原作曰く、私は悪役令嬢らしい(後)
ここに連れて来られて、数日が経った。
泣き叫ぼうが、暴れようが、助けは来なかった。
何日かに一度、食事が運ばれてくる。
食事と言って良いのか分からないが、もさもさとした食感のクッキーと飴玉、そして濁った水、それが数日分まとめて与えられるのだ。
バケツで用を足し、着替えはもちろん風呂にも入れない。
毎日、硬い床の上で毛布一枚を掛けて眠る。
日中も狭く汚い部屋の中で、何をするでもなく、一人で床に転がっている。
『良かったではないですか、原作とは違う結末になって。原作では斬首されたのでしょう?』
ふとビビから最後に言われた言葉を思い出した。
良かった?
これが?
こんな扱いを受けるぐらいなら、いっそ一思いに斬首された方が良かったに決まっている。
私は原作通りにならないよう、必死に努力してきた。
ビビを助け、殿下を助け、両親までもを助けてやった。
なのに私が助けた彼等は、誰も私を助けてはくれない。
役に立たない人間ばかりだ。
あんなに頑張った結果がこれなんて、悔しくて悲しくて、涙が出る。
本当なら私はロジェ殿下と結婚し、王妃になるはずだった。
聖女にだってなれていたかもしれない。
ビビさえいなければ、全て上手くいっていた。
アイツのことが、憎くて憎くて仕方がない。
けれど、もう遅いのだ。
殺してやりたい。
殺しておけば良かった。
そう何度思っても、何度後悔しても、もう遅い。
◇
どれくらいの日が経ったのか、もう分からない。
頭がぼんやりとして、体を起こすのも難しい。
どうして私がこんな目に、どうして、どうして。
護送担当者は「反省したらここから出してやる」と言っていた。
一体それはいつなのか。
私はもう十分反省している。
後悔もしている。
私が悪かったのでしょう?
私がビビを苛めたからいけなかったのでしょう?
私がロジェ殿下を奪ったから怒っているのでしょう?
ねぇビビ、私が悪かったから、反省しているから、ここから出して。
助けてよ。
『私は、あなた達を許さない』
あの時、まっすぐに私を見つめてきた強い眼差し。
そこには決して揺るがぬ覚悟があった。
そうだ、私は決して許されないのだ。
どんなに反省しても、謝っても、ビビは許してくれない。
それでも私は願わずにいられなかった。
ビビ、どうか私を許して。
聖女様なら私のことを許して、助けてよ。
願って、どうせ叶わぬ願いだと絶望し、また願って、絶望して。
「も、う……嫌……」
もう解放されたい。
神に愛された聖女様。
彼女に許されない私が、死によってこの苦しみから解放されるのかすらも怪しいけれど。
いや、きっと死してなお、苦しみは続いていくに違いない。
怖い。
死の恐怖、生きる恐怖、死ねない恐怖。
許して欲しい。
許されたい。
だけどビビは、私を許さない――……
次話、ロジェ殿下視点で番外編完結です




