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1.義姉曰く__

ある日を境に、義姉(あね)は不思議なことを口にするようになった。



『良い? 私はね、()()では悪役令嬢としてあなたを虐めたり陥れたりするけど、今の私はそんなことするつもりはないの。むしろあなたがヒーローと幸せになれるようサポートするつもりよ。……だからビビ、お願いだから私を断罪しようなんて思わないで。ね、お願いよ?』



義姉がこのようなことを言い出したのは、出会って数年が経った頃のことで、突然様変わりした彼女に初めはとても戸惑った。


義姉との出会いは、私が六歳の時のこと。

私は平民の母と侯爵である父の間に生まれた婚外子で、六歳までは母と二人、慎ましく暮らしていた。

しかし流行り病によって母が亡くなり、一人となった私を哀れに思ったのか、父が養子として引き取ってくれたのだ。



それが義姉との出会いであり、地獄の始まりだった。



不義の子であり、なおかつ平民の血が流れる私を、義母と義姉は大層嫌っていた。

嫌味を言われることは日常茶飯事。

躾と称して鞭打ちをされること、数百回……いや、もしかするとそれ以上かもしれない。

罰として数日ご飯を貰えないこともあったし、雪の降る日に裸同然の姿で外に出されることもあった。

汚いからと冷たい水をかけられることもあれば、熱湯をかけられることもあった。

いずれも父は見て見ぬふりをし、助けてはくれなかった。


そんなとにかく私が嫌いでたまらなかったであろう義姉が、ある日を堺に別人のように優しくなったのだ。

驚き、戸惑うのも無理はないだろう。


義姉はその一週間ほど前から高熱にうなされていたらしい。

らしいと言うのは、私は彼女に命じられて部屋で謹慎中だったので、当時の様子については知る由もなかった。

謹慎の理由は、ただ義姉の機嫌が悪かった、それだけだ。

「お前を見ると苛々するから、私が良いと言うまで部屋から出ないで」と言われてしまえば、私はそれに従うほかない。


そして、部屋に閉じ込められて数日が過ぎ、日付の感覚も分からなくなった頃。

バタバタと慌てて部屋へとやって来た義姉は、青褪めた顔でこう言った。



『ごめんなさい。これからは心を入れ替えて、良い姉になれるよう頑張るわ』



その日から義姉の態度と、私に対する扱いはガラリと変わった。


物置部屋から侯爵家の人間が使用する部屋へと移動し、服も義姉がお下がりを与えてくれた。

義母の命令でご飯が貰えない日は、義姉がこっそりと食べ物を持って来てくれた。

躾による傷や火傷は、義姉がくれた治療薬で治すことができた。

義母からの暴力も、義姉が説得してくれたことで徐々に落ち着いていった。




……義姉が部屋へとやって来たあの日、私の世界は変わった。

それは侯爵家に引き取られて、七年が過ぎた時の出来事だった。




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