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頑張れの声

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 ヴぁ~、暑い! 暑いですよ、先輩! おかしいですよ!

 普通、5月といったらまだまだ春のさわやかな風を感じながら、むにゃむにゃと猫みたいに顔洗っているときでしょう。それがなんで、もはやクールビズの心配をしなきゃいけないんです!

 うう、袖ありの服がもうしんどいよ~。冬さん、どうしてもう過ぎ去ってしまったの……。あれほどうとましかった寒さが、今ではこんなに恋焦がれるものだなんて……さよならばいばい、また来年。生きてりゃ会いましょ福は内だけが人生なんですねえ。


 う~、こんなときこそ、何か涼しい話しません? 涼しい話!

 ほら、先輩はしょっちゅうその手の話を聞いているでしょうが。ひとつやふたつやみっつやよっつ、すぐにほいほい出てきませんか? ほら、ハリー! ハリー! ハリアップ―! ですよ!


 ――誰かを動かしたければ、まずは手ずから燃料を入れてやることだ?


 あ~、はいはい分かりましたよ。こちらから少し提供しろといいたいんですね、まったくもう。

 じゃあ話しますけど、寒さに期待しないで下さいよ? 火種が小さいぶん、二倍でも三倍でも四倍にでもして返してくださいよ?



 冬に焦がれる今ならば、こたつの話にしましょうか。

 この時期じゃあ、考えるだけで汗が出てきそうなこたつの存在。それも数か月前は外から帰ってくる人、そうでなくとも寒さに震える人のよりどころとなり、足を入れられるやほいほいスイッチを入れられて、眠りから目覚めさせられたものでしょう。

 その酷使ぶりは、ひょっとするとテレビやパソコンなどとひけをとらないかもしれませんね。どちらもこたつに入りながら利用し続けること、ざらですから。

 機械たちも、働き続ければ熱が入る。気温的な暑さはかんべんですが、自分が動く、あるいは突き動かされることによって、生まれる熱は気持ちよくありませんか? 「私、いま最高に燃えてる!」て感じがして。

 ひょっとしたらこたつたちも、そう感じる日があるかもしれませんね。


 私がたまたま留守番を頼まれた、小学校低学年くらいの年末です。

 師走と字を書く忙しさは大人になるとより実感できますが、子供の間は細かい事情までは把握していないことがほとんど。そして大人が用事を果たすに、お荷物になることもままあるでしょう。

 そうなると、家で留守番を頼まれることがしばしばでした。少なくとも我が家では。

 その日も私は朝から留守番を任されて、こたつの中でごろごろしていました。

 クリスマス、お正月と子供にとってはいろいろもらえて楽しい時間ですけれど、その間の1週間程度は微妙な空白期間。先のように、親から戦力外通知をもらったときなどは、時間を持て余してしまうんです。

 夢中になれる趣味とかあれば、悩むこともないのでしょうけど、このときの私はそれらを持たず。特に興味のないテレビをつけて、のんべんだらりとチャンネルを回していました。


 Watchではなくseeであり、listenではなくhearである。

 ぼけっと、あー、この人見たことある顔、聞いたことある声だなあくらいで、私自身の思考はうわの空。いっそ眠ってしまったほうがいいんじゃないかと思っても、不思議と目も頭もさえていて、まぶたをつむる気にすらなれない。

 ふああ~と、すでに数えきれないあくびカウントに、追加の数をもうひとつ。こたつの天板にはみかんと麦茶が乗せてあり、当面はトイレ以外では動かずにすみました。

 その代わり、いざ足を出してみると、ぞぞっと鳥肌立つような寒気が襲ってくるんです。

 当時の我が家、エアコンという気のきいたものがございませんで。下半身をこたつに入れていても、さらされている上半身はガクブルもの……なんてことがありました。私が寒がりかつ、風邪ひきやすいからかもですけれど。

 なので、たまには寝転がってずっぽりこたつにつかり、首から下をまんべんなくあっためたりするんですよ。顔は手とかでばしばし叩けば、最悪なんとかなりますからね。


 そこまであったまると、さすがのさえてた頭もゆるんできたのか。多少はこっくり、こっくりしてきたのですが、ふと耳に入ってくる雑音が、私の意識を夢の入り江からかきもどしてきます。

 家の外からではありません。中からです。先ほどから聞き流している、テレビのほうからでした。

 画面を見ると政見放送のように、年配の男性ひとりが席についた様子を真正面から映した様子が見られました。背景は青一色で、ほかの人が立っている様子はありません。

 しかし、政見放送ならばその人の前などに名前や所属政党などを書いたプレートが置かれそうなのに、それがないときています。「んん?」と私はわずかに頭をあげて画面を見ました。


 どうも、雑音はこの人が発しているみたいでした。

 口を忙しく動かし、時に顔を前後左右へ軽く振るようなかっこうも見られ、ポーズのみなら熱弁のそれでしょう。

 しかし、聞こえてくるのは雑音。いえ、厳密には理解不能の言語の列で、しかも音そのものも小さめと来ています。試しにリモコンを取って最大音量にしてもたいして変わらず。

 試しにひょいと別のチャンネルに変えるや、部屋中いっぱいの騒音パラダイス。あわてて、ちゃちゃっと戻します。


 ――この人、何やってるんだろう?


 言動もチャンネルの状態も謎だらけ。

 それがかえって興味をひき、私はどうにか意味を読み取ろうと、顔をテレビに近づけようとしたのですが。


 にわかに、こたつの中が熱くなりました。

 火力のスイッチを最大限に押し上げたなどというものじゃなく、燃えるたき火へじかに下半身を突っ込まれたかのようです。

 たまらず一気に飛び出して、目を剥きましたね。まさか想像していたように、私の着ている服もズボンもその下もあちらこちらが焼け焦げ、中には火の粉がまじっているようなものさえあります。

 あわてて床の上をゴロゴロと転がりまわり、火を消したものの、もうこたつへはもぐれませんでした。またあの火をつけられるような熱さを味わうのは、さすがに酔狂が過ぎるのです。

 ひょっとしたら、火事になるんじゃ……などという心配は、「バチン!」という大きな音とともにテレビが消え、同時にこたつがうなったことで収まりました。

 こたつはうんともすんともいわず、スイッチを入れても動かず、壊れてしまったんです。

 それから、あの時間のチャンネルのことを後から誰に聞いたとしても、その政見放送みたいなものはやっていなかった、と返されてしまいましたね。

 でも、私の焼け焦げた服たちだけはウソじゃありませんでした。


 ひょっとしたらあの雑音は、私ではなく、稼働し続けるこたつへ向けた声援。応援歌だったのかもしれませんね。

 いわば地球の温暖歌……なんちゃって。ハッハッハ……。

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