表情
『……それにしても、うら若き数多の男女が一つ屋根の下……ふふっ、これは何の間違いも起きないほうが不自然というものですよね』
「いや何も不自然じゃありませんよ。そもそも健全な学校行事で何か間違いが起きちゃ駄目なんですよ」
『おや、何を仰っているのでしょう? 性欲とは人間の三大欲求の一つであり全く以て健全な――』
「……いや、それはそうですけども」
それから、10分ほど経て。
他愛もない会話に花を咲かせていた最中、何とも楽しそうにそんなことを言う白河さん。いや、確かに健全ですけども。あと、なんで楽しそうなんですか。
『ひょっとしたら、奏良先輩も誘われてしまうかもしれませんよ? ほら、あの日の件もありますし。私の下着を選んでいただいた、記念すべきあの日の』
「いや何の記念ですか。……それに、あれは冗談でしょう」
『冗談? 私の耳には、そのようには聞こえませんでしたが。まあ、それはともあれほんとに誘われたらどうします? 例えば……桜野先輩から、とか』
そう、続けて楽しそうに尋ねる白河さん。楽しそうではあるの、だけども……だけども、心做しか先ほどまでとはどこか――
「……あの、僕は――」
『……いえ、やっぱり止めにしましょう。流石に不躾な質問だったと、今更ながら反省しております。申し訳ありません、奏良先輩』
「……あっ、いえ……」
すると、僕の言葉を遮る形で通りそう口にする白河さん。いや、僕に謝る必要はないけれど……でも、良かった。仮の話とは言え、こんな形で話題にするのは桜野さんに申し訳ないしね。
『――それで、先輩。明日はどちらに――』
その後、ややあって話題転換とばかりにそう切り出した白河さん。そんな彼女に合わせ、僕も現時点での明日の予定を答えその後も会話を続ける。もちろん、とても楽しい時間ではあったのだけど……それでも、どうしてかさっきの……あの質問を掛けた時の、見えてもいない彼女の表情がふっと脳裏に浮かびズキリと胸が痛んで。




