第13話:楽園の夜明け
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嵐が過ぎ去った翌朝から始まった俺たちの救護活動は、三日三晩続いた。
幸い、死者は一人も出なかった。
エリの【鑑定眼】による的確な診断と、俺の【塩創造】が生み出す無限の清潔な水、そして薬草の知識。二人だけの楽園で培ってきた全てが、奇跡のように噛み合った結果だった。
生存者たちは、俺たちが作った栄養満点のスープを飲み、清潔な樹皮布を敷いた寝床で休息を取ることで、日に日にその顔色を取り戻していった。
最初に動けるようになったのは、元冒険者だというマルコや、メイドだったというマリアだった。彼らは俺たちの献身的な姿に心を打たれ、率先して他の生存者の看病や、食事の準備を手伝ってくれるようになった。
そして、症状が重かった者たちも、次々と意識をはっきりと取り戻し、俺たちとの最初の対話が始まった。
「…お前さんたちが、俺たちを助けてくれたのか」
最初に声をかけてきたのは、ドワーフのガイオンだった。足をギプスで固定された彼は、不愛想な顔で俺を見上げ、そして俺たちの拠点である小屋に視線を移した。
「あの小屋、お前さんたちが建てたのか? あの白いレンガ…見たこともねえ素材だが、作りは悪くねえ。いや、素人にしては上出来すぎる。どうやったんだ?」
彼は、命の恩人に対する感謝よりも先に、職人としての好奇心を隠そうともしなかったことに俺は苦笑した。
森の木陰で静養していたエルフのエルミナは、エリが運んできた薬草茶を静かに受け取ると、透き通るような声で言った。
「…あなた方からは、清浄な気配がします。あなた方の力がなければ、私はもう、森に帰ることは叶わなかったでしょう。この御恩は、決して忘れません」
彼女は、俺たちの力の種類や大きさよりも、その「質」を感じ取っているようだった。
一番驚いていたのは、狼の獣人であるライガかもしれない。
彼は、俺が味付けしただけの塩焼きの魚を一口食べると、その場で固まった。
「なんだ、この塩は…!? 俺様は、王都のどんな高級料理店でも、こんなに純粋で、素材の味を引き立てる塩を食ったことがねえぞ!」
狼獣人のライガは俺の力の異常性を、食という全く別の角度から見抜いていた。
そうして、生存者全員が動けるようになった日の夕方。
彼らは、浜辺に集まっていた。もう、その首や手足に、奴隷の証である枷はなかった。
昨日、俺が一人一人の枷に触れて回ったのだ。
俺は【塩創造】を発動し、枷を構成する鉄の内部に含まれる、ごく微量の不純物と塩分に干渉した。そして、それを触媒として、強制的に、急速な酸化――つまり『錆』を発生させたのだ。
屈強なドワーフですら外せなかった分厚い鉄の枷が、まるで何十年も風雨に晒されたかのように、赤黒く錆びつき、ボロボロと崩れ落ちていく。その光景を、生存者たちは畏怖と驚嘆が入り混じった表情で見つめていた。
彼らの表情には、数日前までの絶望の色はない。あるのは、再生への希望と、俺たち二人に対する、揺るぎない信頼だった。
やがて、元冒険者のマルコが、全員を代表するように、俺とエリの前に進み出た。
そして、彼は深く、深く頭を下げた。
「俺たちは、あんたたちに命を救われた。奴隷という身分からも解放してもらった。この御恩は、一生かかっても返しきれねえ。どうか、俺たちをこの島の住民として使ってくれないか。どんなことでもする」
その言葉を皮切りに、ガイオンが、エルミナが、ライガが、マリアが、そして他の生存者たちが、次々とその場に膝をつき、頭を垂れた。
絶望の淵から救い出してくれた、見ず知らずの若い男女に、彼らは心からの忠誠を捧げようとしていた。
「ええっ!? 住民とか言われても困るんだけど…」
俺は、その光景に完全に戸惑っていた。ただ、目の前の命を救っただけなのに。
だが、俺の隣で、エリは静かに、そして毅然と、その光景を受け止めていた。彼女は、こうなることを予測していたのかもしれない。
二人だけの静かな楽園は、もう終わった。
目の前には、俺たちを「主」と仰ぐ、出自も種族もバラバラな数十人の人々。彼らの命は、間違いなく俺たちが救った。そして、明日からの彼らの生活は、俺たちの双肩に懸かっている。
重い責任と、騒がしい未来。
面倒事はごめんだと思っていたはずなのに、不思議と、嫌な気はしなかった。
むしろ、一人、また一人と立ち上がり、希望の光を目に宿していく彼らの姿を見ていると、胸の奥から、これまで感じたことのない熱いものが込み上げてくる。
意図せずして、俺は数十人の民を抱える「長」となったのだ。
夕日が、新しく生まれた小さな共同体を照らしている。その中心に立つ俺は、これから始まるであろう、騒がしくも新しい日々に、途方に暮れたような、それでいてどこか満たされたような、複雑な表情を浮かべるしかなかった。
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