
レオンの【塩創造】という規格外の素材生産能力と、俺の設計能力。この二つが合わされば、どんな城塞よりも頑丈で、美しい街が作れる。俺は、そう直感していた。
「おっちゃーん! これ、どうやるのー?」
俺の足元に、ティムと名乗る人間のガキが駆け寄ってきた。好奇心旺盛な、戦争孤児だという。
俺が地面に描いた設計図を、彼は目をキラキラさせながら覗き込んでいる。
「うるせえ、ガキはあっち行ってろ」
そう一喝しながらも、俺は粘土を捏ねるコツを、ぶっきらぼうに教えてやった。こいつの目、死んでねえ。何かを学び取ろうとする、職人の目だ。
悪くねえ、と俺は思った。このガキが、守るべき未来の一つなのだと、柄にもなく感じていた。
◇
私、エルミナ・グリーンウィスパーは、エルフです。
森と共に生き、その声を聞き、生命の調和を何よりも尊ぶ民。
そんな私が、鉄の枷に繋がれ、薄暗い船倉で死を待つ身となったのは、ほんのわずかな油断と、人間への信頼が原因でした。
故郷の森を訪れた人間の学者。その知的な瞳を信じ、道案内を引き受けた私を待っていたのは、卑劣な罠と、奴隷狩りの荒くれ者たちでした。
もう、二度と故郷の土を踏むことはない。そう、諦めていました。
あの嵐と、清浄な魔力を持つ、不思議なお二方に出会うまでは。
私を救ってくださったレオン様とエリ様。彼らからは、人間への不信で凍りついた私の心すら溶かすような、温かく、澄んだ気配がします。
私のギフトは【生命同調】。ランクはB級。植物の生命力と感覚を共有し、その声を聞くことができる力です。
奴隷船の中では、鉄と絶望に囲まれ、完全に無力でした。ですが、この島は違います。一歩森に足を踏み入れれば、生命の息吹が、歓喜の声が、私の全身に流れ込んでくるのです。
「…この島の土は、とても豊かです。それに、レオン様の魔力の影響か、植物たちがとても喜んでいます…」
私は、皆の食料を確保するため、食べられる野草や根菜を鑑定し、集めて回る役目を自ら引き受けました。
私の後ろを、リリという人間の少女が、小さな歩幅でついてきます。
彼女もまた、戦争で全てを失い、奴隷として捕らえられた孤児。恐怖からか、まだあまり言葉を話しません。
私が道端に咲いていた香りの良いハーブを摘み、彼女に差し出すと、リリは少しだけ、その表情を和らげました。
この子の、か細くも懸命に生きようとする生命の輝き。それは、かつて私が故郷の森で愛でた、新しい若葉の輝きと重なって見えました。
信じていた者に裏切られ、汚された、私の誇り。ですが、この島でなら…この子たちを守りながらなら、もう一度、緑を育てられるかもしれない。
誰一人、お腹を空かせることのない、豊かな大地を。
それが、私を救ってくださったあのお二方への、私なりの、緑の約束。
その日の午後、浜辺では、ガイオンさんの号令の下、壮大なレンガ作りが始まっていました。
ティムという少年が、泥だらけになりながら、楽しそうに粘土を運んでいます。
森からは、私とマルコさんたちが、山のような食料を抱えて帰ってきました。私の手には、リリが一生懸命集めてくれた、食べられる木の実が握られています。
活気に満ちたその光景の中心には、いつも、少し困ったように、でも優しく微笑むレオン様と、その隣で静かに未来を見据えるエリ様の姿がありました。
このお二人のために。そして、この島で出会った新しい仲間たちのために。
私の力、この【生命同調】を、今こそ使う時なのだと、私は固く誓うのでした。
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