一日目を終えて
「…………ふぅ」
それから、しばらくして。
木組みのベンチにて、ほっと息を洩らす僕。白月の浮かぶ澄んだ空の下、入浴時と同じく柔らかな夜風が心地好く頬を撫でる。今、僕がいるのは旅館からほど近くの小さな公園。あの後――入浴を終えた後、京野菜をふんだんに使用した美味しい夕食を堪能し、今ここでぼんやり空を見上げているわけで。
でも、ここに来た主たる理由はのんびり空を見上げるためでなく。ポケットから徐にスマホを取り出し、連絡先の『さ行』へと。……そう言えば、家族を除くとこの行が大半なんだよね、僕の連絡先。まあ、そもそも元が相当少ないんだけども。
ともあれ、今更ながらそんなことを思いつつお馴染みの名前にそっと触れる。そして――
「――こんばんは、白河さん。ご機嫌いかがですか?」
そう、ゆっくりと口を開き尋ねる。すると、ほどなく夜空のように澄んだ声音が心地好く鼓膜を揺らす。
『こんばんは、奏良先輩。ええ、概ね良好です。……ですが、どうにも人肌が恋しくて仕方がないようで。なので、先ほどまで頭の中に先輩を――』
「あっ、それ以上は大丈夫です」
『……むぅ、つれないですねぇ』
そんな彼女の言葉を、申し訳ないとは思いつつピシャリと遮る僕。……いや、前にも言いましたが報告しなくていいですからね? 是非とも、ご自身の胸中に留めておいていただけると。
『……まあ、それはひとまずさて措いて……私からお願いしておいてではありますが、本当に今お電話して大丈夫ですか? もしも無理に時間をとっていただいているのなら、本当にお気になさらなくて構いませんよ? あくまで、可能であればというお話なので』
すると、ややあってそう問い掛ける白河さん。ひとまずさて措いて、と言ったけど……え、またどこかで再開するの? 今のくだり。……まあ、それはともあれ――
「……はい、問題ありません。なので、どうかお気になさらないでください。それに、僕も白河さんとお話ししたかったので。今日のことも、記憶が新しいうちに貴女と共有したいと思っていたので」
『……そう、ですか。……ふふっ、全くしょうがないですねぇ、先輩は』
そう伝えると、揶揄うような口調で答えを返す白河さん。何の話かと言うと――先ほど彼女自身が言ったように、可能であれば旅行中のどこかで連絡してほしいとお願いされていた件で。
だけど、気にすることなんて何もない。そもそも、僕だってこの旅行での出来事を彼女と共有したいと思っていた。なので、この申し出はまさしく願ったり叶ったりなわけでして。




