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義姉曰く、私は悪役令嬢を断罪するヒロインらしいのです  作者: えんどう豆
番外編

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10/12

原作曰く、私は悪役令嬢らしい(中)

ビビの部屋へと駆け込んだあの日から、私は必死に良き姉であろうとした。


その結果、ロジェ殿下は私に好意を寄せてくれたし、ビビだって私のことを慕ってくれていた。

両親が悪事に手を染めようとしていた時も、なんとか思い留まるよう説得し、事なきを得た。


断罪される可能性は、可能な限り潰してきた。

完全に不安が取り除かれたわけではなかったけれど、きっと上手くいくと思っていた。



それなのに、それなのに私は今、罪人の中でもとりわけ罪の重い者が送られるという北の離島へと移送されていた。



手足を拘束され、猿轡を噛ませられ、視界も遮られた状態で、粗末な造りの馬車に揺られている。


自分以外のふーふーと荒い呼吸が聞こえていたので、途中までは両親も一緒だったはずだ。

けれど馬車を乗り換えて以降、呼吸音は聞こえなくなり、人の気配はたまに布ずれの音がする程度となった。

恐らく両親は別の馬車に乗り換えたのだろう。


もう二人には会えないかもしれない。

そう思うと、ドッと孤独感が押し寄せ、涙が溢れた。



「ふっ……ぐ、うぅッ……!」



猿轡のせいで息が上手くできない。

情けない声を上げて泣いていても、誰も助けてはくれない。


どうして私がこんな目に合わなければいけないのだろう。

私はこの三年間、自らの行いを悔い改め、善行を重ねてきた。

これまでの努力は、全て無駄だったのか。


ビビに食事やドレスを与え、傷を治してやった。

母との仲を取り持ち、ロジェ殿下とも会わせてやった。

ビビを救ってやったのは、私なのだ。


ビビと過ごした日々が、ビビに言われた言葉が、次々と思い起こされる。



『いつも良くしていただいて、お義姉様には感謝しています』


『私はお義姉様を断罪しません。お義姉様には幸せになって欲しいと、そう心から思っています』


『私が原作のようにお義姉様を断罪するなんてこと、絶対にありませんから』


『私は、あなた達を許さない』


『私はただ、あなた達にもう二度と会いたくないだけです。だからお願いします。どうか私の前から消えてください』


『お義姉様達が私の前から消えることで、やっと私は救われるんです』



アイツは従順なふりをして、ずっと私を騙していたのだ。

無害そうな顔して笑いながら、内心で私のことを馬鹿にしていたのだ。


アイツのことを思うと、ふつふつと怒りが沸いてくる。


やはりあの時、殺しておくべきだった。

そうすれば、聖女には私が選ばれていたかもしれない。

だってロジェ殿下に選ばれたのは、私だったのだから。


私は殿下と過ごす時、原作でのビビの振る舞いを少しだけ真似していた。

困難に立ち向かう姿を見せるため、王妃教育を利用し、教師から厳しい叱責を受けながらも健気に頑張る私を演じていた。

プレゼントを貰った時は、まるで初めて貰ったかのように大袈裟に喜んでみせた。

殿下が王太子としての責務に悩み、苦しみ始めたであろうタイミングで、原作のビビが言っていた言葉で彼を励ました。


そうして手に入れた彼の隣。

それもビビによって全て奪われた。


許せない。

ビビは私のことを許さないと言ったけれど、私だってお前を許さない。



――ドンッ



ビビへの恨みを募らせていれば、突然強く腹を殴られた。

蹴りを入れられたのかもしれない。


初めて感じる痛みと苦しさに、呻き声を上げることすらできなかった。



「今から馬車を降りる。足の拘束を解くが、逃げようなんて思わないことだ。良いな?」



淡々と告げられた言葉に、私は必死に頷いた。

従わなければ再び殴られるであろうことは明白だ。


腰に付けられた縄を引かれ、馬車を降りる。

しかし護送担当者が、目隠しされた状態の私を気遣う様子はない。

案の定、足を踏み外し、そのまま馬車から転がり落ちてしまう。

手が拘束されたままだったため、受け身をとることもできず、肩や腰、頬を強かに打ちつけた。


それでも護送担当者の歩みは止まらない。

縄を強く引っ張られ、痛みを気にする間もなく慌てて立ち上がった。


護送担当者は、無言で歩き続けている。

どこに何があるか分からないので、何度も体をぶつけ、何かに躓き、その度に縄を強く引っ張られた。

全身が痛み、息も上がり、どこに連れて行かれるのか分からない恐怖に、頭がおかしくなりそうだった。


そしてやっと立ち止まったかと思えば、再び腹を殴られた。



「ッ!!」


「今から全ての拘束を解く。暴れるんじゃないぞ」



腹の痛みに体を曲げて悶えるも、お構いなしに目隠しを外された。

久しぶりの光に目が眩んでいる間に、猿轡と手の拘束も(ほど)かれる。


私が連れて来られた場所は、小さな小さな部屋だった。

侯爵家のトイレよりも狭い場所に、毛布が一枚だけ置かれている。


部屋の様子に気を取られていれば、後ろからガチャンと扉の閉まる音がした。

慌てて振り向けば、扉があるべき場所には鉄格子が嵌め込まれ、鉄格子の向こう側に護送担当者が立っていた。



「ここで己の罪を自覚しろ。反省した頃に出してやる」


「こ、こで? 反省って……あ、ちょっと! 待ちなさいよ! ねぇ! トイレは!? ご飯は!? お風呂はどうするのよ!!」



必死に叫ぶも、護送担当者が戻ってくることはなかった。


他にもこれまでの扱いに対して文句を言ってやりたかったのに。

私は侯爵令嬢で、第一王子の婚約者だったのだから、それなりの扱いをするべきだろう。


舌打ちをし、改めて部屋の中を見渡してみる。

床に直置きされた毛布が一枚、バケツが一つ、窓が一つ。

それだけだ。

こんなところでどうやって生活しろと言うのか。


私はバケツを引っ掴み、鉄格子に向かって投げつけた。

誰かいないのかと叫んだけれど、自分の声が響くのみで、人の気配は欠片も感じられなかった。


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